夜行バスで眠られなかったせいか、または た安心感のせいか、新着の異郷の土地にもかわらずたっぷり午睡ができました。床下でがやがや話す声で目を覚したのは午後三時をまわっていました。
まだ気温は三十度ありますが暑かった日差もやや弱まり、樹々の地にさす影も濃さを増してきたようにみえます。
ガイドのパイラット氏が木製の階段をあがってきました。「キムラさん、朝会ったコンケーンコマーシャルカレッジの先生たちが来てくれましたよ。」 彼のうしろから二人の男性と一人の女性があがってきました。 午睡起きでボーッとしていた私の意識も嬉しい訪問者が目の前に来たという状況を確認してにわかに活気づいてきました。イサーンの先生と話ができる!このことは私にとって感動的な事なのです。あのタイ映画でみた 「クルー・バン・ノーク」 (田舎の先生)が私のミミズのネットワークに出現したのです。 イサーンの教育事情、特に子どもたちの勉強の様子や 暮しの実情、先生たちの教育観などどうしてどうしても聞きたいと思っていました。ここで面識をつくっておけば、今度日本へ帰ったあとも教育交流はできるはずです。イサーンの先生と 話すことー今回の大きな目的のひとつでした。
さっそくパーティの準備です。スーテン氏 の奥さんが手際よく手料理を作ってくれまし た牛肉と野菜を炒めたものでヌーヤム・ナ ム・トクという料理でレモン汁につけて食べ るのだそうです。ガイド氏も手際よくアルコ ール類やジュースを持ち込んでくれました。
人来たりなばアルコールはいづこの国も同じか。 タイウイスキー(中瓶で二十パーツ)、 メコンウイスキー(小瓶で六十パーツ)、氷 (一キロ八パーツ) (※一パーツ約九円)が 並べられました。テープレコーダー、カメラ、ノート、メモ用紙、私のフィールドワー クも準備OKです。 やがてスーテン氏の隣人、友人、親戚の人も車座に加わってくれました。いよいよアルコールを口にしながら談笑することになりました。
ガイド氏が連れて来た男性二人は先生、女性の一人はその友達です 一人は今朝、町に到着直後に訪れたガイド氏の「助っ人」のトン チャイ先生。少し赤ら顔でやさしそうです が、野武士のような精悍な面持です。生まれも育ちも首都バンコックで五年前に教師とし てイサーンにやってきたという変わった経歴 二十九歳、商業を担当しているとのこと。 女性はこの先生の友達。ラオス国境の町ノン カイで生まれ、現在コンケーンの自動車会社のOLのエーイさん、二十五歳です。 もう一人の先生はバンテュー先生でコンケーン生まれで教育もコンケーンで受けた生粋のイサー ン子。彼の奥さんは南部タイの人で学生時代 に知り合い結婚したとか。 彼の教科は英語。 私の英語で話しかけるのですが、お互いにナマリのきついせいか意志疎通がうまくいきま せん。ガイド氏なして生の声が聞かせてもら えると期待したのですが無理でした。
私の一番の関心事はイサーンの人が常日頃 イサーンを、コンケーンをどのように考えて いるか、ということでした。とにかく車座になった人々に順番に聞いてみることにしましました。
まだ気温は三十度ありますが暑かった日差もやや弱まり、樹々の地にさす影も濃さを増してきたようにみえます。
ガイドのパイラット氏が木製の階段をあがってきました。「キムラさん、朝会ったコンケーンコマーシャルカレッジの先生たちが来てくれましたよ。」 彼のうしろから二人の男性と一人の女性があがってきました。 午睡起きでボーッとしていた私の意識も嬉しい訪問者が目の前に来たという状況を確認してにわかに活気づいてきました。イサーンの先生と話ができる!このことは私にとって感動的な事なのです。あのタイ映画でみた 「クルー・バン・ノーク」 (田舎の先生)が私のミミズのネットワークに出現したのです。 イサーンの教育事情、特に子どもたちの勉強の様子や 暮しの実情、先生たちの教育観などどうしてどうしても聞きたいと思っていました。ここで面識をつくっておけば、今度日本へ帰ったあとも教育交流はできるはずです。イサーンの先生と 話すことー今回の大きな目的のひとつでした。
さっそくパーティの準備です。スーテン氏 の奥さんが手際よく手料理を作ってくれまし た牛肉と野菜を炒めたものでヌーヤム・ナ ム・トクという料理でレモン汁につけて食べ るのだそうです。ガイド氏も手際よくアルコ ール類やジュースを持ち込んでくれました。
人来たりなばアルコールはいづこの国も同じか。 タイウイスキー(中瓶で二十パーツ)、 メコンウイスキー(小瓶で六十パーツ)、氷 (一キロ八パーツ) (※一パーツ約九円)が 並べられました。テープレコーダー、カメラ、ノート、メモ用紙、私のフィールドワー クも準備OKです。 やがてスーテン氏の隣人、友人、親戚の人も車座に加わってくれました。いよいよアルコールを口にしながら談笑することになりました。
ガイド氏が連れて来た男性二人は先生、女性の一人はその友達です 一人は今朝、町に到着直後に訪れたガイド氏の「助っ人」のトン チャイ先生。少し赤ら顔でやさしそうです が、野武士のような精悍な面持です。生まれも育ちも首都バンコックで五年前に教師とし てイサーンにやってきたという変わった経歴 二十九歳、商業を担当しているとのこと。 女性はこの先生の友達。ラオス国境の町ノン カイで生まれ、現在コンケーンの自動車会社のOLのエーイさん、二十五歳です。 もう一人の先生はバンテュー先生でコンケーン生まれで教育もコンケーンで受けた生粋のイサー ン子。彼の奥さんは南部タイの人で学生時代 に知り合い結婚したとか。 彼の教科は英語。 私の英語で話しかけるのですが、お互いにナマリのきついせいか意志疎通がうまくいきま せん。ガイド氏なして生の声が聞かせてもら えると期待したのですが無理でした。
私の一番の関心事はイサーンの人が常日頃 イサーンを、コンケーンをどのように考えて いるか、ということでした。とにかく車座になった人々に順番に聞いてみることにしましました。
まずはトンチャイ先生。「僕は五年前にバンコックからここに来たがイサーンはいいね。特にこのコンケーンは大きな問題もないし、住み心地がいいね。
初めてここに来た時は大きなビルも会社もほとんどなかった。随分変わったね。」
それではパンテュー先生はいかがですか。「ぼくはイサーンに生まれたことをとても誇りに思っている。 二十年前にタイの首相になったタナラットはここから二百キロほど北に行ったナコンパーム県の出身だが、彼はイサーンを次々に開発してくれた。ナコンバーム、コンケーン、ウドン、コラートは大都会になったね。今、トンチャイ先生が言ったようにコンケーンだけ考えてみても、ほとんど電気は普及したし、テレビ、ラジオの中継地もでき大いに普及しつつある。新聞もその日のうちに入るようになったし、 今年から電話もバンコックから直通になったよ。 バスなどの交通網もよく発展し、バンコックも近くなったね。もうすぐバンコックと 同じくらい発展すると思うね、いや、将来は タイの中心になるよ、きっと。」 すごい自信と誇りなのです。「人々は生活も楽になった し、不平不満を言う人もいない。ものを盗む 者も全くいない。」とパンテュー先生の礼賛の弁舌は止むところを知りません。<バンコックと同じようになる>と彼が言うことには少々戸惑いをもちますが、この五年間の町の発展ぶりは確かなようです。
エーイさんはいか がですか。「わたしが六年前に来た時は 何もなかったのに、本当に変わりましたね。」スーテン氏も奥さんもおばあさんのタイオン さんも同じ意見のようです。 スーテン氏の叔 父に当るカイ氏 (四十八歳)。 「そうだね、わ しもみんなと同じ意見だよ。ここで生まれた しコンケーンが一番だ。特に盗人がいないこ とがいい。これからますます発展すると思う よ。」
それでは隣人ファン氏(四十四歳)は? 「カイおっさんと同じだね。 昔とくらべてみ んなが学校へ行くようになってそれだけ男の 子 女の子がかしこくなったね。 田んぼに出 たがらんのが問題だがね。昔、町に行っても あれほど多く車もなかったし、会社、オフィ ス、銀行、市場、映画館なんてものもなかっ た。十年前とくらべると夢のように変っちまったよ。今後もどんどん発展して良くなると 思うよ。」最後のインタビューはパチョン氏 (三十一歳)。 スーテン氏の幼な友達です。 話はここで少し横道にそれますが、男連中は皆 上半身裸なのです。
このパチョン氏も裸なの ですが、首下にみごとなイレズミをしているのです。図柄はアンコールワットのようなお寺院の模様で、その下にはクメール文字があり、「仏陀の御慈悲を!」と刻まれているそうです。
一年前にウドンタニの僧に彫りつけてもらったとか。話を元に戻して彼の言は「ここはイサーンの中心だね。 今後もどんどん発展していくよ。だけど、新聞で読む限りタイはまだまだ多くの問題をかかえているよ。最近はコミュニストの問題が深刻だね。」である。 少し辛目のコメントか。でもここに集ま
ってくれた先生、会社員、農民、運転手、みんなイサーン人として一様に郷土に誇りと自信を持っていることは確かです。
そして、おの原因がここ五年、十年の産業、経済の圧倒的な発展にあるようです。
タイは一九六一年より「国家経済社会発展計画」を実施し、この年は第四次五か年計画の大詰とか。その主目的である「経済活動の地方分散化」、「後進農村地域の貧困除去」、さらには「都市農村の所得格差の縮少」などの政策はここコンケーンでは確かに浸透してきているようです。いや彼等の言葉を借りる限り目を見張るものがあるようです。が、こうした経済開発が真にそこに住む人々すべて幸せをもたらすかどうか未確定ですし、イサーンにおける急速な発展の影に予期できぬ魔手が潜んでいないとも言えないでしょう。
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