索引「有吉佐和子スペシャル」
「個と家の相克」「埋もれてしまった女たちの人生」「老いの深刻さと尊厳」……戦後の文壇が長らく直視してこなかった問題に挑み、それらの問題が引き起こす悲喜劇を真っ向から描き続けた作家・有吉佐和子(1931-1984)。
今年、没後40年を迎える。市井の人々の低い視線から、社会に渦巻く問題に対して時にユーモアたっぷりに、時にシリアスに切り込んでいく作品群は、今も多くの人たちに読み継がれています。
有吉の代表作「華岡青洲の妻」「恍惚の人」「青い壺」といった作品を通して、「家族とは?」「老いとは?」そして「人間とは?」…といった奥深いテーマをあらためて見つめなおします。
初期の作品「地唄」は1956年、25歳のとき。筝曲を演奏する父娘の葛藤を鮮烈に描いた作品は芥川賞候補になり、文壇で注目を集めます。
小説家としてだけではなく、劇作家として戯曲や舞踏劇、ミュージカルなども手がけ、多彩な表現ジャンルを開拓していきました。
「才女」として数多くのテレビ出演をこなすなどマスコミの寵児としてもてはやされる一方、文壇主流には「大衆文学」とレッテルを貼られ評価は低いまま。
ですが、作品の数々がベストセラーとなり時に社会制度を変えるほどのインパクトをもつ等、多くの人たちに圧倒的に支持されてきました。その秘密はどこにあるのでしょうか?
有吉作品の最大の魅力は「女の語り」にあります。
彼女の作品は、高度経済成長下のマッチョで男性中心主義的な価値観の中で、介護問題、環境問題、差別問題等々、当時は誰も直視してこなかった問題を、女たちのしなやかな語りの中で掬い上げ、低い視線から大仰ではないかたちで届けてくれます。
「華岡青洲の妻」「恍惚の人」などの有吉の代表作が、文壇の評価など全く関係なく、多くの人々を魅了してきたのは、その「しなやかで凛とした語りと視点」にあるのです。
Suite from Once Upon a Time in America