北日本漁業経済学会2015春季研究集会が4月24日午前10時から東京水産会館豊海センタービル2階会議室で開催され、延べ百人が参加しして増大するマサバ資源の持続的活用、福島の漁業復興の現状と課題などを活発に議論した。
二平章会長(漁業情報サービスセンター=JAFIC)が「従来は東北、北海道で秋のシンポジウム大会を開催してきたが、今後は春の東京での研究集会を開き、会員を拡大し様々な分野に参加者を広げたい。この学会は漁業の現場に即したテーマに特徴があり、資源系と経済系の研究者が交流する場としても活性化したい」と開会の挨拶をしたあと、ミニシンポ「増大を始めたマサバ資源と流通動」についてコーディネーターの渡邉一功氏(JAFIC)が資源、生産、流通の面から復活したマサバの動向を検討するシンポの趣旨を説明した。
シンポでは、マサバ太平洋系群は2013年級群(2歳魚)が出現率、生残率、魚体の成長ともに極めて良好で、2014年級群(1歳魚)も平均より高く、今後も資源加入は良好との見通しが明らかにされた。特に2013年級群は、最後の卓越年級群とされる1985年級群に匹敵するとの評価が確定しており、北部海域巻き網は2013年級群を中心に銚子港などに好調な水揚げが続いている。親魚対象の「たもすくい」も好漁だが、現状ではABCの範囲で資源に悪い影響は出ていないという。
マサバ漁獲の中心となる北部巻き網は、平成19年から月別・個別割当に移行し、漁獲が向上、単価も安定している。今後、本格的にIQ導入を検討する中で、魚体と数量のバランスをとりながら単価を維持することの難しさが課題にあげられた。
流通面では、かつて160万トン漁獲されたマサバは、近年30万トン~40万トンの水準で推移し、2014年は44万トンと2013年を35%上回った。期待された道東の釧路は9,300トンと前年の3倍以上に増加したが、小型魚が多く、鮮魚流通が少なく、単価は低下した。今年は成長し商品価値の高い魚が期待される。
総合討論では、水揚げ量、在庫量の増大に対応した取り組みが求められ、処理能力に合わせた適正な漁獲、資源管理に努めるべきといった意見が聞かれた。
特別シンポ 復興めざす福島の農林漁業の固有な課題と方向性
一般報告のあと、『福島に農林漁業を取り戻す』の出版を記念した特別シンポを行い、濱田武士氏(東京海洋大)が概要を紹介した。東日本大震災・福島原発事故で大きな被害を受けた農業、林業、漁業の各分野で固有の問題を掘り下げ「都市と地方」の問題として捉える視点から福島の復興を国民的なテーマに位置付け、科学的知見に基づく生産物の安心・安全を消費者に理解してもらう課題に応えるなどの意図を示した。
次いで、共著者の三人が要点を説明。小山良太氏(福島大)は農業における問題として放射性物質の検査をめぐる混乱を指摘し、米の全袋検査など現状の検査体制が完璧なレベルにあることを強調した。早尻正宏氏(山形大)は、林業の被災が顕在化しない背景、汚染の実態、除染が遅れている状況を報告した。さらに濱田氏が漁業と汚染水問題を取り上げ、福島の漁業者が試験操業を取り組んだ経過を概説し、その現状を紹介した。その中で、増え続ける汚染水を海に放出する計画があり、大きな問題となっていると指摘。東電は「漁業者の同意無しに放水はしない」としているが、今後の水産物の安心・安全、風評被害への影響が懸念されると問題提起した。
総合討論では、セシウム以外の放射性物質の影響、海洋汚染の問題などで会場の参加者と報告者が質疑を交わし、汚染水の放出問題では政府の責任を問う声も上がった。特に福島の漁業者には「放水の判断を押しつけるな」との意識が強く、水産物の風評被害などその影響の大きさから、全国の漁業者が認識を新たにすべき段階にきていることが明らかされた。