黒式部の怨念日記

怨念を恐るる者は読むことなかれ

オー・ヘンリーの「善女のパン」のドイツ語訛り

2025-01-23 11:56:53 | 小説

再放送している「カムカムエヴリバディ」では深津絵里が演じるヒロイン(るい)と弁護士の卵がオー・ヘンリーで意気投合してデートに至ったが雲行きは芳しくないようだ。代わって浮上してきたのがオダギリジョー扮する「宇宙人」……とこれまでクレジットでも表記されていたが、昨日から晴れて「ジョー」という人間の名前になった。ジョーはトランペッターだから今後はジャズの話が多くなる?すると、オー・ヘンリーの出番はなくなりそうだ。記憶に新しいうちに少し読んでおこう。

ってわけで、るいも読んでいた「善女のパン」の日本語訳を読む。この短編は、一般には「魔女のパン」と訳されていて、そっちの方が原題(Witch's Loaves)に忠実なのだが、なぜ、「魔女」だったり「善女」だったりするのだろう。両者は真逆のようだが。思うに、パン屋のマーサが良かれと思ってしたことが結果的に客の仕事を台無しにしてしまったのだが、この場合、とんでもないことをしたことを前面に出せば魔女になるし、親切心でしたことを考えれば善女になる。作者のオー・ヘンリーは、客にマーサに対して思いっきりの暴言を言わせてるから前者であり、だからタイトルを「魔女」(witch)にしたが、この作品を「善女のパン」と訳した人は後者の考えだったのかもしれぬ。

因みに、読んだ日本語訳で客が最初に発した言葉が「古いパン二つ、おねがいじます」。「じます」は誤植?と思ったが、その後の客の言葉のサ行がすべて濁っている。ははーん。この客はドイツ語訛りの英語を話すという設定である。ドイツ語ではサ行が濁る(サシスセソがザジズゼゾになる)から、これでもってドイツ語訛りを表しているに違いない。だが、「おねがいします」は日本語であり、その日本語をドイツ訛りにしたものである。ってことは、オリジナルでは違う表現でドイツ語訛りを表しているのだろうか。原文を読んでみた。推測は当たっていた。例えば「You have」が「You haf」になっていた。ドイツ語では「v」は濁らず「f」の発音になる。てな具合である。ただ、解せなかったのは、「picture」が「bicture」になっていたこと。ドイツ語でも「p」は「p」と発音すると思うのだが。ドイツ系のアメリカ人はそのように発音するのだろうか?

そう言えば、映画「オッペンハイマー」を二度見たのだが、初回と二回目の間に「ユダヤ人の歴史」を読んでいたせいで、ユダヤ系アメリカ人の研究者が「イディッシュ」(ユダヤ人の話すドイツ語)を話題にしていることを二回目の視聴で気がついた。そのイディッシュで、もしかして……いやイディッシュでも「p」は「p」と発音するようである。ピーピー問題は現時点で未解明である。

「おねがいじます」が訳者の創作であるならば、他の訳者は他の方法でドイツ語訛りを表しているのかもしれない。他の訳本を仕入れて確かめてみようかしらん。

なお、「善女」又は「魔女」の名はマーサ(Martha)。これって、ドイツ映画「マーサの幸せレシピ」のヒロインの名前と同じである。映画のマーサはシェフ。シェフとパン屋は、犬と猫よりも近縁種である。はたして関係は?……ない、偶然の一致のようである。なお、この映画の原題は「Bella Martha」でドイツ語とイタリア語のチャンポン。むむっ、ドイツ語ってことは「Martha」は「マルタ」のはずである。「マーサ」じゃないじゃん。あと「Martha」はヘブライ語で「女主人」の意味らしい。おお!上記とつながった?いや、単に「ユダヤ人」と「ヘブライ語」ってことだけで、なんらつながりはない。なんだか、あっちこっちに風呂敷を広げたまま退散するようで恐縮である。


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