ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

180. 道路工事で何が起こったのだろう。

2021-10-01 | 風物

北側の道路工事

 

 ターバンがとうとう馘になったのだろうか。それと同時に働き者のキャップも姿を見せなくなった。先週の半ばから二人とも姿を見せないので、工事現場は四人の内、二人だけが残っている。背がひょろりと高いロングと、主任のような男のふたりだけ。二人とも真っ黒で顔つきも彫りが深く、かと言ってインド人ではなさそう。たぶんパキスタン人ではないだろうか。親方だけがポルトガル人だ。親方は腹がドンと突き出して、ほとんど労働はしない。ということはロングと主任が二人だけで工事を進めている。親方はスマホをいじるか、あちこちに電話をかけまくっている。仕事の手配をしているのだろうが、工事の労働力の加勢にはならない。昨日は親方が煉瓦運びを手伝おうとして、煉瓦を4個ほど抱えて下に置こうとした時、よろよろとこけそうになった。日頃鍛えてないからバランスを崩したのだ。それにドンと出っ張った腹が邪魔をしたのだ。

 ロングは20代に見える。それともひょっとして10代かもしれない。主任は30代かも。

 主任は仕事もできるし、親方にすっかり信頼されているようで、自分と同じ国の人間をつれてきて指導している。しかしターバンとロングがよると触ると喧嘩をしていたのも、誰も止めようとしなかったし、主任も黙っていた。まして言葉が判らない親方はそんな二人を無視していた。

 ターバンが来なくなってロングはなんとなく寂しそうだ。仕事の手を止めてぼんやりと立っている姿が痛々しい。それでもゆっくりと石割を続けている。ハンマーを振りかざして石を割る動作は身体への衝撃が強そうで、一振りしたら呼吸を整えている。若い身体にとっても疲労が重なる。そうして労働者は急激に歳を取って行く。いつも白い野球帽をかぶっているキャップは近くで見るとしわしわの爺さん顔だ。年齢は判らないが、意外と若くて40代かもしれない。しかし力はなさそうだ。セメント袋を持ち上げるのに、ターバンもロングもひょいと持ち上げるのに、キャップは持ち上げられなくて近くにいるロングに助けを呼ぶ。気の良いロングは自分の作業の途中でも手助けにやって来る。

 水曜日の朝8時過ぎ、作業トラックがやってきた。中から作業員がぱらぱらと降りてきた。親方と班長、ロング、白い野球帽のキャップ、そして最後にターバンものそのそと出てきた。もうやめてしまったのかと思っていたターバンとキャップが二人とも戻って来た。これで通常のメンバーがそろったことになる。ところがロングがターバンに近付いて文句をつけている。また始まったのかと、班長も白キャップも不安そうに二人を取り巻いて見ている。なかなか仕事が始まらない。10分ほど経って、しびれを切らした親方が呼びに来たので険悪ムードが収まった。

 

水道タンクの空き地。左から…トラックの荷台で作業をしているのがキャップ。中央黒いTシャツが班長、その前の白いTシャツが親方、蛍光ベストがターバン、右端のプロテクター作業ズボンがロング。これでオールスター。

 

 我が家の南側にある水道タンクの空き地が工事の石や砂などの資材置き場になっている。北側の道路が道路工事の現場で、今まであった石畳をはがして、セメント石に敷き替える工事を進めている。親方がショベルカーで掘ったところに班長が定規で幅を計っているのをみんなで見ている。

 ターバンの隣にロングがいて、さっきの険悪ムードはどこにいったのか、ロングがターバンの肩をさわり、二人で笑いあっている。和気あいあいと、なんだか兄弟の雰囲気だ。ターバンが兄で、ロングが弟。そう考えたら、よると触ると喧嘩をしていたのも納得できる。いつも兄弟喧嘩をしていたのかもしれない。

 ターバンは偉そうな態度で他人に指図しているが、よく見るとかなり若い。20歳そこそこではないだろうか。時々バックミラーに自分の顔を写して、被ったターバンをあちこちいじっている。ある日は仕事が終わってみんながクルマに乗り込んでいる時に、ターバンがバックミラーに写る自分の姿をああでもないこうでもないとしつこく眺めていた。仕事が終わって、これから恋人に会いに行こうとしている若者の姿だった。

 

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