エボラ出血熱対策を阻む強固な壁、”文化の違い”です。シエラレオーネの人々が、医薬品(西洋薬)を拒絶して、伝統的治療師の薬草を好む(固執)するという難題に直面しています。
- シエラレオーネでは、人々が西洋薬の服用を拒絶して伝統的治療に固執している。これがさらに流行の加速に寄与していて、すでに感染者96名犠牲者22名以上の事態に発展している。
- シエラレオーネ当局は、保健衛生の問題のみならず文化の問題にも直面している。
- 伝統的治療師やハーブ治療は、西アフリカではよく普及し受け入れられており、彼らは、秘伝のレシピでカゼからマラリアまで治せると主張している(With secret recipes of herbs and potions, they claim to cure everything from the common cold to malaria.)
- 多くの患者たちは(伝統的治療に)固執し、医療機関に受診しようとせずにコミュニティから出てこない。だから、感染者の一部しか把握できない。
- 感染者は、「呪いの銃」に打たれたのだと信じられている(victims of a curse fired by a “witch gun”;)。そして魔術師こそが、その呪いを解く能力をもつと思われている。
- 反面、医療者は拒絶されたり、採血を拒否されたり、さらには、医療機関から患者を奪回するべく投石された例まである。
- 保健省はFAQsの啓発チラシを印刷して配布している。そこには「エボラは呪いか?」「生姜と蜂蜜とにんにくとたまねぎと酢を混ぜたものはエボラに有効か?」といった質問にも丁寧に答えられている。“Is it true Ebola is a curse?” and “Can a mix of ginger, honey, garlic, onion and vinegar cure ebola?”
- 携帯メールも使い、コウモリを食べないようにとのメッセージも流されていない。
- 有名バンドも動員し、「エボラ、エボラが街に来た。友達に触っちゃダメ! 食べちゃダメ!危ないよ!」という歌詞の歌を流行らせている。“Ebola, ebola in town/Don’t touch your friend/No eating something/It’s dangerous”.
伝統的治療師との関係は、セネガル在勤中に管理人はいろいろ経験することができました。ある伝統的治療師の知己を得たのをきっかけに、伝統的治療師の集まりに入ってみたり、治療儀式のその場に参加できたり。メンタル分野においては彼らの理論をひととおり聞く機会にも恵まれました。たしかに、メンタル疾患においても、多種多様な「憑き物」が分類されており、薬草・神様への生贄・舞踏などが行われていて村人から一定の支持を受けています。
ただ、セネガルでもスーダンでも、近代医学の側が伝統的治療師にアプローチをかけていて、基本的な薬を供給して、かれらの治療儀式と同時に投与してもらうということもやっていました(医療資源が気がとおくなるぐらい絶対的に足りない条件下ではこれもあり)。シエラレオーネでも、そういう人脈ネットワークがあれば、伝統的治療師がエボラだと思ったら病院に紹介(病院にゆくよう説得)ということぐらいは期待できるのですが、どうもそうではない様です。
こういう、人々の意識にすりこまれた文化には特効薬がなく、(逮捕とか拘留とか秘密警察とかいう劇薬を使える全体主義国家ではそういうものを使った例もあるものの、アフリカではその力もなく)お手上げなところです。
ソースはThe Economist
http://www.economist.com/blogs/baobab/2014/06/ebola-sierra-leone
Ebola in Sierra Leone
Which doctor?
Jun 19th 2014, 16:02 by T.T. | FREETOWN
管理人が外務省時代、セネガル在勤中に書いたペーパーです。
図書館等でこれらの雑誌にアクセスある方はどうぞ。
勝田 吉彰:西アフリカのセネガル共和国における精神科伝統的医療の理論と実際 臨床精神医学 31(10)1223-1227,2002
勝田 吉彰:セネガルの伝統的治療儀式-その治療的意義を考える- こころの科学 106 14-17,2002