黒斑山の頂上で、菓子パンを食べながらペットボトルの麦茶で喉を潤していると、目の前の雲が薄くなり始めました。
外輪山の壁の底に、パティオのような別世界が見えてきました。
人の気配を全く感じさせない、風と水と緑の世界が雲の下に姿を現しました。
そして、あっという間でした。
目の前の雲が一瞬にして消え去り、浅間山がその全貌を現したのです。
頂上で一緒に眺めていた、栃木からのご夫婦も歓声をあげていました。
外輪山が浅間山を囲み、その壁が北東へ伸びている様子がはっきりと分かります。
黒斑山から、稜線上に登山道が伸びて、浅間山の頂きへと続いているはずです。
遠く正面の雲の下辺りが日光白根山、右手の端が赤城山かもしれません。
黒斑山の頂で素朴な高山植物、タカネニガナが陽射しを浴びています。
頬に心地良い風を感じます。東京はきっと猛暑の中でしょうね。
タカネニガナ
山の花に目を取られている間に、カルデラの中へ雲が流れ込み、浅間山のピークが再び姿を隠しました。
本当に一瞬でしたが、壮大なパノラマを堪能し、思い出に残る時間を過ごすことができました。
ありがとうございました。
さて、そろそろお暇させていただきましょうか。
黒斑山から稜線を戻る途中で、ジャージ姿の小学生の一団とすれ違いました。
皆の胸の名札から、小諸東小学校の5年生だと分かります。
そうですよね、安全に、気軽に高山植物を観察できて、ジオグラフィーも学べるのですから、小学生の遠足にはピッタリの山かもしれません。
下山路は「トーミの頭」の先の分岐で中コースを選びました。
登ってきた表コースよりも短い時間で登山口に出られるようです。
針葉樹の中を下って行きます。
暫く下って行くと、針葉樹の森が途切れ、ガレ地の広がる場所に出ました。
正面にスキー場のゲレンデが見えます。
その左手に高峰山が見えています。
眼下にはカラマツの天然林が広がっていました。
そのカラマツは、私の知っているものとは随分と表情が異なりました。
幹は太く捩れ、風雪に耐え抜いてきた逞しさを感じさせます。
北原白秋が
からまつの林の道は、
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。
と歌ったのは人口林だったのでしょうか。
私はカラマツが、見上げる程に整然と並ぶ人口林の姿しか見たことがありませんでしたが、白秋が歩いたのが天然林だったとすれば、この詩から受ける心象風景は、随分と違ったものになりそうです。
黒斑山のカラマツ天然林、一見の価値があると思いました。
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