某月某日
勤め先の近所に生産緑地があり、一昨年までは何かわからない木が植えてあるだけの単なる相続税対策のような場所であった。
それが去年からいろいろなものを植え始め、去年はしょっちゅうオヤジが来て、ブドウの木やなにやら果実が実るものを植えていた。
土地は100坪ほどはあろうが、ところかまわず植え、わけのわからない果樹園の様相となった。
しかし植えて1年目ではたいした収穫もなく、ぶどうも小さな実をつけただけだった。
それでも週に何日かは草刈りや植え付けで訪れていたのだが、今春からパッタリ姿を現さなくなった。
雑草は生い茂り、果樹の手入れもされずに放置されているが、たくましいもので、実をつけ始めた。
ブドウもまだ小さいが房がたくさんぶら下がっている。
そして歩道際のフェンスの隙間から木いちごが顔を出すようになった。
赤いツブツブの実がキラキラと輝いて「こんにちは~」と挨拶してくれる。
ひょいと手を伸ばせば「わたしを食べて~」と誘っても来よう。
しかしsatoboは武士の魂を持ち(生粋の水呑百姓の出だが)、若い果実を摘み取るような事はしない。
きっと誰にも触られた事のない若い実を口に運べば、乙女の香りとともに甘酸っぱさが広がるのであろう。
乙女の瑞々しさを十分知りつくしているオヤジであるから、satoboに味見される事で乙女も更に輝きを増し、これからの成熟に拍車をかける事は間違いない。
こうして乙女は次のステップへと羽ばたいて行くのだ。
先日その生産緑地の前を通りかかると、オバさんが一所懸命に手を動かしている。
乙女を、いや、木いちごを摘んでいるのだ。
乙女の瑞々しさが憎らしくて若いめをつんでいるわけではない。
どうやら食べようとしているのだ。
両手を使って次々に摘み取り、容器に詰めている。
どうせ誰も採らないのなら、私が採っても問題はあるまい、というオバさん独特の「論理」であろう。
確かにそうなのだが、日中人通りも多い中で堂々と「盗み」をしている姿に一抹の淋しさと輝く明日のたくましさを感じた。
心の中で、「どうせ誰かに喰われるのなら、俺が喰っておけば良かった」と好きな子がお持ち帰りされたような気分でつぶやいたのは言うまでもない。
勤め先の近所に生産緑地があり、一昨年までは何かわからない木が植えてあるだけの単なる相続税対策のような場所であった。
それが去年からいろいろなものを植え始め、去年はしょっちゅうオヤジが来て、ブドウの木やなにやら果実が実るものを植えていた。
土地は100坪ほどはあろうが、ところかまわず植え、わけのわからない果樹園の様相となった。
しかし植えて1年目ではたいした収穫もなく、ぶどうも小さな実をつけただけだった。
それでも週に何日かは草刈りや植え付けで訪れていたのだが、今春からパッタリ姿を現さなくなった。
雑草は生い茂り、果樹の手入れもされずに放置されているが、たくましいもので、実をつけ始めた。
ブドウもまだ小さいが房がたくさんぶら下がっている。
そして歩道際のフェンスの隙間から木いちごが顔を出すようになった。
赤いツブツブの実がキラキラと輝いて「こんにちは~」と挨拶してくれる。
ひょいと手を伸ばせば「わたしを食べて~」と誘っても来よう。
しかしsatoboは武士の魂を持ち(生粋の水呑百姓の出だが)、若い果実を摘み取るような事はしない。
きっと誰にも触られた事のない若い実を口に運べば、乙女の香りとともに甘酸っぱさが広がるのであろう。
乙女の瑞々しさを十分知りつくしているオヤジであるから、satoboに味見される事で乙女も更に輝きを増し、これからの成熟に拍車をかける事は間違いない。
こうして乙女は次のステップへと羽ばたいて行くのだ。
先日その生産緑地の前を通りかかると、オバさんが一所懸命に手を動かしている。
乙女を、いや、木いちごを摘んでいるのだ。
乙女の瑞々しさが憎らしくて若いめをつんでいるわけではない。
どうやら食べようとしているのだ。
両手を使って次々に摘み取り、容器に詰めている。
どうせ誰も採らないのなら、私が採っても問題はあるまい、というオバさん独特の「論理」であろう。
確かにそうなのだが、日中人通りも多い中で堂々と「盗み」をしている姿に一抹の淋しさと輝く明日のたくましさを感じた。
心の中で、「どうせ誰かに喰われるのなら、俺が喰っておけば良かった」と好きな子がお持ち帰りされたような気分でつぶやいたのは言うまでもない。