今の一会㊴・・・水雲問答---最終回
雲 人は現在の出会いを空しく、うかうかと過ごしてはなりません。人生にはいろ
いろな出会いがあるものです。まず人と人との出合い、人と仕事の出合いなど、
数えてみれば驚くほど多いものであのます。だからうっかりとこの出合いを過ご
してしまいますと、生涯二度とめぐってこない。ちょうど旅の美しい山水の景色
と同様でありましよう。だからつとめて今の苦労を忘れ、努力を重ねて、名を後
世に残したいものであります。そうでないと、旅で見た景勝の地を再び尋ねよう
とするうちに、目的を達しないで死んでしまうような結果になりかねません。
水 貴殿は今の苦を忘れて功を立て名を残すとおっしゃるが、これは功利的で、本
当の道理ではありません。故人の名君でもあり経世家は「夫れ仁人は其の義を正
して其の利を貪らず、其の道を明らかにしてその功を計らず」という有名な言葉
がありますが、これをよくよくお考えになるとよろしい。これはよく間違い易い
のでありますが、人間が全然利を貪らないでは生活できないではないか、という
意見があります。もっともなようで、実はそうではありません。理を貪るとか、
功を計るとすいうことは極く普通ことであって、それを否定しておるのではあり
ません。重点をあげておるのです。どうすることが道であるかということを明ら
かにすることが大切だというのであります。人間としての道、あるいは法則にか
なうということを故人の聖賢は申しておるのです。やりっ放しにすることなく、
一つの問題を完成しなければなりません。その機会を失って後の機を待つという
のは、昔も今も人の犯し易い誤りでありまして、時期を失してはならないという
のであります。