藤と伊吹山
五月晴れである。家の窓、戸を全開にして、風を通した。
タンスの引き出しを、何気もなく開けたら、緑色の野球帽子が出てきた。
南海ホークスの球団承認の、まだ小学生だった息子に買ってあげたものである。
南海の「N」とHawksの「H」を組み合わせたマークなのだが、Hの縦の棒の外側に
やや短めの縦の棒が付いている。
南海電鉄の電車の鉄輪をイメージした、意匠なのである。
爽やかに風吹きぬける
三島池
五月の伊吹若武者のごと
ホークス・ファンになったのは、三丁目の夕陽の時代。 鶴岡親分の下、エース杉浦、
4番野村以下、綺羅星のごとく名選手が揃っていた最強の時代であった。
ところが息子を後楽園や西武球場へ連れて行った、昭和末期は弱小球団に成り下がっていた。
ドカベン香川と長距離砲・門田博光くらいが、スター選手だった。
エースは三人。山内新一、山内孝徳、山内和宏の「やまうち」トリオだった。
ひと株のリラに出逢ひて
麗しの
君の五月はここに始まる
敦賀・山の上の温泉
ホークスの帽子をかぶった息子と、キャッチ・ボールをするのが至福のひとときだった、あの頃、
遠い、はるかな昔のあれこれを、沈黙の饒舌で今に語りかけてくる、野球帽ではあることだ。