翌朝、民宿のおかみさんに聞いてみた。
「鹿は鳴きますか」
「鳴きますよ。今朝も鳴いていましたよ。聞こえましたか」
「ええ、聞きました。夜中にも、明け方にも、ひゅう~、ひゅう~と聞こえましたが、あれは鹿の鳴き声ですよね。なんだかとても悲しげに聞こえました」
夜中にふと目が覚めたとき、布団の中で耳にした遠い笛の音のような不思議な音を思い出す。
「IWAさんは聞こえましたか」
「いいえ、わたしは」
若いIWAさんは眠りが深かったんだね。
「熊は出ますか」
「熊も出ますよ。鹿やイノシシはしょっちゅう出ます」
まだ夜が明けたばかりの、宿の窓からの景色だよ。静かな景色だ。
「川の向こうの銀杏が黄色く色付くととてもきれいなんですよ」
昨夜おかみさんが言っていた銀杏はたぶんあの銀杏だろう。形のいい、きれいな銀杏だね。まだすっかり黄葉はしていないが、十分に見事な美しさだよ。

朝食だよ。
定番の鯵の開きが出てくるかとおもったら、新鮮な鮭の切り身が出てきたのでうれしかったね。それに南牧村の名物のしそ巻きもあって、とてもおいしくご飯をいただいたよ。

さあ、いよいよあこがれの御荷鉾スーパー林道へ出発するよ。とてもよく晴れた朝だ。きっとすばらしい景色に出会えるだろうね。
民宿の玄関の前でおかみさんに写していただいたよ。

<南牧村(民宿)→大仁田ダム→御荷鉾スーパー林道→児玉>

本当にいい民宿だったよ。また来たいと本気でおもったほどだ。
冷たい朝の空気の中を、まずは大仁田ダムをめざしてペダルをこいでいくよ。
大仁田川の水音が谷間に響いている。道はすこしずつ勾配をましてくるよ。



青空の下、朝日をあびた山々がすごくきれいだ。左手の少しとがった山は、きっと烏帽子岳だろう。烏帽子岳は特徴のある形をしているよ。

朝明けから間もない大仁田の集落だよ。古びた橋、そしてひっそりと静まりかえった家々のたたずまい。雰囲気のあるいい景色だね。


大仁田ダムだ。
集落を過ぎるあたりから勾配がまして、ダムまでの2キロほどは10%を超えるところもあってちょっとつらかったよ。


いよいよ林道を上っていく。
御荷鉾スーパー林道の起点は、南牧村の雨沢からさらに南牧川に沿って県道93号を進んだ勧能というところにあるのだが、今は日が短い季節なので無理をせず、ここから林道に入ることにしたんだよ。

序盤かなりきつい勾配を上ると、左手にきれいな山の姿が現れた。青空を背に、朝日をいっぱいに受けている。紅葉もちらほら見られるよ。
あの山は、たぶん三ッ岩岳だろう。

そしてこちらは南牧村や下仁田方面の景色だ。もう、かなり上ってきたんだね。

舗装路はダートに変わったよ。勾配はすこし落ち着いたが確実に高度を上げていく。


日差しは明るく、空気は冷たく、ダートの上りには最適なコンディションだよ。


沢すじにすっと立つ大きな木が目に止まった。

昨日の朝の雨で水溜りもできていたよ。

静かだなあ。山々の景色もすばらしいなあ。いい林道だなあ。



このあたりのダートは勾配もかなり厳しいよ。10%ほどだ。路面の状態は大きめの石が多く、とてもガレている。
IWAさんはパンクを警戒して歩き始めた。
IWAさんの自転車はブロックタイヤをはいていたが、リアのタイヤがかなりすりへっていたんだ。
「そろそろ替えようとおもっていたんです」
みみ爺も、大きな石ころに乗り上げてともするとバランスを崩しそうになるので、自転車を押すことにしたよ。
しばらくは二人とも自転車を押して歩いたが、IWAさんの歩く速さはみみ爺よりはるかに速いんだ。みみ爺は時速3~4キロ、IWAさんは5~6キロのスピードだよ。どんどん距離が広がっていくんだ。

山の形が奥武蔵や秩父辺りとは違うね。ゴツゴツしていてとても力強い山容だよ。
「房総の山とは全然違いますね」

トンネルだよ。このトンネルを抜ければ塩之沢峠への下りになるのだろうか。

トンネルの出口の方は日があたっていて、紅葉が輝いている。

トンネルから先は下りになるのかと思ったら、ダートのままなおも上りが続くよ。
しかし落葉や紅葉が最高にいい雰囲気だ。空気もとてもひんやりとしていて気持ちがいい。


ようやく舗装路に変わったよ。長く厳しいダートだったっよ。

久々の舗装路の下りはじつに快適だよ。

垂直に切り立った崖を、真下から写したんだ。青空と紅葉がすばらしい。
頭上に垂直に立った崖はすごい迫力だよ。

どこを見ても日ざしと紅葉がいっぱいだ。

ここが塩之沢峠だよ。正面の道は“西上州やまびこ街道”で、南牧村、下仁田へ下る道だ。スーパー林道は右手へ上っていくんだよ。

塩之沢峠からこのトンネルまでのおよそ600メートルはいくらかきつい勾配だったが、そこからの勾配はすこし落ち着いたよ。

途中の景色を楽しむ余裕もうまれた。


秩父方面の二子山や両神山も遠く望むことができたよ。


真っ赤な紅葉が美しい。

林道から急勾配のコンクリート舗装の道を上がったところにある御荷鉾スーパー林道展望台からの景色だよ。まさに絶景だね。秩父の山々から山梨方面の大弛峠の方まで見渡せる。すごい展望だ。


マウンテンバイクで来ていた若者に写してもらったよ。

展望台から林道へもどる道だが、やっぱりかなりの勾配だったね。みみ爺は上ってくる途中で力尽きて自転車を押してきたんだよ。

快適な舗装路を行く。


木でできた砂防ダムだよ。

ここは10年ほど前の台風で大崩落したところだ。舗装路が跡形もなく消えている。ここからの展望は、先ほどの展望台からのものと比べても負けず劣らずすばらしかったよ。




崩落箇所を迂回する道はダートだ。

舗装路にもどるのかと思ったら、ずっとダートのままだったよ。IWAさんはとても速い。すぐに姿が見えなくなる。




ダートの路面の状態がすこしよくなって、また自転車にまたがる。


杖植峠付近だ。標高1477メートル。このへんが御荷鉾スーパー林道のピーク地点だね。

峠からすこし下ったあたりで、枯葉の上に腰を下ろしてお昼にしたんだ。
ちょっと大きめのおにぎりと玉子焼きがとてもおいしかった。
民宿で用意してくれたお弁当には、このほかに黒砂糖のお菓子とアメ、それにペットボトルのお茶までついていたんだ。民宿のおかみさんに大感謝だよ。

「民宿、よかったですね」
「よかったですね」
「今日はIWAさんにご一緒していただいてほんとうによかったです。私一人ではちょっと自信がなかったんですよ」
さていよいよ下りだ。時刻は午後2時にすこし前だよ。日が暮れるまであと3時間ほどだ。急いで下ろう。林道途中で日暮れを迎えたらとても危険だからね。

走りやすいがダートは続くよ。

小さな展望所があったよ。熊出没注意とある。

オレンジ色のウインドブレーカーを着た熊さんか?

木々にさえぎられて展望はなかったよ。

神流町の標識だ。ここからようやく舗装路に変わるのかな。

雲が出てきてちょっと心配になったよ。


これも垂直に切り立った崖を、カメラを上に向けて写したんだ。

紅葉がきれいだね。御荷鉾林道は今が紅葉のピークかもしれない。

舗装区間はそれほど長くは続かなかったよ。道はふたたびダートにもどってしまったんだ。

「苔がいい感じですね」
と、IWAさん。

落ち葉と紅葉がすばらしい。

木の枝越しに富岡、高崎方面が眺められたよ。

ダートの道はまだまだ続くよ。でも走りやすい路面だ。

公園休憩所だね。

こちらの管理棟には無料のウォーターサーバーがあるんだ。みみ爺はからになったペットボトルに水を満たさせていただいた。

それにしても、みごとに色付いているね。

ダートの下りはまだまだ続くよ。


「形のいい山ですね」
と、IWAさん。
たぶん御荷鉾三山だ。手前がオドケ山、左が西御荷鉾山、右奥が東御荷鉾山だね。夕日をあびて、紅葉がすばらしい。

ようやくダートが終わったようだよ。時刻は3時半を過ぎた。山陰はもう薄暗くなってきた。

道を急ぐ。


ここが塩沢峠だね。御荷鉾スーパー林道には、塩之沢峠と塩沢峠と名前の似た峠が二つあってまぎらわしいね。

山はいよいよ日暮れが迫る。道を急ごう。暗くなる前に林道を出なければね。


ひたすら下り坂をとばすよ。秋葉峠もそのまま通過だ。


ここは西御荷鉾山の登山口になっているところだ。“不動明王三叉の鉾”だね。天を突き刺すように立っている巨大な立派な鉾だよ。
不動明王の足元にも三叉の剣(鉾)が供えられているね。


「現在の標高はまだ1000メートル以上あります」
「ずいぶん下ってきたようですけど、まだそんなにあるんですか」
と、IWAさん。

先を急ぐ。林道は刻一刻と暗くなってくるよ。林道を出るまであとどのくらい時間がかかるのかわからない。とにかく暗くなる前にはなんとか林道を脱出したい。

こんなきれいな山の夕暮れの景色を横目に、ひたすら下って行く。

後ろから、
「そんなに急がなくても…危ないですよ」
と、IWAさん。
しかし、ちょっと心配なみみ爺は急勾配の下り坂をとばす。

日が落ちるよ。


美原トンネルを抜けてまもなく、三波川へ下る道へ。

やっとのことで三波川だよ。いい感じの古い橋があった。


ようやく県道177号に出たよ。
暗くなる前になんとか林道を出ることができて一安心だ。

後はただ児玉駅へ向かうだけだ。
御荷鉾スーパー林道はほんとうに景色のすばらしい林道だったね。
ところで、みみ爺は今、五木寛之の「親鸞」という小説にはまっているんだ。
弟子の唯円が親鸞に語るところがある。
「浄土を憧れる気持ちは本当でございます」「それでも私は、大好きなものがこの世にたくさんあるのです。朝はやくおきて凜とした冷気の中に身をさらすとき、子供たちの無邪気に遊びたわむれる声をきくとき、みずみずしい野菜の色や形を目にするとき、そして美しい女性と出会うとき、わたしはどうしようもなく胸がはずむのを感じないではいられません。やわらかな日ざしをあびて、空の雲の行き来を眺めるときもそうです。寒い日に熱い粥をすするときもそうです。町のにぎわいも、野良犬さえも好きなのです」
みみ爺はこのくだりにとても感動をおぼえたんだ。
みみ爺はもうこの年だ、死ぬのがそれほどこわいとは思わない。もちろん浄土や天国があるからと思っているわけではない。そもそも浄土や天国があるとは考えていない。
死ぬことはそれほどこわいわけではないが、もちろん死にたいわけではない。むしろその逆で、ただただ、いつまでも生きていたい、死にたくないだけだ。親鸞の弟子の唯円が言うように、この世には大好きなものがたくさんあるからなんだ。日の光、風の音、雲の流れ、小鳥のさえずり、舞う蝶、ころげまわる子犬、あたたかい朝ごはん、そして、すばらしい林道。そんな大好きなものに満ちたこの世界から、いつかかならず去らねばならないときが来る。みみ爺はそれがとてもつらい。
ここは県道299号にある今日最後の坂を上った場所だ。
眼下を流れる神流川の景色だよ。ほっとした気持ちで眺める川の景色はとてもおだやかだ。

日はすでに山の向こうに沈んでしまったんだね。

もうすぐ児玉駅だ。
今日はほんとうに疲れたけれど、こんなにすばらしい、こんなに楽しい旅はなかったよ。IWAさんにご一緒していただいたおかげだ。
IWAさん、ありがとう。お疲れ様でした。
そしてみみ爺もお疲れさん。
「鹿は鳴きますか」
「鳴きますよ。今朝も鳴いていましたよ。聞こえましたか」
「ええ、聞きました。夜中にも、明け方にも、ひゅう~、ひゅう~と聞こえましたが、あれは鹿の鳴き声ですよね。なんだかとても悲しげに聞こえました」
夜中にふと目が覚めたとき、布団の中で耳にした遠い笛の音のような不思議な音を思い出す。
「IWAさんは聞こえましたか」
「いいえ、わたしは」
若いIWAさんは眠りが深かったんだね。
「熊は出ますか」
「熊も出ますよ。鹿やイノシシはしょっちゅう出ます」
まだ夜が明けたばかりの、宿の窓からの景色だよ。静かな景色だ。
「川の向こうの銀杏が黄色く色付くととてもきれいなんですよ」
昨夜おかみさんが言っていた銀杏はたぶんあの銀杏だろう。形のいい、きれいな銀杏だね。まだすっかり黄葉はしていないが、十分に見事な美しさだよ。

朝食だよ。
定番の鯵の開きが出てくるかとおもったら、新鮮な鮭の切り身が出てきたのでうれしかったね。それに南牧村の名物のしそ巻きもあって、とてもおいしくご飯をいただいたよ。

さあ、いよいよあこがれの御荷鉾スーパー林道へ出発するよ。とてもよく晴れた朝だ。きっとすばらしい景色に出会えるだろうね。
民宿の玄関の前でおかみさんに写していただいたよ。

<南牧村(民宿)→大仁田ダム→御荷鉾スーパー林道→児玉>

本当にいい民宿だったよ。また来たいと本気でおもったほどだ。
冷たい朝の空気の中を、まずは大仁田ダムをめざしてペダルをこいでいくよ。
大仁田川の水音が谷間に響いている。道はすこしずつ勾配をましてくるよ。



青空の下、朝日をあびた山々がすごくきれいだ。左手の少しとがった山は、きっと烏帽子岳だろう。烏帽子岳は特徴のある形をしているよ。

朝明けから間もない大仁田の集落だよ。古びた橋、そしてひっそりと静まりかえった家々のたたずまい。雰囲気のあるいい景色だね。


大仁田ダムだ。
集落を過ぎるあたりから勾配がまして、ダムまでの2キロほどは10%を超えるところもあってちょっとつらかったよ。


いよいよ林道を上っていく。
御荷鉾スーパー林道の起点は、南牧村の雨沢からさらに南牧川に沿って県道93号を進んだ勧能というところにあるのだが、今は日が短い季節なので無理をせず、ここから林道に入ることにしたんだよ。

序盤かなりきつい勾配を上ると、左手にきれいな山の姿が現れた。青空を背に、朝日をいっぱいに受けている。紅葉もちらほら見られるよ。
あの山は、たぶん三ッ岩岳だろう。

そしてこちらは南牧村や下仁田方面の景色だ。もう、かなり上ってきたんだね。

舗装路はダートに変わったよ。勾配はすこし落ち着いたが確実に高度を上げていく。


日差しは明るく、空気は冷たく、ダートの上りには最適なコンディションだよ。


沢すじにすっと立つ大きな木が目に止まった。

昨日の朝の雨で水溜りもできていたよ。

静かだなあ。山々の景色もすばらしいなあ。いい林道だなあ。



このあたりのダートは勾配もかなり厳しいよ。10%ほどだ。路面の状態は大きめの石が多く、とてもガレている。
IWAさんはパンクを警戒して歩き始めた。
IWAさんの自転車はブロックタイヤをはいていたが、リアのタイヤがかなりすりへっていたんだ。
「そろそろ替えようとおもっていたんです」
みみ爺も、大きな石ころに乗り上げてともするとバランスを崩しそうになるので、自転車を押すことにしたよ。
しばらくは二人とも自転車を押して歩いたが、IWAさんの歩く速さはみみ爺よりはるかに速いんだ。みみ爺は時速3~4キロ、IWAさんは5~6キロのスピードだよ。どんどん距離が広がっていくんだ。

山の形が奥武蔵や秩父辺りとは違うね。ゴツゴツしていてとても力強い山容だよ。
「房総の山とは全然違いますね」

トンネルだよ。このトンネルを抜ければ塩之沢峠への下りになるのだろうか。

トンネルの出口の方は日があたっていて、紅葉が輝いている。

トンネルから先は下りになるのかと思ったら、ダートのままなおも上りが続くよ。
しかし落葉や紅葉が最高にいい雰囲気だ。空気もとてもひんやりとしていて気持ちがいい。


ようやく舗装路に変わったよ。長く厳しいダートだったっよ。

久々の舗装路の下りはじつに快適だよ。

垂直に切り立った崖を、真下から写したんだ。青空と紅葉がすばらしい。
頭上に垂直に立った崖はすごい迫力だよ。

どこを見ても日ざしと紅葉がいっぱいだ。

ここが塩之沢峠だよ。正面の道は“西上州やまびこ街道”で、南牧村、下仁田へ下る道だ。スーパー林道は右手へ上っていくんだよ。

塩之沢峠からこのトンネルまでのおよそ600メートルはいくらかきつい勾配だったが、そこからの勾配はすこし落ち着いたよ。

途中の景色を楽しむ余裕もうまれた。


秩父方面の二子山や両神山も遠く望むことができたよ。


真っ赤な紅葉が美しい。

林道から急勾配のコンクリート舗装の道を上がったところにある御荷鉾スーパー林道展望台からの景色だよ。まさに絶景だね。秩父の山々から山梨方面の大弛峠の方まで見渡せる。すごい展望だ。


マウンテンバイクで来ていた若者に写してもらったよ。

展望台から林道へもどる道だが、やっぱりかなりの勾配だったね。みみ爺は上ってくる途中で力尽きて自転車を押してきたんだよ。

快適な舗装路を行く。


木でできた砂防ダムだよ。

ここは10年ほど前の台風で大崩落したところだ。舗装路が跡形もなく消えている。ここからの展望は、先ほどの展望台からのものと比べても負けず劣らずすばらしかったよ。




崩落箇所を迂回する道はダートだ。

舗装路にもどるのかと思ったら、ずっとダートのままだったよ。IWAさんはとても速い。すぐに姿が見えなくなる。




ダートの路面の状態がすこしよくなって、また自転車にまたがる。


杖植峠付近だ。標高1477メートル。このへんが御荷鉾スーパー林道のピーク地点だね。

峠からすこし下ったあたりで、枯葉の上に腰を下ろしてお昼にしたんだ。
ちょっと大きめのおにぎりと玉子焼きがとてもおいしかった。
民宿で用意してくれたお弁当には、このほかに黒砂糖のお菓子とアメ、それにペットボトルのお茶までついていたんだ。民宿のおかみさんに大感謝だよ。

「民宿、よかったですね」
「よかったですね」
「今日はIWAさんにご一緒していただいてほんとうによかったです。私一人ではちょっと自信がなかったんですよ」
さていよいよ下りだ。時刻は午後2時にすこし前だよ。日が暮れるまであと3時間ほどだ。急いで下ろう。林道途中で日暮れを迎えたらとても危険だからね。

走りやすいがダートは続くよ。

小さな展望所があったよ。熊出没注意とある。

オレンジ色のウインドブレーカーを着た熊さんか?

木々にさえぎられて展望はなかったよ。

神流町の標識だ。ここからようやく舗装路に変わるのかな。

雲が出てきてちょっと心配になったよ。


これも垂直に切り立った崖を、カメラを上に向けて写したんだ。

紅葉がきれいだね。御荷鉾林道は今が紅葉のピークかもしれない。

舗装区間はそれほど長くは続かなかったよ。道はふたたびダートにもどってしまったんだ。

「苔がいい感じですね」
と、IWAさん。

落ち葉と紅葉がすばらしい。

木の枝越しに富岡、高崎方面が眺められたよ。

ダートの道はまだまだ続くよ。でも走りやすい路面だ。

公園休憩所だね。

こちらの管理棟には無料のウォーターサーバーがあるんだ。みみ爺はからになったペットボトルに水を満たさせていただいた。

それにしても、みごとに色付いているね。

ダートの下りはまだまだ続くよ。


「形のいい山ですね」
と、IWAさん。
たぶん御荷鉾三山だ。手前がオドケ山、左が西御荷鉾山、右奥が東御荷鉾山だね。夕日をあびて、紅葉がすばらしい。

ようやくダートが終わったようだよ。時刻は3時半を過ぎた。山陰はもう薄暗くなってきた。

道を急ぐ。


ここが塩沢峠だね。御荷鉾スーパー林道には、塩之沢峠と塩沢峠と名前の似た峠が二つあってまぎらわしいね。

山はいよいよ日暮れが迫る。道を急ごう。暗くなる前に林道を出なければね。


ひたすら下り坂をとばすよ。秋葉峠もそのまま通過だ。


ここは西御荷鉾山の登山口になっているところだ。“不動明王三叉の鉾”だね。天を突き刺すように立っている巨大な立派な鉾だよ。
不動明王の足元にも三叉の剣(鉾)が供えられているね。


「現在の標高はまだ1000メートル以上あります」
「ずいぶん下ってきたようですけど、まだそんなにあるんですか」
と、IWAさん。

先を急ぐ。林道は刻一刻と暗くなってくるよ。林道を出るまであとどのくらい時間がかかるのかわからない。とにかく暗くなる前にはなんとか林道を脱出したい。

こんなきれいな山の夕暮れの景色を横目に、ひたすら下って行く。

後ろから、
「そんなに急がなくても…危ないですよ」
と、IWAさん。
しかし、ちょっと心配なみみ爺は急勾配の下り坂をとばす。

日が落ちるよ。


美原トンネルを抜けてまもなく、三波川へ下る道へ。

やっとのことで三波川だよ。いい感じの古い橋があった。


ようやく県道177号に出たよ。
暗くなる前になんとか林道を出ることができて一安心だ。

後はただ児玉駅へ向かうだけだ。
御荷鉾スーパー林道はほんとうに景色のすばらしい林道だったね。
ところで、みみ爺は今、五木寛之の「親鸞」という小説にはまっているんだ。
弟子の唯円が親鸞に語るところがある。
「浄土を憧れる気持ちは本当でございます」「それでも私は、大好きなものがこの世にたくさんあるのです。朝はやくおきて凜とした冷気の中に身をさらすとき、子供たちの無邪気に遊びたわむれる声をきくとき、みずみずしい野菜の色や形を目にするとき、そして美しい女性と出会うとき、わたしはどうしようもなく胸がはずむのを感じないではいられません。やわらかな日ざしをあびて、空の雲の行き来を眺めるときもそうです。寒い日に熱い粥をすするときもそうです。町のにぎわいも、野良犬さえも好きなのです」
みみ爺はこのくだりにとても感動をおぼえたんだ。
みみ爺はもうこの年だ、死ぬのがそれほどこわいとは思わない。もちろん浄土や天国があるからと思っているわけではない。そもそも浄土や天国があるとは考えていない。
死ぬことはそれほどこわいわけではないが、もちろん死にたいわけではない。むしろその逆で、ただただ、いつまでも生きていたい、死にたくないだけだ。親鸞の弟子の唯円が言うように、この世には大好きなものがたくさんあるからなんだ。日の光、風の音、雲の流れ、小鳥のさえずり、舞う蝶、ころげまわる子犬、あたたかい朝ごはん、そして、すばらしい林道。そんな大好きなものに満ちたこの世界から、いつかかならず去らねばならないときが来る。みみ爺はそれがとてもつらい。
ここは県道299号にある今日最後の坂を上った場所だ。
眼下を流れる神流川の景色だよ。ほっとした気持ちで眺める川の景色はとてもおだやかだ。

日はすでに山の向こうに沈んでしまったんだね。

もうすぐ児玉駅だ。
今日はほんとうに疲れたけれど、こんなにすばらしい、こんなに楽しい旅はなかったよ。IWAさんにご一緒していただいたおかげだ。
IWAさん、ありがとう。お疲れ様でした。
そしてみみ爺もお疲れさん。