写真が好きな人であれば、ロベール・ドアノーを知らない人はいないだろう。
「伝書鳩が地図を読むことを覚えたとしたら、きっと方向感覚を失ってしまうだろう。自分にとって大事なことは、大きな好奇心をもってパリの雑踏の中を自由に歩くことだ。」
そう語るドアノーはパリ以外はどこにも旅行したことがないらしい。生涯をパリの街角の風景を写し取ることに捧げ、人々に向けられた彼の眼差しはとても優しい。
横浜そごう美術館でドアノーの写真展が開かれていると知り、早速行ってみた。「恋人」「街路」「子供達」「酒場」「芸術家」の5つのセクションに区分されていた。すべてモノクロの写真は皆すべて上品なタッチとユーモアにあふれていた。ここにある写真は京都現代美術館「何必館(カヒツカン)」のコレクションだそうだ。この美術館の館長梶川芳友氏は、「ドアノーの写真にはカメラという機械を全く感じない。ドアノー自身の一瞬の瞬きであるように思われる。」と語っているが、写真を前にすると本当にそう感じる。
この写真が一番好きだ。「パビヨンの子供」というタイトルが付けられていた。何気なく見ていたら通り過ぎてしまったかもしれない写真だが、これは1945年に撮られたもので、第2次世界大戦の傷跡が生々しいパリの街に一人の天使が降り立ったと説明がされていた。どんな悲惨な状況でも、子供たちの笑顔は大人を勇気づけてくれる。
またこの写真はユーモアにあふれている。犬の散歩をしている紳士が絵描きのヌードの絵を覗いている。よく見ると画家の向こうのベンチに女性の足が見えている。カメラを向けるドアノーを見つめるフォックステリアの表情も面白い。
私の拙い説明では何とももどかしいが、是非、会場でドアノーの温かいまなざしを感じてほしい。「コダック賞」「ニエプス賞」などを受賞し、1994年4月にパリで亡くなっている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます