睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

婆さんノスタルジー

2018-10-17 08:30:13 | ひびつれづれ




最初は黒い傘が歩道に落ちていると思った。
通りすがりに見ると傘の中に小さくうずくまってる婆さんがいる。

やり過ごしてどうも気になる、落ち着かない。
次の角を左に曲がってさっきの道に戻ってみた。
車から降りて、
怪訝な目つきでぼくを見る婆さんに声をかけた。

「どうかしたの?」
「なんでもねぇ。」
「こんなとこに座ってると危ないよ」
「雨ふってるから家まで送ろうか?」

婆さんは無言で首を何回も横に振った。
取り付く島がないというのはこういうことを云うんだね。
じゃ気を付けてと言い残して車に戻った。

家人とケンカでもしたのかな...。
用を済ませた帰りに同じ道を通ったらいなかった。
ほっとした。

車も人もあまり通らないあの道でほかにも
憮然として立ち去った人がいただろうか。
婆さんは思い詰めてる風ではなかったし、
ぶっきらぼうな態度は初めから人を拒絶していた。

ぼくも年老いて少し痴呆が入ったらあんなふうに
なるかもしれない。
それは寂しいことなんだ。

遠縁のアナログ婆さんみたいに自由を謳歌しながら
わが道をいく婆さんもいる。
駐車場を借りてる大家の爺さんは真っ黒に日焼けして
いつも田んぼのどこかにいる。

どうせなら、
ぼくは田んぼのあぜ道でカエルと遊んでいたい。
遠いあの日に帰りたい、なんてさ。




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