先日、故郷での仕事のついでに、久しぶりに何人かの知人とあった。
若いころの面影を残しながらも、確実に年齢を重ねた友達。
あの頃、数十年後にこんな姿になっているなんて、想像する気にもなれなかったね。
たわいもない近況報告の中で、何人かの友の訃報を聞いた。
若すぎる死。
ずいぶん前に亡くなったよと聞かされたO君は、小、中学校を一緒に通った友達だ。
身体能力に優れスポーツが得意だった。
そのうえ、よく気の付く優しい性格で、女の子からも人気があった。
親しくなったのは、中学で同級生になってからだ。
思春期の入り口で、異性を意識し始めるころ。
なのに、彼は、あいかわらず話しやすく、同性と同じような心安さがあった。
妙に気が合って、ほかの仲間と何人かで、小さな悪いこともたくさんやった。
夏休みの宿題の答えを同級生に売ったり、偽の匿名ラブレターを出して友達をからかったり・・・
子供のころから、彼は周囲の仲間より、少し大人びていた。
花街に生まれ育って、早くから大人にならざるを得なかったのかもしれない。
家庭環境が複雑だといううわさも聞いたことがある。
しかし、そんなことは、彼の価値に何ら影響のあることではなかったから
私は、その複雑さを深く知ろうとしたこともなかった。
別々の高校に通うようになったある日、夜遅く、
二階の私の部屋の窓の外から、私を遠慮がちに呼ぶ声が聞こえた。
窓を開けると彼だった。
そっと降りて行って、玄関を開けると
「とりあえず、あがんなよ」
と部屋に招き入れた。
「家出してきたんだ」
直線距離で1キロも離れていない我が家に来るくらいでは、
心配するような家出ではない。
彼は一言も家出の理由を話さなかった。
私も聞かないまま、1時間ほど世間話をすると
「ありがと、帰るわ」「うん」
「あのさ、また何かあったら突然、来ていいかな。たぶん、
絶対に、来ることはないと思うよ。でもさ、何かあった時に
行けるところがあると思うとうれしいじゃん」
「いいよ。いつでもおいで」
いつもの屈託のない笑顔にもどって彼は帰って行った。
その言葉通り、その後一度も、突然、訪ねてくることはなかった。
それどころか、進む道が違ってきた私たちは普通に会うことすらほとんど
なくなっていた。
それから数年後、
「結婚するから式に来てくれない」
突然の話にびっくりしたが、
突然だったのは、わたしへの連絡だけではない。
東京に住んでいるキャリア女性と知り合って2カ月ぐらいの
スピード結婚。
故郷の町に住み続けていた彼とは遠距離恋愛。
式は、彼の人柄を表わすように、ちょっとおしゃれで、しかも
気取らない。引き出物も銀のハートのペンダントヘッド。
かさばらなくて、しゃれている。
結婚してもそのまま別居生活を続けるというのも
彼らしい新しいスタイルのような気がした。
彼が、性同一性障害だったと知ったのは、それからしばらく経ってからだった。
性を超えた愛のために結婚したのか、カモフラージュのためだったのか
とうとう同居することなく、まもなく離婚したという話も聞いた。
若くして亡くなった彼の死因を私は聞く勇気がなかった。
どんな病名がついていようとそれは、自殺のような気がした。
彼は、自分と自分の運命を一生懸命折り合いをつけようと頑張っていたのだろう。
人気者で友達も多かったのに、家出したくなった時に、自分の孤独に気付いてしまう。
彼の人生を私は想像の中でしかトレースすることはできないが、
O君は、選んで早く死んでいったという思いは、なぜか妙な確信を伴う。
O君、本当にいつ突然来てくれてもよかったんだよ。
いつ来たって私はO君に
「とりあえず、あがんなよ」
って、言ってあげられたのに。本当だよ。
あなたが亡くなった原因も、亡くなった歳さえも私は正確に知らないのに、
今日は、一日、あなたのことを思いました。
それだけが、わたしにできる追悼ですから。
若いころの面影を残しながらも、確実に年齢を重ねた友達。
あの頃、数十年後にこんな姿になっているなんて、想像する気にもなれなかったね。
たわいもない近況報告の中で、何人かの友の訃報を聞いた。
若すぎる死。
ずいぶん前に亡くなったよと聞かされたO君は、小、中学校を一緒に通った友達だ。
身体能力に優れスポーツが得意だった。
そのうえ、よく気の付く優しい性格で、女の子からも人気があった。
親しくなったのは、中学で同級生になってからだ。
思春期の入り口で、異性を意識し始めるころ。
なのに、彼は、あいかわらず話しやすく、同性と同じような心安さがあった。
妙に気が合って、ほかの仲間と何人かで、小さな悪いこともたくさんやった。
夏休みの宿題の答えを同級生に売ったり、偽の匿名ラブレターを出して友達をからかったり・・・
子供のころから、彼は周囲の仲間より、少し大人びていた。
花街に生まれ育って、早くから大人にならざるを得なかったのかもしれない。
家庭環境が複雑だといううわさも聞いたことがある。
しかし、そんなことは、彼の価値に何ら影響のあることではなかったから
私は、その複雑さを深く知ろうとしたこともなかった。
別々の高校に通うようになったある日、夜遅く、
二階の私の部屋の窓の外から、私を遠慮がちに呼ぶ声が聞こえた。
窓を開けると彼だった。
そっと降りて行って、玄関を開けると
「とりあえず、あがんなよ」
と部屋に招き入れた。
「家出してきたんだ」
直線距離で1キロも離れていない我が家に来るくらいでは、
心配するような家出ではない。
彼は一言も家出の理由を話さなかった。
私も聞かないまま、1時間ほど世間話をすると
「ありがと、帰るわ」「うん」
「あのさ、また何かあったら突然、来ていいかな。たぶん、
絶対に、来ることはないと思うよ。でもさ、何かあった時に
行けるところがあると思うとうれしいじゃん」
「いいよ。いつでもおいで」
いつもの屈託のない笑顔にもどって彼は帰って行った。
その言葉通り、その後一度も、突然、訪ねてくることはなかった。
それどころか、進む道が違ってきた私たちは普通に会うことすらほとんど
なくなっていた。
それから数年後、
「結婚するから式に来てくれない」
突然の話にびっくりしたが、
突然だったのは、わたしへの連絡だけではない。
東京に住んでいるキャリア女性と知り合って2カ月ぐらいの
スピード結婚。
故郷の町に住み続けていた彼とは遠距離恋愛。
式は、彼の人柄を表わすように、ちょっとおしゃれで、しかも
気取らない。引き出物も銀のハートのペンダントヘッド。
かさばらなくて、しゃれている。
結婚してもそのまま別居生活を続けるというのも
彼らしい新しいスタイルのような気がした。
彼が、性同一性障害だったと知ったのは、それからしばらく経ってからだった。
性を超えた愛のために結婚したのか、カモフラージュのためだったのか
とうとう同居することなく、まもなく離婚したという話も聞いた。
若くして亡くなった彼の死因を私は聞く勇気がなかった。
どんな病名がついていようとそれは、自殺のような気がした。
彼は、自分と自分の運命を一生懸命折り合いをつけようと頑張っていたのだろう。
人気者で友達も多かったのに、家出したくなった時に、自分の孤独に気付いてしまう。
彼の人生を私は想像の中でしかトレースすることはできないが、
O君は、選んで早く死んでいったという思いは、なぜか妙な確信を伴う。
O君、本当にいつ突然来てくれてもよかったんだよ。
いつ来たって私はO君に
「とりあえず、あがんなよ」
って、言ってあげられたのに。本当だよ。
あなたが亡くなった原因も、亡くなった歳さえも私は正確に知らないのに、
今日は、一日、あなたのことを思いました。
それだけが、わたしにできる追悼ですから。