夕べから今朝にかけて雨が降っていたんだ。それもかなり激しくだ。天気予報では昼から晴れるというので、信じて家を出たよ。
天気予報のとおり、高崎についた昼前には雲の隙間に青空も見え隠れしはじめたんだ。明日は秋晴れまちがいなしだよ。
今日は高崎から南牧村まで行くんだ。距離はざっと40キロ。暗くなる前には南牧村の民宿に着くことができるだろう。
<高崎→下仁田→南牧村(泊)>
一緒に走っていただく自転車仲間のIWAさんが駅の階段を下りてきたよ。いつもと変わらぬいでたちだね。そこに何かホッとさせる人柄が感じられる。
IWAさんがあらかじめ調べてきてくれた人気店でお昼を食べたんだ。安くておいしい卵とじのカツ丼だよ。さすがに地元の人気店だね。入れ替わり立ち代り客の途切れることがなかったよ。(食べかけで失礼)
すっかり天気もよくなった。昨夜から今朝にかけての雨がうそのようだよ。
「きっと明日は、天気最高ですね」
「そうですね、最高でしょうね」
雨上がりでちょっと蒸し暑い。しかしペダルは軽いよ。
聖石橋だ。遠くに小さく高崎白衣大観音の姿が見えるね。
市街を抜けるとめっきり車の数がへった。
空はすっかり晴れて、いくらか涼しく感じられる秋の日ざしが降りそそぐ中を、ゆるやかな勾配で県道203号を上っていく。
「朝の雨がうそのようですね」
「ほんとにすっかり晴れましたね」
10%近い勾配の坂を700~800メートル上ったところで右手を見ると、白衣大観音の斜め後姿がまじかにそびえていたよ。この有名な観音様は標高190メートルの観音山の山頂にあり、観音像自体は41.8メートルもあるそうだ。
さらに県道203号を行くよ。紅く色づいた木々もちらほら。その下をIWAさんは力強く上っていく。
ほんとうに信じられないほどいい天気になったよ。遠く、明日走る御荷鉾山が見えるね。明日が楽しみだ。
県道171号は車がまったく来ない。旧道ではないが、まるで“旧道”というような雰囲気だ。すごくいいね。
県道をそれて、右へ細い道を入ると、またいっそう雰囲気がよくなったよ。
「いいですね、この道は」
「いいですね」
立ち枯れた木の姿が美しい。干してある稲わらが日をあびている。
上り坂になるとIWAさんが俄然速くなる。というより、みみ爺が遅くなるのか。
ゴルフ場の横断橋だね。立派なもんだね。ゴルフ場には金があるんだね。
県道に出たよ。道を少し間違えて遠回りをしたけれど、いい道を走ることができたのでよかった。
県道10号だ。この辺は富岡市になるんだね。青空の下を走るのはやっぱり気持ちがいいね。
この川は高田川だ。川北橋のうえから写したものだ。青空を映した小さな水面がきれいだよ。
しばらくは国道254号を行く。車が多いので、歩道を走ったり車道を走ったり。
天台宗の施無畏寺という寺の前を通過する。寄ってみたいが車が多く、道路を渡るのが面倒くさい。
あれは教会の建物だろうかね。比佐理橋北という三叉路だ。
国道をそれると、下仁田ネギの畑が広がっていたよ。下仁田ネギは他の品種のネギとくらべて太いのが特徴だね。
ネギ畑の向こうに横たわる山並みがきれいだ。
国道わきにある“道の駅しもにた”はなにやら工事中だったよ。よってみようかと思ったが、なんとなくやめた。
国道をはずれると、国道とは違ってとても静かな道だよ。
ふたたび国道だ。石渕橋の上からの鏑川の景色だよ。
ここは、はねこし峡というそうだ。下をのぞくと谷がとても深い。
上信電鉄の2両編成の車両だ。ほかにもいくつかかわいい塗装の車両があるらしい。
東部大橋からの眺めだよ。午後の日をあびた山と川がきれいだね。
こちらはまた別の橋だ。牧口橋というらしい。川は南牧川だよ。この川沿いに、今日泊まる南牧村まで行くんだ。
もうすぐ4時になるよ。日が傾いてきて、夕日に染まる紅葉が美しい。
しばらくは風景に目を奪われながら、少し急ぎ足にペダルを回したよ。
山陰にひたひたとよせてくる夕闇に、ひっそりと沈み込むように家々が並んでいる。
古い橋の向こうには、夕日をあびてきれいに色づいた山と、その背後には明日の天気を想わせる青空があるよ。
おや、こんな石仏があったよ。
“道の駅オアシスなんもく”で一休み。
「オアシスとは砂漠にあるものだが、ここは山ばかりだ。なんでオアシスと名をつけたのか意味がわからん」
IWAさんは道の駅の名前がいささか不服のようだ。
南牧川を渡って、川の反対側を走ってみる。
右手は南牧小学校のグラウンドだ。
ふたたび県道にもどる。村の家々は日暮れを迎えて静まり返っている。磐戸の集落だよ。
もうじき暗くなる。宿へ急ごう。
山の村は日が落ちるとたちまち暗くなるね。
道の先に小さく、とがった岩山が夕日を背にして立っている。大岩、碧岩というらしい。
やっと民宿に着いたよ。どうにか真っ暗になる前に着くことができてよかったね。
こちらの宿は、ぎりぎり昨夜予約が取れたんだよ。
ほかにいくつか宿をあたったけれど、すべて断られてしまったんだ。土日の直前だから無理もない。
こちらの民宿は何度電話をかけてもつながらず、だめもとで、とりあえず名前と電話番号を留守電に入れておいたんだ。
夜になっても連絡はなく、今回は御荷鉾林道はあきらめようと思っていたところ、9時過ぎになって、留守電に入れておいた民宿から電話がかかってきたんだよ。
「留守にしていてすみませんでした。明日は宿泊だいじょうぶですよ」
おかみさんは用事で山梨の知り合いのところへ行っていたそうだった。そして昨夜帰ってきたという。
建物はけっして新しくはないが、中に入ると部屋も廊下も浴室もトイレも、すべて掃除が行き届いていた。そのうえ畳も壁も、まるでリフォームしたばかりのようにきれいだったよ。
「自転車は玄関の中に入れてください」
「ほかのお客さんが入れなくなりませんか」
「だいじょうぶですよ。みんなキャンセルになっていますから」
さらに、
「せまかったら廊下に上げていただいてもいいですよ」
「いいえ、ここで十分です。そこまでいっていただかなくても、だいじょうぶです」
とIWAさん。
「たいせつな自転車に雨露があたらないですむのはほんとうにありがたいです」
おかみさんにビールを注いでいただいて、IWAさんは恐縮しながらも上機嫌だ。
料理はすべて新鮮な材料を調理したものだった。しかも、品のある味付けと盛り付けでと、てもおいしくいただいたんだ。
“おっ切り込みうどん”という郷土料理のおいしさは特別だった。山梨のほうとうにも似ていたが、なんとも上品な味だったんだ。このうどんを食べたら、もうすっかりお腹が一杯になってしまって、みみ爺はもちろん体積の大きなIWAさんもお釜のご飯には手が出せなくなったよ。
部屋は、8畳ほどの広さの部屋がふすまをへだてて二部屋用意されていたんだ。ふすまを開けたとき、そこに二人分の布団が敷いてあってびっくりしたんだ。まさか二部屋も使えるとは想ってもいなかったからね。まさに貸しきり状態だ。民宿の対応はみみ爺たち二人に至れり尽くせりだったよ。
「いびきがうるさいので、絶対に耳栓を用意してきてください」
来る前にIWAさんはつよく言ってたけれど、布団一組をテレビの置いてある部屋へ移すことで、二人それぞれ別々の部屋で寝ることができたので、いびきはお互いに気にせずに眠ることができたよ。
夜中に目が覚めたとき、IWAさんのいびきはほとんど聞こえなかった。IWAさんが気にするほどではないようだったよ。
IWAさんのいびきのかわりに、遠くの方でひゅう~、ひゅう~と不思議な音が聞こえた。それはなんだかとても物悲しい響きで、みみ爺は妙に目が覚めてしまったんだ。何の音だろう。動物の鳴き声のようでもあるし、遠く山の中ので吹く笛の音のようでもあったんだ。なんだろうと考えているうちに、いつかまた眠ってしまった。くるまっている布団は、民宿にありがちなしけっぽさもなく清潔でとても温かかったよ。
明日はいよいよ御荷鉾スーパー林道へ出撃だよ。
天気予報のとおり、高崎についた昼前には雲の隙間に青空も見え隠れしはじめたんだ。明日は秋晴れまちがいなしだよ。
今日は高崎から南牧村まで行くんだ。距離はざっと40キロ。暗くなる前には南牧村の民宿に着くことができるだろう。
<高崎→下仁田→南牧村(泊)>
一緒に走っていただく自転車仲間のIWAさんが駅の階段を下りてきたよ。いつもと変わらぬいでたちだね。そこに何かホッとさせる人柄が感じられる。
IWAさんがあらかじめ調べてきてくれた人気店でお昼を食べたんだ。安くておいしい卵とじのカツ丼だよ。さすがに地元の人気店だね。入れ替わり立ち代り客の途切れることがなかったよ。(食べかけで失礼)
すっかり天気もよくなった。昨夜から今朝にかけての雨がうそのようだよ。
「きっと明日は、天気最高ですね」
「そうですね、最高でしょうね」
雨上がりでちょっと蒸し暑い。しかしペダルは軽いよ。
聖石橋だ。遠くに小さく高崎白衣大観音の姿が見えるね。
市街を抜けるとめっきり車の数がへった。
空はすっかり晴れて、いくらか涼しく感じられる秋の日ざしが降りそそぐ中を、ゆるやかな勾配で県道203号を上っていく。
「朝の雨がうそのようですね」
「ほんとにすっかり晴れましたね」
10%近い勾配の坂を700~800メートル上ったところで右手を見ると、白衣大観音の斜め後姿がまじかにそびえていたよ。この有名な観音様は標高190メートルの観音山の山頂にあり、観音像自体は41.8メートルもあるそうだ。
さらに県道203号を行くよ。紅く色づいた木々もちらほら。その下をIWAさんは力強く上っていく。
ほんとうに信じられないほどいい天気になったよ。遠く、明日走る御荷鉾山が見えるね。明日が楽しみだ。
県道171号は車がまったく来ない。旧道ではないが、まるで“旧道”というような雰囲気だ。すごくいいね。
県道をそれて、右へ細い道を入ると、またいっそう雰囲気がよくなったよ。
「いいですね、この道は」
「いいですね」
立ち枯れた木の姿が美しい。干してある稲わらが日をあびている。
上り坂になるとIWAさんが俄然速くなる。というより、みみ爺が遅くなるのか。
ゴルフ場の横断橋だね。立派なもんだね。ゴルフ場には金があるんだね。
県道に出たよ。道を少し間違えて遠回りをしたけれど、いい道を走ることができたのでよかった。
県道10号だ。この辺は富岡市になるんだね。青空の下を走るのはやっぱり気持ちがいいね。
この川は高田川だ。川北橋のうえから写したものだ。青空を映した小さな水面がきれいだよ。
しばらくは国道254号を行く。車が多いので、歩道を走ったり車道を走ったり。
天台宗の施無畏寺という寺の前を通過する。寄ってみたいが車が多く、道路を渡るのが面倒くさい。
あれは教会の建物だろうかね。比佐理橋北という三叉路だ。
国道をそれると、下仁田ネギの畑が広がっていたよ。下仁田ネギは他の品種のネギとくらべて太いのが特徴だね。
ネギ畑の向こうに横たわる山並みがきれいだ。
国道わきにある“道の駅しもにた”はなにやら工事中だったよ。よってみようかと思ったが、なんとなくやめた。
国道をはずれると、国道とは違ってとても静かな道だよ。
ふたたび国道だ。石渕橋の上からの鏑川の景色だよ。
ここは、はねこし峡というそうだ。下をのぞくと谷がとても深い。
上信電鉄の2両編成の車両だ。ほかにもいくつかかわいい塗装の車両があるらしい。
東部大橋からの眺めだよ。午後の日をあびた山と川がきれいだね。
こちらはまた別の橋だ。牧口橋というらしい。川は南牧川だよ。この川沿いに、今日泊まる南牧村まで行くんだ。
もうすぐ4時になるよ。日が傾いてきて、夕日に染まる紅葉が美しい。
しばらくは風景に目を奪われながら、少し急ぎ足にペダルを回したよ。
山陰にひたひたとよせてくる夕闇に、ひっそりと沈み込むように家々が並んでいる。
古い橋の向こうには、夕日をあびてきれいに色づいた山と、その背後には明日の天気を想わせる青空があるよ。
おや、こんな石仏があったよ。
“道の駅オアシスなんもく”で一休み。
「オアシスとは砂漠にあるものだが、ここは山ばかりだ。なんでオアシスと名をつけたのか意味がわからん」
IWAさんは道の駅の名前がいささか不服のようだ。
南牧川を渡って、川の反対側を走ってみる。
右手は南牧小学校のグラウンドだ。
ふたたび県道にもどる。村の家々は日暮れを迎えて静まり返っている。磐戸の集落だよ。
もうじき暗くなる。宿へ急ごう。
山の村は日が落ちるとたちまち暗くなるね。
道の先に小さく、とがった岩山が夕日を背にして立っている。大岩、碧岩というらしい。
やっと民宿に着いたよ。どうにか真っ暗になる前に着くことができてよかったね。
こちらの宿は、ぎりぎり昨夜予約が取れたんだよ。
ほかにいくつか宿をあたったけれど、すべて断られてしまったんだ。土日の直前だから無理もない。
こちらの民宿は何度電話をかけてもつながらず、だめもとで、とりあえず名前と電話番号を留守電に入れておいたんだ。
夜になっても連絡はなく、今回は御荷鉾林道はあきらめようと思っていたところ、9時過ぎになって、留守電に入れておいた民宿から電話がかかってきたんだよ。
「留守にしていてすみませんでした。明日は宿泊だいじょうぶですよ」
おかみさんは用事で山梨の知り合いのところへ行っていたそうだった。そして昨夜帰ってきたという。
建物はけっして新しくはないが、中に入ると部屋も廊下も浴室もトイレも、すべて掃除が行き届いていた。そのうえ畳も壁も、まるでリフォームしたばかりのようにきれいだったよ。
「自転車は玄関の中に入れてください」
「ほかのお客さんが入れなくなりませんか」
「だいじょうぶですよ。みんなキャンセルになっていますから」
さらに、
「せまかったら廊下に上げていただいてもいいですよ」
「いいえ、ここで十分です。そこまでいっていただかなくても、だいじょうぶです」
とIWAさん。
「たいせつな自転車に雨露があたらないですむのはほんとうにありがたいです」
おかみさんにビールを注いでいただいて、IWAさんは恐縮しながらも上機嫌だ。
料理はすべて新鮮な材料を調理したものだった。しかも、品のある味付けと盛り付けでと、てもおいしくいただいたんだ。
“おっ切り込みうどん”という郷土料理のおいしさは特別だった。山梨のほうとうにも似ていたが、なんとも上品な味だったんだ。このうどんを食べたら、もうすっかりお腹が一杯になってしまって、みみ爺はもちろん体積の大きなIWAさんもお釜のご飯には手が出せなくなったよ。
部屋は、8畳ほどの広さの部屋がふすまをへだてて二部屋用意されていたんだ。ふすまを開けたとき、そこに二人分の布団が敷いてあってびっくりしたんだ。まさか二部屋も使えるとは想ってもいなかったからね。まさに貸しきり状態だ。民宿の対応はみみ爺たち二人に至れり尽くせりだったよ。
「いびきがうるさいので、絶対に耳栓を用意してきてください」
来る前にIWAさんはつよく言ってたけれど、布団一組をテレビの置いてある部屋へ移すことで、二人それぞれ別々の部屋で寝ることができたので、いびきはお互いに気にせずに眠ることができたよ。
夜中に目が覚めたとき、IWAさんのいびきはほとんど聞こえなかった。IWAさんが気にするほどではないようだったよ。
IWAさんのいびきのかわりに、遠くの方でひゅう~、ひゅう~と不思議な音が聞こえた。それはなんだかとても物悲しい響きで、みみ爺は妙に目が覚めてしまったんだ。何の音だろう。動物の鳴き声のようでもあるし、遠く山の中ので吹く笛の音のようでもあったんだ。なんだろうと考えているうちに、いつかまた眠ってしまった。くるまっている布団は、民宿にありがちなしけっぽさもなく清潔でとても温かかったよ。
明日はいよいよ御荷鉾スーパー林道へ出撃だよ。