映画「生きる」---黒沢明作品より
志村喬演ずる。ある初老の男が突如自分がガンに侵されており、あとせいぜい半年~
一年の命と知る。彼は市役所の課長でミイラとあだ名されるほどの「ことなかれ主義者」で
あったのだが、ここに至ってこれまで30年間自分が市役所でなしてきたことを何一つ
想い出せないことを知って愕然とする。死ぬ前に一つでもいい、ほんとうに「生きた」と
言えることをしたい! こうした叫び声につき動かされ、彼は住民の悲願でありながら
役所が真剣に取り組もうとしなかった児童公園を作ろうと思い立つ。
しかし、いざ彼が動き出すみると、だれも真剣に対処してくれない。ちよっと前まで
自分がドップリ漬かっていた役所の縄張意識・大儀名分・形式的を痛いほど知る。彼は、
土木課から公園課へ○○課からXX課へとおざにりの言葉だけ受けてたらい廻しにされる。
それでも彼は諦めない。冷笑され罵倒されても諦めない。ころんでもころんでも、さまざま
な課長へそして助役に頼み込み、ウンと言われるまでそこを動かない。そして、ついに彼の
情熱が人々を動かし児童公園は喚声し、その夜ブランコに揺られて名高い「ゴンドラの唄」
を歌い、彼はそこで息をひきとります。
もちろん、彼は人々に感謝されようという目的で公園を作ったわけではない。だれも自分
に感謝の言葉を投げかけなくとも、彼は子供たちがそこで喜んでくれるだけで、満足だった
のでしよう。