繁浩太郎の自動車と世の中ブログ(新)

モータージャーナリストとブランドコンサルタントの両方の眼で、自動車と社会をしっかりと見ていきます。

新型ワゴンR の凄さはスズキの凄さ

2017-04-06 19:19:07 | 日記

初代ワゴンRは、93年9月に発売されるとすぐにその革新的なコンセプトで大きな話題になりました。

当時のクルマは価格によって車格というヒエラルキーにはまっていましたが、ワゴンRは「シンプルな道具感スタイル」で、車格に関係のない個性的なクルマとして登場して、

隣にベンツが来ても、軽だからと卑下することは全くなかった記憶があります。

目線も高く、軽自動車で見下される感覚は全く無かった。

 

ワゴンRは初代から大きなコンセプトチェンジなしに、ずっと「ワゴン」を作り続け記録的な販売台数を築き上げました。しかし、流石に時間の経過とともに「飽きてきた」ことは事実でしょう。

ハスラーのような大ヒットをとばしたスズキが、どのような形でワゴンRをモデルチェンジするのか興味がありました。

サイズは、軽自動車ということもあり、また上にも下にも各社の車種がひしめていており、そんなに変わらないと考えていましたが、問題はコンセプトというか、クルマのテイストでした。

 

大きくコンセプトを変えると売れなくなる可能性は大きいです。

また、長寿モデルはユーザーの頭の中でそのイメージが固まってしまっています。変えると、ユーザーは「これはワゴンRじゃない」とそっぽを向く確立が高くなります。(カローラはずっとカローラだ)

そっぽを向かれても、全てに新しい魅力のある商品だとするとこっちを向いてくれるかもしれませんが、それには新しい魅力を見つけなきゃいけないし、だいたいそういうものはコストが大きくかかります。

そんな中、パワートレーン等は先代を流用してリスクオフしながらも内外デザインを大幅に変えて、それなりの投資もして、新しいコンセプトでワゴンRは出てきました。勝負に出てきたのです。

やります、スズキ。

チャレンジのないとこに、進化はありません。

 

軽自動車は、何と言っても台当りの収益が厳しいです。

 

工場で組み付ける部品は、タイヤやドア、シート、足回り等小型車とほぼ同じ数だけあり、各部品は小さくその分が当然安いのですが、意外と製造原価に響かない。

製造原価を下げるには、綿密にコスト削減や部品点数削減は勿論ですが、大量生産・販売が一番効きます。

 

私も、ホンダ在職時代にN-BOXの企画時には、この部分が一番大変でした。

いかに生産・販売台数をあげ工場を目一杯埋めるか?

その時考えたのは、1車種ではダメで、シリーズ化して、一番バッターは必ず塁に出られるN-BOX、2番バッターはバントのN-BOX+、3番バッターはヒットのN-ONE、4番バッターはホームランのN-WGN・・と例え、工場を目一杯埋められる一定以上の大量生産・販売しかないといけないと考えました。

しかし、これは当然、投資金額は大きくなりますし、台数を目一杯で計算した値で企画するのはチャレンジングというか、危険な行為です。売れなかったら、チョンです。

ダイハツ、スズキを追いかける側としては、決死の覚悟でリスクをとるしかないと考えました。

 

そこで、今回のワゴンRのコンセプトチェンジですが、私の捉え方は「ワゴン」から「ミニバン」にコンセプトチェンジしたように思います。

ワゴンR→ミニバンアール(R)です。

機能的にはハイブリッドやHUD、安全装備なども用意されていますが、エンジン等走りの部分は前モデルから大きく変化がない。無理に変えなくてもユーザーが満足できれば問題ないのです。

開発者はどうしても全部良くしたいと言う気持ちから新しく作りたいものですが、それを我慢したのはさすがと思います。

 

しかし、アウトプットのクルマの走りがユーザー的に満足出来るのか?をみたくて試乗しました。

走り味は変わっていないだろうと予想していましたが、驚きました。

これだけの小型車並の走行性能やフィーリングがあればユーザーは満足するはずです。というかユーザーの満足を通り過ぎたとこまでいっています。

しかし、さらに大切なのは、コンセプトチェンジがユーザーに魅力的と映ることです。

内外のデザインはコンセプトに合わせて大きく変わり、つまり外のデザインは、三種類の顔がありますがどれも堂々として大きく立派で、後ろはリヤコンビが横向きになって下にいき全体的に縦長でなく幅広に見え、サイドビューは特徴的なBピラーでエモーショナルになり、ワゴン感ではすっかりなくなりました。

ただ、私の経験からは三種類の顔はリスクを考え同時に出したくなるのはわかりますが、小出しにした方が、お客さんの記憶により強く残るのではと思います。

室内のデザインも、センターメーターになり、ナビディスプレイはセンター手前に、インパネは横一文字のセンス良いいものになり、ワゴンのシンプルさを超えたミニバンの質感を得たものになっています。

ワゴンRの様な長寿機種のコンセプトチェンジを、スズキはリスクオフしながらチャレンジングにやったのです。

このコンセプトチェンジは成功し、販売台数と収益性を両立すると予想します。

 

スズキはアルト-60kg、スイフト-120kgと車両重量を削減していますが、元開発責任者の私からするとこれらはドエライことなんです。

なによりすごいのは、そのドエライことを目標にして開発する体質、みんなが頑張れる体質が有ることです。

スズキはチャレンジと実行の会社です。

また開発者はユーザーと商品に真摯に向き合っています。

 

「小さなクルマ、大きな未来」は本物だと実感しました。