索引 三木清 「人生論ノート 」
「人生論ノート」という一風変わったタイトルの本があります。1937年に冒頭の一章が発表されて以来、80年近くもロングセラーを続ける名著です。
「怒」「孤独」「嫉妬」「成功」など私たち誰もがつきあたる問題に、哲学的な視点から光を当てて書かれたエッセイですが、その表題に比べて内容は難解です。
書いたのは、西田幾多郎、和辻哲郎らとも並び称される日本を代表する哲学者、三木 清(1897- 1945)。今年生誕120年を迎える三木は、治安維持法で検挙され、獄死した抵抗の思想家でもあります。
三木はこの本で一つの「幸福論」を提示しようとしていました。同時代の哲学や倫理学が、人間にとって最も重要な「幸福」をテーマに全く掲げないことを鋭く批判。
「幸福」と「成功」とを比較して、量的に計量できるのが「成功」であるのに対して、決して量には還元できない、質的なものとして「幸福」をとらえます。
いわく「幸福の問題は主知主義にとって最大の支柱である」「幸福を武器として闘うもののみが斃れてもなお幸福である」。幸福の本質をつこうとした表現ですが、どこか晦渋でわかりにくい表現です。
こうした晦渋な表現をとったのには理由があります。
戦争の影が日に日に色濃くなっていく1930年代。国家総動員法が制定され、個人が幸福を追求するといった行為について大っぴらには語れない重苦しい雰囲気が満ちていました。
普通に表現しても検閲されて世に出すことができなくなると考えた三木は、哲学用語を駆使して表現を工夫し、伝わる人にはきちんと伝わるように言葉を磨き上げていったのです。
哲学者の岸見一郎さんは、「人生論ノート」を、経済的な豊かさや社会的な成功のみが幸福とみなされがちな今だからこそ、読み返されるべき本だといいます。
一見難解でとっつきにくいが、さまざまな補助線を引きながら読み解いていくと、現代を生きる私たちに意外なほど近づいてくる本だともいいます。
厳しい競争社会、経済至上主義の風潮の中で、気がつけば、身も心も何かに追われ、自分自身を見失いがちな現代。
「人生論ノート」を通して、「幸福とは何か」「孤独とは何か」「死とは何か」といった普遍的なテーマをもう一度見つめ直し、人生をより豊かに生きる方法を学んでいきます。
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