このところ衰弱が激しくて、危篤状態が続いていたYさん。
担当のナースが訪問するとすでに意識もなく、下顎呼吸が始まっていたそうです。
ここ数日、妻は入院をさせるか入所をさせるかで大きく揺れていました。
苦しそうな夫を見ているのが、とても辛かったのです。
支えてくれる家族はなく、たったひとりで危うい呼吸の夫を、どんな思いで看ていたのでしょうか。
「こんなに良くしてもらっているのに、入院させたいなんて、申し訳なくて言えないですよね。でも、こんなに辛そうなのに、何もできないで見てるのが辛いんです。」担当ナースにそう打ち明けてくれました。
家で看取ることが絶対良いわけじゃない。
我慢しないで、入院先を探しましょうね。
そんな話をした矢先、すでに命の火は消える寸前になっていました。
退院した日に「やっとここまで戻って来れたな。」そう言った夫の言葉を思いだし、残り少ない時間をやはり家で過ごさせたいと、妻は言いました。
「また、気持ちが変わってしまうかもしれないけれど、今はここで見送りたいと思います。」と。
「だれでも、気持ちが揺れて当たり前です。いつでも話は聞きます。出来るだけのお手伝いをします。だから我慢しないで、なんでも言ってくださいね。」
そしてこの日、Yさんは担当ナースの訪問を待っていたかのように、訪問時間の中でその生涯を閉じたのです。
妻は、「こんなにあっけないななんて・・」そう言いながらも、取り乱すこともなく、担当ナースと死出の身支度を整えました。
訪問から帰って、Yさんの死を知った私は、そのままYさんにお別れをしに行きました。
髪を洗って綺麗に整え、藍色のアンサンブルの着物を着たYさんは、うっすらと笑みを浮かべて、とても穏やかな表情で眠っていました。
「頑張ったね、お父さん。ちゃーんと逝きどきを考えてくれたのね。奥さんひとりじゃない時に、これ以上奥さんが疲れすぎないうちに、一番いい時間を選んで逝くなんて、やっぱり、奥さんのこと、大事に思ってたのね。さすが、かっこいいねお父さん。」
妻は「あの時、どこにもやらなくて良かった。どこかに入院させてたら、わたしきっとすごく後悔してたと思うの。本当にここで見送れて良かった。」何度もそう言っていました。
いいご夫婦です。
頑固おやじの見本みたいなYさんの、それでいていたずらっ子のような満面の笑顔を、私たちはわすれません。
そして、Yさんに寄り添って、いつでもYさんの心配ばかりしていた、頑張り屋の奥さんも。
もう1人の担当ナースが、やはり訪問後にお別れに向かいました。
やがて、ステーションに戻った彼女はぐちゃのぐちゃの顔で、泣きながら帰ってきました。
うちに就職してかれこれ一年近く立ちましたが、今でも担当の患者さんとのお別れは、彼女にとっては身内同然とても苦しいものなのです。
人の死に慣れる必要はないよ。
その感受性が、優しさとなって患者さんへの支援につながっているのだから。
お別れに泣いたからって、プロとしてやれることはちゃんとやっているのだから。
一緒に泣いてくれる人がそばにいるのも、嬉しいものです。
寂しくなるけど、私たちの大好きだったYさんが、これからはずっと上の方から、愛する奥さんを見守ってくれることを信じてお別れです。
いってらっしゃい。
担当のナースが訪問するとすでに意識もなく、下顎呼吸が始まっていたそうです。
ここ数日、妻は入院をさせるか入所をさせるかで大きく揺れていました。
苦しそうな夫を見ているのが、とても辛かったのです。
支えてくれる家族はなく、たったひとりで危うい呼吸の夫を、どんな思いで看ていたのでしょうか。
「こんなに良くしてもらっているのに、入院させたいなんて、申し訳なくて言えないですよね。でも、こんなに辛そうなのに、何もできないで見てるのが辛いんです。」担当ナースにそう打ち明けてくれました。
家で看取ることが絶対良いわけじゃない。
我慢しないで、入院先を探しましょうね。
そんな話をした矢先、すでに命の火は消える寸前になっていました。
退院した日に「やっとここまで戻って来れたな。」そう言った夫の言葉を思いだし、残り少ない時間をやはり家で過ごさせたいと、妻は言いました。
「また、気持ちが変わってしまうかもしれないけれど、今はここで見送りたいと思います。」と。
「だれでも、気持ちが揺れて当たり前です。いつでも話は聞きます。出来るだけのお手伝いをします。だから我慢しないで、なんでも言ってくださいね。」
そしてこの日、Yさんは担当ナースの訪問を待っていたかのように、訪問時間の中でその生涯を閉じたのです。
妻は、「こんなにあっけないななんて・・」そう言いながらも、取り乱すこともなく、担当ナースと死出の身支度を整えました。
訪問から帰って、Yさんの死を知った私は、そのままYさんにお別れをしに行きました。
髪を洗って綺麗に整え、藍色のアンサンブルの着物を着たYさんは、うっすらと笑みを浮かべて、とても穏やかな表情で眠っていました。
「頑張ったね、お父さん。ちゃーんと逝きどきを考えてくれたのね。奥さんひとりじゃない時に、これ以上奥さんが疲れすぎないうちに、一番いい時間を選んで逝くなんて、やっぱり、奥さんのこと、大事に思ってたのね。さすが、かっこいいねお父さん。」
妻は「あの時、どこにもやらなくて良かった。どこかに入院させてたら、わたしきっとすごく後悔してたと思うの。本当にここで見送れて良かった。」何度もそう言っていました。
いいご夫婦です。
頑固おやじの見本みたいなYさんの、それでいていたずらっ子のような満面の笑顔を、私たちはわすれません。
そして、Yさんに寄り添って、いつでもYさんの心配ばかりしていた、頑張り屋の奥さんも。
もう1人の担当ナースが、やはり訪問後にお別れに向かいました。
やがて、ステーションに戻った彼女はぐちゃのぐちゃの顔で、泣きながら帰ってきました。
うちに就職してかれこれ一年近く立ちましたが、今でも担当の患者さんとのお別れは、彼女にとっては身内同然とても苦しいものなのです。
人の死に慣れる必要はないよ。
その感受性が、優しさとなって患者さんへの支援につながっているのだから。
お別れに泣いたからって、プロとしてやれることはちゃんとやっているのだから。
一緒に泣いてくれる人がそばにいるのも、嬉しいものです。
寂しくなるけど、私たちの大好きだったYさんが、これからはずっと上の方から、愛する奥さんを見守ってくれることを信じてお別れです。
いってらっしゃい。