最初は黒い傘が歩道に落ちていると思った。
通りすがりに見ると傘の中に小さくうずくまってる婆さんがいる。
やり過ごしてどうも気になる、落ち着かない。
次の角を左に曲がってさっきの道に戻ってみた。
車から降りて、
怪訝な目つきでぼくを見る婆さんに声をかけた。
「どうかしたの?」
「なんでもねぇ。」
「こんなとこに座ってると危ないよ」
「雨ふってるから家まで送ろうか?」
婆さんは無言で首を何回も横に振った。
取り付く島がないというのはこういうことを云うんだね。
じゃ気を付けてと言い残して車に戻った。
家人とケンカでもしたのかな...。
用を済ませた帰りに同じ道を通ったらいなかった。
ほっとした。
車も人もあまり通らないあの道でほかにも
憮然として立ち去った人がいただろうか。
婆さんは思い詰めてる風ではなかったし、
ぶっきらぼうな態度は初めから人を拒絶していた。
ぼくも年老いて少し痴呆が入ったらあんなふうに
なるかもしれない。
それは寂しいことなんだ。
遠縁のアナログ婆さんみたいに自由を謳歌しながら
わが道をいく婆さんもいる。
駐車場を借りてる大家の爺さんは真っ黒に日焼けして
いつも田んぼのどこかにいる。
どうせなら、
ぼくは田んぼのあぜ道でカエルと遊んでいたい。
遠いあの日に帰りたい、なんてさ。
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