Webを含め180人超が参加 本道沿岸の重要課題を熱心に勉強
北日本漁業研究会(宮澤晴彦会長)は、12月19日午後1時から北海学園大教育会館でシンポジウム「北海道における洋上風力発電の推進状況と漁業−現状から見えてくる課題−」をWeb併用で開催し、行政、NGO、コンサル、漁業団体、大学の5人の専門家・研究者による報告に180人を超える参加者が熱心に耳を傾けた
宮澤晴彦会長(元北大水産学部教授)が「地域漁業に寄与する学会の趣旨に沿って研究者だけでなく、それ以外の方々に参加いただき、今回は道内の洋上風力発電のシンポを行う。漁業に支障をきたさない、法定協議会の設置など道内の現状を明らかにしたい。この学会は会費が安くどなたでも入会できる。ぜひこの機会に検討していただきたい」と挨拶した。次いで、シンポを企画した濱田武士副会長(北海学園大教授、北海学園会開発研究所所長)が「このシンポは北海学園大学開発研究所との共同開催とし、洋上風力発電に賛成、反対にかかわらず、認識を深め、学会の趣旨に基づいた議論を進めたい。各報告者はかなり踏み込んだ内容を話す。報告後のパネル、コメント、総合討論を通して本日のシンポを理解していただいたい」と述べた。
このあと、ファシリテーターの工藤貴史氏(東京海洋大教授)が「第7次エネルギー基本計画案が発表されたが、政府は洋上風力発電をさらに推進していく。シンポでは推進サイドと漁業界との間にある課題を浮かび上がらせたい」と述べ、報告に入った。
第1報告は「北海道における洋上風力発電の推進状況」をテーマに西岡孝一郎氏(道経済部ゼロカーボン推進局風力担当局長)が案件形成から協議会、協議会における議論、協議会意見取りまとめ後の流れ、洋上風力発電導入拡大に向けた取り組みを紹介した。本道では有望区域に石狩市沖、岩宇・南後志、島牧沖、檜山沖、松前沖の5つが指定され、松前沖、檜山沖、岩宇・南後志沖の3つで法定協議会が開催され、松前沖は意見とりまとめを終え、促進区域指定の手続きに移行している。
第2報告は「再エネ海域利用法と漁業」をテーマに長谷成人氏(東京水産振興会理事)が従来の沿岸開発と異なり、再エネ海域利用法による洋上風力発電は「漁業補償から漁業協調へ」という性格をもち、「漁業に支障を及ぼさない」との規定により関係漁業者(利害関係者)の合意が必要になると述べた。今後の推進に当たっては、秋サケ稚魚への影響など協議会同士の横の連携が大切で、「漁業権は放棄しない」ことを強調した。
第3報告は「石狩湾における立地構想と漁業調整の経過」をテーマに麓貴光氏(水土舎社長)が案件形成の手順と協議会の設置、利害関係漁業者の動きとして「関係5漁協が統一した考え方をもって対応する」ことを確認しているとした。組合員のヒアリングでは洋上風力発電の影響に懸念する声がある一方、「共生を考えるべき」との意見も出ているという。銚子、五島などの先行事例を紹介し、関係漁業者の意識(理解)醸成が大切で、漁業勢力の減退に伴い案件形成が集中する傾向、カギとなる「漁業共生・振興策」の課題を指摘した。
第4報告は「洋上風力発電のEEZ立地の問題」をテーマに原口聖二氏(道機船連常務)が洋上風力電力の世界的な動向を紹介し、このままでは洋上風力発電の立地は日本EEZ内の沿岸、沖合はほとんど網羅されると述べ、資源管理、経済性などの面から課題を分析した。漁業との関係では採算性に不安で、漁業振興に寄与できるのか、②政府が責任をもってMSP(海洋空間計画)を設定すべき、③政府がベースラインをしっかり作るような漁業影響調査をやるべきといった点を提起した。
第5報告は「洋上風力発電立地と科学的判断」をテーマに河邊玲氏(長崎大教授)が台湾(着床式)と長崎(浮体式)での調査に基づき、漁法の制限と影響、漁場の減少に対する緩和策を解説した。漁業者とのコミュニケーションが大事で、特に「事業計画の初期段階で漁業者が参加する」、「地域の漁業に知識、経験をもち漁業者に信望ある人」が必要と述べ、環境に配慮しながら洋上風力発電と漁業の共生という難解に臨むことを提起した。
報告を受け、末永芳美氏(元東京海洋大教授)が各報告の内容に感謝し、再エネ海域利用法について「漁業者の視点が抜けていることが一番残念」と述べ、巨大開発の失敗例として揚子江の三峡ダム決壊による海洋環境の異変を示し、洋上風力発電に対しても熟慮し、共生をしっかり配慮した国民的な議論を求めた。
総合討論 利害関係者、国による調査、浜の主体性が問われる
総合討論は、工藤氏を進行役に各報告者がパネラーとなって、初めに洋上風力発電の案件形成から法定協議会設置までの課題を討論した。西岡氏は「浜の方々の理解がないと一歩も進まない。漁業、漁場の利用が複雑で、漁協とよく相談して慎重に進める」。長谷氏は「利害関係者をどこまで含めるかが大切」と述べ、麓氏は「合意形成に時間をかける」こと、原口氏は「協議会には出席できないので、研究者に代弁してもらっている」。河邉氏は「地域によって重要魚種は異なる。生態がわかる魚種もあるが、わからない魚種も多い。国策として調査をしっかりやるべき」と述べた。
漁業権の問題、漁場の削減など洋上風力発電の影響をどう考えるかについて「今回の再エネ海域利用法には、漁業権の補償という項目がない」ので、漁業振興策の形で地域に寄与してもらう体系となっている。「洋上風力発電による漁場、漁業の損失を立証するのは難しい」という議論になった。また、出捐金が30年間出てくるので、国民に納得できる使い方、環境に配慮した共生策をどう工夫していくのが問われる。最終的に「浜の主体性が問われる」との問題提起があった。