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タイの音楽~タイ的なるものをめぐって(3)

2021-02-03 06:44:05 | ハノイ
 古典舞踊、歌謡における舞台の上での男女の役割であるが、女性は踊る、歌う方であり、男性は楽器を演奏する方である。この点は日本の脳や雅楽とは異なる。日本では女性はむしろ神聖な巫女であろうか。とは言え女性がわずかに演奏に参加する間がある。自分が歌う歌の拍子をとるために酒の盃くらいのサイズのチャープ(鐘)を叩く。叩くとはいっても床に置かれた鐘に手にもったもう一方の鐘を落とすという所作である。あくまで女性の歌への拍子取の意味合いであるが落とすことによってカチン、カチンとホールに小さいが甲高く響きその演奏に歯切れのいい、かつ冥絶な味を添え、伴奏として補助的に参加していくことになる。
 ラコーン・ナーイと呼ばれる宮中舞踊を観たことがある。かつては国王のご機嫌うるわしからむことを希って官女達が踊ったようである。地面から足を離さず地面を踏みつけ腰を落として重心を下げて緩やかに動く。両足を交互に動かし前に進み後ろにさがるという動きが基本である。出来るだけ地面に平行に水平に、躍動感は乏しい。さりげない手の指、目の動き、顔の表情に深い意味がありそうである。稲作農耕での泥田での身振りと思えば当たっている。どこに強弱があるか分からない。遊牧民の世界での地面からスキップしたり、垂直に躍動したり回転したり激しい動作はどこにも見られない。
 演奏をぐっと聴き入る。そこでは同じ旋律が延々と繰り返されていく。その間に音色を変えたり楽器を変えたり歌の種類を変えたりしていく。どこで終わるのか時間に対して欲求がない。時間を放棄して完結に対する執着がない。そこでは速さは美徳ではない。時間系列に進行形がない。のんべんだらりである。輪廻のようにぐるりぐるり回っている。
 
 西洋の音楽ではオクターブを起点として非連続に発展する。一音一音切断される。音階を「切っていく」と言ってよい。そのあり方は「父性原理」とも言えよう。一方、アジアの音楽は楽音のみならず非音楽を織り交ぜて連続性を保持していく。きめ細かく旋律が伸縮自在に伸びていく。思うにアジアの文化は自然をとり込むことや自然の中に生きることを特徴としている。虫の鳴く声、風の音、川の流れなど。一方、西洋の世界は自然を乗り越えて人間が創り出せる限り技巧を凝らす。
 こうした自然への対応の仕方はおのずから「母性原理」を包括するものと言えよう。タイの村々を訪れて「ここで泊めていただけないか」とお願いする。「何もないけどそれでもよかったらどうぞ」ということになる。その日は農作業が中断してしまうこともある。夕暮れより歌って踊って、、、、歓迎パーティーとなる。「また来年も来いよ!」ということになる。知らない人でもいつでも迎え入れる開かれた社会である。ということは、開かれているが故にいろんな文化が何度も行き交い幾重にも沈殿していったのであろう。アジアは奥の深いフレキシブルな柔構造を持つ文化が花開いたのである。ついでながら私が中東イスラム国に行った時に「家を見せてほしい」と突然訪れた遊牧民に農家で「ノー!」と拒絶されたことは強烈な記憶にある。
 島尾敏雄は奄美大島での生活で「日本(本州のことか?)の中には、ある固さがある」と書いている。こっつんと固いものがある。ところが「南に来るとそれがあまり感じない、柔らかいものを感じる。」と書いている。頭から押さえつけて浸透させるものでなく、足の裏の方から這い上がってくる生活の根のようなもの」と。そうした現象は履物文化を見ても十分わかる。革靴ではなく草履やサンダルの文化である。衣服を見てもアジアでは洋服のようにフィットする文化ではなくフリーサイズの服や着物の文化である。
 アジアでは西洋における見通しのきく透明な空間から生まれる人間中心の近代合理主義の社会ではなく、自然の摂理と慈悲に身を委ねる謙虚な文化を持つ社会なのである。ユングが言うところの、古くて、暗くて、深くて、偉大な自己の世界に触れうるところの社会である。タイに代表されるアジアの国々の音楽に触れながら、その柔らかい、ゆるやかな音調の文化にはどこまでも奥深く魅惑を漂わせる魔性がいるように思えてならない。
 メモ書き
 *タイの古典舞踊、歌謡の持つ特質 -西洋との比較でー
 (全体のイメージ)
  開放性があり重層的な文化である。
  しかし、基層のところではやわらかい」
  限りなく「優しい」
  手足、目の動き、顔の表情に意味がある。
  自然や風土を取り込んでいる。
 (曲の速さ)
  速さが美徳ではない。伸縮自在の拍節が連続している。
  時間進行に合せて質が変わっていかない。
  いつ終わるかは分からない。時間を放棄する。
 (踊りの技法)
  重心が大地に落ちている。
  地面から足を離さず、地面に平行に進む。
 (演奏法)
  強弱があいまい。
  偶数拍子のリズム
  胡坐をかいて演奏する。
 (伝承方法)
  個が出てこない。
  口頭伝承である。      断章
 

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