美深を出た列車は初野まで直線区間を走り続けます。
線路に真新しい砂利が敷かれていました。
1時間に6本列車が走る線路も、1日に6本列車が走る線路も、保線に掛かる費用は同じはずです。
宗谷本線がどれほどの収入を得ているかは知りませんが、線路に平行する国道40号線は、平成17年の美深付近の交通量が24時間平均約220台だそうです。
この状況を考えると、来年も普通列車で、稚内へ旅ができる保障はないと思います。
今回、黒岳に登った翌日、青春18きっぷで稚内へ向かうのは、そんなことを考えてのことです。
どんなことでも、やれるときにやっておくのが、人生を後悔しない極意です。
好きな人に出会った時、仕事を任されたとき、美しいものに巡り合えた時・・
列車は紋穂内(もんぽない)に停車しました。
紋穂内は、かっては木材の出荷駅としの役割を担っていましたが、今は車掌車を改造した待合室だけの無人駅です。
地名はアイヌ語の「小さい野の川」モヌプオナイに由来します。
紋穂内を発車した後、車両後方の窓から駅を振り返ると、大きな木の下に置かれた白い待合室がノスタルジックな雰囲気を醸し、郷愁溢れる光景を見せてくれました。
いい景色と思います。
この駅舎の後ろに広がる森に暮らす家族の笑顔が見える気がします
こんな光景は、北海道で普通列車に乗らなければ気付くことがないかもしれません。
列車に乗り合わせた旅人は、殆ど私と同類の方達のようでした。
網棚に置かれた荷物が、長旅であることを物語ります。
皆さん高齢男性で、無言で車窓の景色を眺め続けていました。
そして恩根内に停車しました。
駅舎の後ろに数件の民家らしき建物が見えています。
それにしても、駅の範囲は何処までなのでしょうか。
都会の駅は、構内に入るとき入場券が必要ですが、勿論この駅は必要なさそうです。
そういえば、かって何度か、無人駅を見学する時に、駅の敷地内に入ったことがありますが、あれって何かのルールや法に触れるのでしょうか。
列車は、ロマン溢れる景色の中を北上して行きます。
真っすぐ伸びる鉄路に沿って、冬の厳しさを語る防雪林が続き、牧草地の奥の針葉樹林の横にポツンと民家。
列車が進む先に蒼い山が寝そべり、その山の上を雲が左から右へ流れ、北の大地の時の流れを告げています。
こんな風景に出会うと、誰もが北海道を旅する感慨に浸ることができます。
何年か前、車でアメリカを旅したとき、「何もない曠野に、道が地平線に向かって伸びる」景色に感動したことを想い出しました。
旅の目的は人様々ですが、同じ列車に乗り合わせた旅人は、鉄道マニアが多いように思います。
豊清水駅で特急列車とすれ違うときなど、多くの乗客がホームに降りて、通過する特急列車に熱心にレンズを向けていました。
豊清水の二つ先の咲来も無人駅で、さっくるという響きと、咲く、来るという字が印象に残りました。
咲来も他駅と同様、地名の由来はアイヌ語の「夏道」を意味するサクルで、夏季になると、ここから咲来峠を越え、歌登を経てオホーツクに道が通じたことに因るそうです。
咲来を出ると、見事なソバ畑が車窓に広がりました。
咲来も含め、音威子府村は蕎麦で名が知られています。
殻付きのまま製粉したそば粉の蕎麦は香りが強く、色が黒い特徴があります。
4年前に自転車でこの街に来た時も、国道に面した食堂で蕎麦を味わいました。
音威子府に来たら、蕎麦を食べない手はありません。
旭川を朝の6時3分に発車した列車は、129㎞の距離を3時間かけて、定刻の9時5分に音威子府駅に到着すべく、速度を落とし始めました。
「青春18きっぷ」花の旅 北海道 indexをご利用下さい。
全ての「花の旅」はこちら → 「花の旅」 総合目次
筆者のホームページ 「PAPYRUS」