選挙戦のあり方などには異論があります。脱原発に関して政策的には方向が似ていても、政治哲学が全く異なる宇都宮、細川候補の一本化はそもそもありえないことでした。人間がその考え方を変えることはありうるし、反省もありうることです。しかし、政治と金の問題で、企業からの献金に関して説明責任を果たさずに、辞任した細川氏が選挙民に信を問うとしたら、自らの過去の選挙資金問題、小選挙区制度導入、消費税の導入提案などーー現在の日本政治の閉塞感を作り出した問題についてきちんと語るべきです。同時に、郵政選挙で郵政の民営化を強行し、竹中平蔵と規制緩和政策を進め、非正規労働者の拡大、貧富の格差拡大を強行した小泉自民党政治の総括も語るべきでした。要は、舛添候補が自民党政治を代表して立候補したときに、安倍、自民党右翼政権の政治を批判し、対案を示す候補が対立候補となるべきであり、その上で、脱原発、社会保障制度の改善、自治体としての取り組み課題を掲げるべきでした。
候補者の討論会を見る限り、宇都宮候補の政策説明、主張が一番、現実的、誠実でした。また、これまでの行動もそのことを立証していました。その点で、細川候補は、脱原発以外の政策は具体性に欠け、自民党型政策容認姿勢に貫かれ、都民の要求と異なっていたと思います。舛添は本音隠し、過去の自らの主張、言動隠しを行っていました。その点で、選挙を人気投票的なものとし、具体的な公約、主張を出来る限り行わないことに終始したように思います。
20、30歳代で田神候補の支持率が比較的高かったことは、現在の政治状況の危うさ、安倍自民党極右政権が狙っていることを東京都知事選挙で示したように思います。
1%富裕層、多国籍企業の利益追求ではなく、99%国民の所得向上、生活レベルの改善、貧富の格差改善が東京のみならず、日本全国の願いであり、政治課題です。そのためにも、消費税率の引き上げをやめ、社旗保障制度の充実、賃金水準の引き上げを緊急に行うべきです。税源は法人税率の引き下げをやめること。富裕層への課税を強化すること。多国籍企業の租税回避を法律でやめさせること。企業の社会保障制度負担を維持することです。
<北海道新聞社説:都知事選挙結果>
東京都民は原発との決別よりも、国政与党と連携した着実な政策実現に期待したようだ。きのう投開票された東京都知事選は自民、公明両党が支援した舛添要一元厚生労働相が初当選した。脱原発を訴えた細川護熙元首相、宇都宮健児前日弁連会長は支持層の票が割れ、舛添氏の独走を許した。
舛添氏は福祉政策や2020年の東京五輪成功を訴えたが、原発問題には深入りしなかった。電力の大消費地として避けて通れないテーマだけに、今後の具体策が問われる。将来の危機をいかに回避して持続可能な首都をつくり上げるか、明確なビジョンが欠かせない。選挙戦で舛添氏は「東京を世界一の街にする」と繰り返し訴えた。具体的政策よりも、ムードに訴える戦術だった。自公両党の組織力に、政府と連携した景気・雇用政策への期待が加わって圧勝した。
だからといって細川、宇都宮両氏に集まった脱原発を求める民意(190万票)を無視することは許されない。舛添氏は再生可能エネルギーの割合を増やし、原発依存度を減らすと訴えた。その道筋の具体化が不可欠だ。政府・与党も舛添氏当選により原発再稼働を前提とした政策が信任されたと考えてはならない。エネルギー源転換の試みを後押しすべきだ。
脱原発派には反省点が多い。細川陣営は脱原発への具体策を専門家に任せる姿勢で、期待していた大きなブームは起きなかった。前回の都知事選で次点だった宇都宮氏も支持層に広がりを欠いた。宇都宮氏を推薦した共産、社民両党と細川氏を支援した小泉純一郎元首相はかつての政敵同士で、一部に要請があった候補一本化も実現しなかった。党派を超えた勢力を形成できるかが、今後の課題とも言える。
原発だけでなく、都政の課題は多い。高齢化率が急速に上がる中で、福祉施設の整備が遅れている。待機児童の解消も待ったなしだ。首都直下地震の発生が高い確率で予測される中、東京五輪に向けたインフラ整備が進む。防災とまちづくりをどう両立するかに知恵を絞らなければならない。
地方の立場からすれば「世界一の東京」は必ずしも必要ない。むしろ現状では東京の「一人勝ち」にならないかが心配だ。首都機能の分散も含めて将来のありようを幅広く議論してもらいたい。
大雪の影響もあって都知事選の投票率は低迷した。国政にも影響を与える重要な選挙でありながら、都民の関心の低さが気になる。舛添都政の行方にはしっかり目を光らせる必要があるだろう。