さあ、いよいよ今日は風張峠だ。
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なんでもこの峠は都内の最高標高の峠だそうだよ。奥多摩周遊道路の最高地点だね。奥多摩周遊道路といえば、車や暴走オートバイが多いと聞く。行ってみたいとは前から思っていたんだけど、そのことがあって何となく気が進まず、延ばし延ばしになっていたんだ。でもこの頃“先週かな?”土日祭日はともかく、平日だからそれほどでもないだろうと思うようになって、決心したんだよ。
ただ、もう一つ気になっていたのはクマさんのことだ。奥多摩方面は出没情報がだいぶあるようだよ。なにせ臆病だからね、みみ爺は。それでクマよけの鈴を用意したよ。ダイソーで買った大きな鈴を2つ。音色はともかくとりあえず鳴る。
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念のため、出発前に奥多摩駅の近くにあるビジターセンターに立ち寄って、クマの出没情報を確認したんだ。壁に貼られた奥多摩地図のあちこちにクマの出没箇所マークがたくさんついていたよ。ほんとに、どこに出てきても不思議はないくらいたくさん生息しているらしい。大きな声で歌でも歌いながら行くか、鈴を鳴らしながら行けば大丈夫でしょうと言われたよ。みみ爺は歌が下手だからもちろん後のほうに決めた。
奥多摩湖まではトンネルが多い国道を避けて、今回もむかし道を行くことにしたよ。車の多いトンネルは怖いからね。それに、実はむかし道の紅葉が見たかったのさ。時期的にはちょっと早いかもしれないけれど、まあ見られないこともないだろうね。
コンビニでお昼のおにぎりや水を買い込んで、さあ、むかし道へ。
起点を入るといきなり激坂の羽黒坂だよ。前に来たときは、起点から入ったんじゃなかったから、この坂は今日が初めてだ。よし、上ってやると意気込んでみたけれど、あえなくダウン。みみ爺のひ弱な足ではペダルが回らなくなった。仕方なく押して上るが、押しは意外と疲れるんだよ。すぐに息がはずんでくる。
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ガレガレの細い山道を押していくと、やっと自転車に乗れそうな道に出たよ。押して歩くより、ペダルを踏むほうがずっと楽だね。天気は予報どおりに晴れてくれた。よかった、よかった。
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ここは旧水根線、ダム建設に使用した小河内鉄道のトンネルの上だね。苔むしたコンクリートの手すり、石がごつごつした細いダート道。ランドナーだからこんな道でも走れるよ。
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槐木(さいかちぎ)にある馬頭観音像だよ。昔はお馬さんもこの道でずいぶん苦労したんだろうね。
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やっぱり紅葉は始まっていたね。黄や赤に色づいた木々がそこかしこに見られるようになったよ。
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再びダート道だ。タイヤがオープンサイドなので、ダートでも乗り心地は悪くない。革のサドルも最高だね。ついぞお尻が痛いと思ったことがないよ。
静かだなあ。平日だからだろうね。日曜や祭日だったらきっとハイカーがたくさんいるんだろうな。平日走れるのも仕事がなくなった爺さまの強みかね。そういえば、たまに行きあうハイカーも爺さまや婆さまたちだよ。
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下に見えるのは国道の境橋と橋詰トンネルの入り口だよ。走っている車もそれほど多くはないようだね。
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白髭神社の階段だ。
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耳神様だ。みみ爺は昔、生まれて間もなく中耳炎にかかり、手術をして治してもらった。もっと昔は耳の病気を治してくれる医者もいなくて、こうした耳神様にご利益を祈ったんだろうねえ。
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黄や赤に色づいた木々が山肌を明るく彩っているよ。松姫峠に行くときに通った時には、まだ山は緑一色の夏姿だった。秋はきれいだねえ。でも、冬へ向かうどこかはかなさも感じてしまうよ、みみ爺は。春の桜、秋の紅葉、いずれも時の流れとともに消えていく美しさなんだね。なーんてね。
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ゆらゆら揺れてちょっと怖いしだくら吊り橋だよ。
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そして吊り橋の下の惣岳渓谷。深い水の色と紅葉。怖くて下をのぞき見ることができないよ。
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しばらく行くと、今度は道所吊り橋。似ているけれどこちらの吊り橋はそれほど揺れなかったよ。揺れるのは怖いが、揺れない吊り橋はつまらん。
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こちらの渓谷は、水が深くないんだね。だから水の色が違うよ。
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吊り橋の上から山の紅葉を見上げる。う~ん、きれいだねえ。
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西久保の切り返しを過ぎて一休みさ。
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国道の中山トンネルを抜けたところで、お猿さんを見つけたよ。感電しないのかねえ。気をつけておくれ。バイバイ。
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奥多摩湖に着いたよ。平日はいいねえ。人が少なくて静かだよ。晩秋の、弱いけれど暖かい日差しを浴びて、いつまでものんびりしていたいような穏やかな場所だよ。
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風もなく、対岸の山が湖面に逆さまに映っているよ。お見事。
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紅葉と湖がきれいだなあ。やっぱり来てよかったよ。
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浮橋だ。いつかあれを渡ってみたいね。橋の上でのんびり釣りをしている人がいるよ。気持ち良さそうだね。
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深山橋を渡って、次はこの三頭橋を渡るんだ。そしていよいよ風張峠へ向かう奥多摩周遊道路だよ。以前は有料だったらしいが、今はただで通れるんだね。
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右が深山橋、左が三頭橋だよ。
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やっぱり車やバイクが少ないようだよ。平日に限るね。これから峠までずっと上りだよ。頑張ろう。
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奥多摩湖がだんだん下になって行く。いい眺めだなあ。一人で見るのがもったいないね。、
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何やら怪しい動物の糞が落ちていたんだ。この辺りにもクマさんは出没したらしいから、もしかしたら…。鈴がよく鳴るように足につけることにしたよ。しかし大きな鈴だね。効き目あるかね。臆病なみみ爺だからね。笑わんでくれ。
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途中、工事中の個所がいくつかあったよ。片側一車線のみの通行になっていて、工事個所の向こう側とこちら側とで、トランシーバーで連絡しあっていた。長いところでは工事区間が数百メートルもあったよ。ずっと上り坂だからみみ爺の足では早く走れない。時速5~6キロのスピードがやっとだ。ようやく工事区間を抜けると、かわいそうに何台もの車が列をなして止められていたよ。すまないねえ。はた迷惑な爺さまの自転車で。
旗を持った工事関係者に会釈を送って、えっちらおっちらペダルをこいで行く。
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松姫峠を上った時は、もう駄目だという休みを何度も取った末に、やっとこさ峠に辿り着いたけれど、今日は頑張ればずっとこぎ続けられるくらいの勾配だよ。それで、あまり休みは取らずに頑張ったんだ。それがいけなかったね。頑張りすぎたせいか、ずっと後になって膝に来たよ。
ようやく月夜見第一駐車場に着いた。ここは奥多摩周遊道路の絶景ポイントになっているらしい。はるか下に奥多摩湖の青い湖面が見えるよ。確かにきれいだねえ。この景色を見られただけでも今日来たかいがあるというものだよ。
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さあ、峠まであと少しだ。ガンバレ、ガンバレ。すでに時間は1時半だ。のんびりはしていられない。日が暮れちゃうよ。峠に着いたらお昼にしよう。そろそろお腹もすいてきたよ。
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やっと風張峠に着いた。眺望はないよ。
この写真は奥多摩周遊道路から林道に自転車を担ぎ入れたところだよ。車やバイクは入れないんだ。ここでお昼を食べることにしたんだ。おにぎりとサラダ、それにカップヌードルとコーヒーさ。お湯が沸くのを待つ間、風に散る落ち葉の音にびくびくしたよ。どうかクマさん出てこないでおくれと念じながら急いで食べたよ。
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2時45分。なんだか日差しが弱まってきたよ。ちょっと心細くなってくるね。秋の日は暮れるのが早いからなあ。
いよいよ今日一番の楽しみだった風張林道だ。ここを下って行くんだよ。なんだ下るのかなんて笑わないでくれ。若くはないんだ。
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いきなり急な下り坂だ。この林道は激坂で有名なんだよ。若ければ下から上れるかもしれないけれど、みみ爺には無理だね。でも、どうしても通ってみたい林道だったので、下りで走ることにしたんだよ。
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道幅は3メートル位で、舗装はされているが、恐ろしく急な坂だ。そして、こんな場所があるんだ。右側は遥か下の谷底まで落ち込んだ急斜面だよ。それなのにガードレールも何もないんだ。恐ろしくて、もちろんスピードは出せないし道の端にも近寄れないよ。
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けれど、ここはすごい絶景だったんだ。今日一番の絶景ポイントと言ってもいいかなあ。林道の景色には、訪れない限り大方の人が一生目にすることがない景色があるんだよ。今この景色をしっかり目に焼き付けておこう。はるか遠くに東京のビル群が見えるよ。
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さらに激坂を下って行くよ。ハンドルバーの下を持ち、ブレーキレバーは握りっぱなしだ。ブレーキが壊れたら即あの世行きだよ。このごろ、あの世に行くことはそんなに怖いと思わなくなったけれど、こんな恐ろしいあの世行きは嫌だねえ。
2キロほど下って、倉掛の小さな集落まで下りてきたよ。傾きかけた日差しが暖かい。こんな山奥にも人が暮らしているんだね。のんびりした空気に少しほっとしたよ。もちろん、クマさんに出会わずに済んだこともほっとした理由の一つだけどね。はい。
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倉掛を過ぎて再び激坂を下る。ほんとにすごい激坂だ。自転車をこいで上るなんてとても出来ん。ああ、下りでよかった。風張林道は下りに限るね。これを上るなんて正気の沙汰じゃないよ。
坂の途中、また景色のいいところがあったよ。
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激坂を下って、道が少し落ち着いてきたよ。それでもまだかなりきつい勾配だけどさ。谷間でちょっと薄暗い白岩沢に沿って下って行く。
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檜原村を過ぎるころは日がだいぶ傾いていたよ。
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予定では、武蔵五日市から、心霊スポットだという小峰峠の小峰隧道を通って高尾まで行くつもりだったけど、今日は諦めることにしたよ。小さな峠だけれど、暗くなってきたし、それに今頃になって膝の両側の筋肉が悲鳴を上げ始めたんだ。ほんの少しの上り返しでも痛くて力が入らなくなったんだよ。やっぱり頑張りすぎないで、時々休みを入れないとだめだね。もう若くはないんだからさ。
秋川の流れを横目に道を急ぐ。
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痛む膝でペダルをこぎながらも、不思議な事にもう次に行くところをあれこれ考えているんだよ。けれど、じき冬が来るんだ。今年もやがて暮れていく。あっという間に一年が過ぎていくよ。年をとると本当に一年が早く過ぎていくねえ。なんでも、年をとると体内時計の速度がだんだん遅くなって来るからということらしいよ。よくわからんけれど、若い時には皆と同じように速く歩けたのに、年とともに自分の足が遅くなっているのに気付かず、なんでみんなあんなに速く歩くんだろうって思うのに似ているのかね。
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行ってみたい峠や林道がたくさんある。生きているうちに、そのうちのいくつ行くことができるだろかね。みみ爺は、上り坂は嫌じゃないんだ。いやなのは膝の痛みと坂を上っている時に過ぎて行く時間の速さだよ。日暮れがもっともっと遅いといいんだけどなあ。
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風張林道はまた走ってみたい。だけど、多分もう一生走ることもないだろうなあ。さみしいなあ。使い古された言葉だけど、自転車の旅には自転車でしか味わえない風景があるよ。みみ爺、ペダルがこげる間はまだまだ旅を続けよう。