水産北海道ブログ

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北日本漁業研究会 第52回札幌大会 「北日本の養殖サーモン類の種苗生産」テーマにシンポ トラウト、ギンザケ、サクラマス養殖の現状と課題探る

2023-12-05 16:09:38 | ニュース
 

 漁業経済学会と統合した北日本漁業経済学会の理念を継承する北日本漁業研究会の第52回札幌大会が12月2日、北海学園大学教育会館で開催され、北日本におけるサーモン養殖の方向性をテーマにしたシンポジウムや一般報告を行い、ウェブ併用で100人を超える参加者が活発に議論を交わした。
 北日本漁業経済学会は令和5年9月1日に漁業経済学会と統合したが、従来の活動を北日本漁業研究会(部会)として引き続きシンポや学会誌発行を続ける。宮澤晴彦氏(元北大大学院)を会長に濱田武士氏(北海学園大)が副会長、佐々木貴文氏(北大大学院)が事務局長を務める。個人の年会費は3千円(賛助会員1,500円、学生無料)で、宮澤会長は広く会員の入会を呼びかけた。
 開会に当たり宮澤会長が「北海道の漁業は中国による日本産水産物の禁輸、海洋環境変化による魚種の転換など多くの問題が山積しているが、課題に真剣に向かい合い問題解決できるか懸念しており、こうした研究会を通じて交流し、発信していくことが大切だ。種苗の不足を含めたサーモン養殖の現状と課題をテーマにしたシンポを含め、活発な議論をお願いしたい」と挨拶した。
 シンポジウムは道内外から注目を集め、北海道、東北の漁業における最大のテーマである養殖における種苗生産の現状と課題について専門家の話を聞き、活発に議論を交わした。まず、ファシリテーターの佐野雅昭鹿児島大教授が「わが国の養殖は近年、大きく様変わりし、各地で魚類養殖、サーモン養殖が取り組まれ、需要を伸ばす中で種苗生産がボトルネックになっている。種苗生産体制に関わるシンポを通じて、専門家に現状と課題を話していただき議論したい。北日本のエリアがもつ潜在力を活かした海面養殖と内水面の種苗生産をどう結びつけていくのかを考える」とシンポの趣旨を説明。
 さっそく道総研の楠田聡さけます・内水面水試内水面資源部長が「北海道における内水面養殖業の現状と課題」として北日本養殖サーモン産業クラスターを構築するために内水面養殖事業者の組織化、種苗供給体制のネットワーク構築を提起した。平井俊郎岩手大学三陸水産研究センター長が地域ブランド「釜石はまゆりサクラマス」から見た「海面サーモン養殖における種苗安定供給」の課題を報告した。次いで鈴木宏介日本サーモンファーム社長が「サーモン養殖事業産業化への課題」を報告し、売上の9割がサーモンを軸に事業を展開している同社の垂直統合、サケ類の世界的に需要増大に対応した大規模養殖の取り組みを明らかにした。
第4報告は、戸川富喜ニチモウ養殖開発室長が種苗生産を中心に「ニチモウグループによるサーモン養殖」を報告し、40年に及ぶギンザケ養殖の蓄積を活かし岩手県での新たな種苗生産の取り組み、既存のふ化場を利用したメリット、デメリットを明らかにした。
 第5報告は、水産庁の柿沼忠秋栽培養殖課長が「関連政策の解説」を説明し、20万トンにのぼる輸入サケ市場を国内養殖で置き換え、サケマスふ化放流の再編・統合、合理化を図る国の戦略を示し、道県、水試、民間の協力が必要とした。
 なお、午前中の一般報告で 今井智氏(水産機構技術研)が「サーモン養殖における閉鎖循環システムの活用による課題解決」を報告し、サクラマスの養殖を例に内水面の種苗不足分を閉鎖式陸上養殖で補い、大量化と疾病対策の達成を実証した。
 このあと、工藤貴史東京海洋大学教授がコメントを発表し、種苗の量産に必要な中間育成施設の不足、集中水揚げに対応した加工体制などの課題をとりあげ、技術開発の著しいサーモン養殖の「裏の競争力」を指摘し、産官学の連携、地域連携型も生き残りの条件とした。
 総合討論は、佐野氏が①品種の選択の決め手、②RAS(閉鎖式循環養殖)を導入した種苗生産の可能性、③種苗生産と養殖、加工・販売の分業などについて報告者の確認、意見を聞いた。佐野氏は「サーモン養殖は山(内水面)と海(海面養殖)との連携による事業。地元の業者とのつながりが大切で、リスクヘッジ、ローカルネットワークなど持続的発展をめざす」とまとめた。

漁協直売所、限界集落、魚食、ロシアなど一般報告
          
 一般報告では、宮澤会長(北大大学院)が石狩市厚田地区の朝市を事例に「漁業者主体型直売所の特徴を漁家経営に及ぼす効果」を報告し、20%弱の所得増大効果、低コストなど直売のメリット、経済効果の創出要因を明らかにした。
 次いで工藤貴史東京海洋大学教授が地理情報システム(GIS)による分析を通じた「北海道における漁村地域の限界集落化」を報告し、道内でも限界集落に区分される漁業集落が増加しているが、地域漁業が存続すれば今後も地域社会が消滅することはないと強調した。
 第3報告の田口さつき氏(農林中金総合研究所)は魚食との関連で「日本人の食生活の変化とカルシウム摂取」を報告し、魚介類の摂取量とカルシウム不足の関係を分析して若年層の食生活問題は食料の安全保障の点からも重要な論点になると指摘した。
 第4報告のファべネック・ヤン・海舟氏(笹川平和財団海洋政策研究所)はロシアの「『国際漁業資源』と『北極海航路』」をテーマに報告し、「国際漁業資源」を中心のロシアによる漁業政策の展開と、新たな水産物流通経路としての「北極海航路」の問題点を明らかにした。

2023秋サケ来遊状況(暫定値)道総研が総括 2,133万尾と前年の68%、4年魚主体・小型化

2023-12-05 16:02:07 | ニュース
 

 本道に来遊する秋サケは前中期を合わせ2,123万尾で、予測値の64%、前年同期の68%となった。前中期が前年同期を大きく下回り、平成30年並みの水準となり、5年魚が再び低下し、魚体は前年に次ぐ小型の水準だった。
 道連合海区漁業調整委員会で、今シーズンの秋サケ来遊状況の暫定値に基づく総括を道総研さけます・内水面水試さけます資源部の卜部浩一研究主幹が行い、
水産研究・教育機構水産資源研究所の吉光昇二資源増殖部長が全国の状況を報告した。
 卜部研究主幹によると、令和5(2023)年前中期の秋サケ来遊数(河川での捕獲数を含む)は2,123万尾で、予測値の64%、前年同期の68%となっている。河川捕獲は286万尾で、予測値の75%、前年同期の84%。年級別来遊数は、5年魚が496万尾で予測値の55%と下回ったが、前年同期の184%と大きく上回った。逆に4年魚は1,495万尾と全体の70%を占め、予測値の69%、前年同期の66%と大幅に下回った。3年魚は126万尾で予測値の51%、前年同期の21%にとどまった。
 年別・年級別来遊数は、前中期の来遊数は、昨年同期(を大きく下回り、概ね平成30年並みの水準となった。年級別来遊数は、平成13年級以降、減少傾向にあったが、平成30年級群では平成26年級を上回る水準に回復するとみられる。しかし、それ以降の年級群の減少がうかがわれる。年級別年齢割合の推移は、平成20年級以降、4年魚、3年魚の割合が増加する若齢化の傾向が続いてきた。5年魚の割合は低下を続け、平成28年級では増加に転じたが、平成29年級では再び減少し若齢化の傾向が強い。
魚体重は、小型で推移してきたが、中でも昨年(令和4年)は2.83㌔(近年最小)と著しく小型となった。令和5年の魚体重は、昨年に比べ5年魚の割合が高かったため、9月下旬までには平成30年(近年最2番目に小さい3.04㌔)を上回る水準で推移したが、10月上旬以降はその水準を下回り、10月下旬現在では3㌔以下の令和4年に次ぐ低い水準となった。
 また、水研さけます部門の吉光昇二資源増殖部長によると、11月10日現在の本州の来遊量は約9万9千尾で前年(約40万尾)に比べ25%と平成に入って以降最も少ない。本州各県は太平洋、日本海とも来遊数の低迷から種卵の確保に苦労し、大幅な不足が見込まれる。
 質疑では、岩田廣美委員が「オホーツク海の一部を除いて全道的に不漁で、このままではふ化放流事業に支障をきたす」と現状の打開を求めた。卜部研究主幹は「今年の海洋熱波で多くの秋サケが定置網に乗らない状態で死んだと考えられる。黒潮の勢力が過去に戻るまで、各地の実態に合わせた適期放流などの対策をする必要があり、夏から秋の高水温を避けるために中後期に帰る資源の重要性が高まる」とした。
 阿部国雄委員は「今後、渡島や胆振の増協が運営していけるのか心配で、漁業者の負担も上限に来ている。将来も増殖事業が可能なのかを見極め早め目に答えを出してほしい」。福原正純委員は「サケ不漁の理由をすべて気候変動に求めるのでなく、8月に回帰するサケのメカニズムを解明してほしい」、横内武久委員は「気候変化に対応した育種、高水温に強いサケの遺伝子を守ることが大切。他の生物の例からも学んで研究してほしい」といった要望意見が出された。藤原真さけます資源部長は「高水温の影響は大きく、本州のサケ大不振に加え、カラフトマスの来遊なども南から激減している。渡島、胆振のサケ資源の底上げは全道にもかかわる問題と危機感をもって取り組む」とし、卜部主幹は河川直行型の来遊について「沿岸水温が高い年は河川そ上率が高くなる。今年はその典型で、水温の低い沖合の深みで待機し、河川に直行した。沿岸に止まらないため網にかからなかった」と述べた。

2023年(令和5年)12月1日(金)発行/北海道漁協系統通信第6759号

2023-12-05 16:00:50 | 系統通信
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