ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

190. パルメラの山火事

2022-08-01 | 風物

 7月13日、「火事や~」と叫ぶビトシの声が聞こえた。

 「火事はどこや~」

 「こっちやこっち」我が家の北の部屋、アトリエで叫ぶビトシ。

 

我が家のアトリエから撮影。普段は見えるパルメラ城は煙に隠れている。

 

 パルメラの城の下、山の稜線に沿って赤い火の手が見え、次第に勢いを増している。

 城の崖を這い上がっていく。もうすぐ風車小屋のある場所に届きそうだ。あの辺りは風車小屋が4棟あって、その内の3棟に人が住んでいるようだ。たぶん別荘として使っているのだろう。もう一つは元農家で、結構広い家と、ヤギや羊がいるようなちょっとした牧場といってもいい庭がある。そこにも風車小屋があるのだが、誰も住んでいないようだ。

 

2機の水上飛行機がサド湾の水を汲み上げ、山火事の炎を目掛けて大量の水を撒く。

 

水上飛行機がサド湾に胴体着水で水を汲み上げ、我が家の側を通ってパルメラの火災現場に向かい放水。見事だ。それを繰り返し何度も何度も。

 

 火の手は城の方には上がらずに、谷伝いを進んだ。山の稜線にはテレビ塔がふたつ立っている。右手の塔の裏側に火の手は進み、こちら側からはみえなくなった。

 

2基のアンテナ塔の間を炎が立ち昇ってくる

 

 しばらくして、左手のテレビ塔あたりから火の手が見え始め、こちら側の斜面が燃え始めた。山火事は怖い。風に乗って火の粉が撒き散らされ、思わぬところから火が燃え上がる。

 

 TVのニュースでは山火事の中継をやっている。この日は同時多発的に山火事が発生して、北部のボンバルや南部のアルガルベの別荘地など、全国7カ所で火事が起きている。その中でもパルメラの火事が中継でやっている。画面を見てもそれがどこかわからないが、巨大に太った老人が両脇を二人の消防士に抱えられて必死の形相で逃げて来た。その後ろの家は赤茶色に塗られていて、その色に見覚えがある。よく見ると、そこはいつも通る交差点だ。セトゥーバルからパルメラの城の下を通る狭い道で、カーブが多く、対向車が来ると危ない。ある日、前を走っていた乗用車が対向車とぶつかりそうになり、あっという間にサイドミラーをもぎ取られてしまった。前のクルマはすぐに停車したのだが、対向車は知ってか知らずか逃げて行った。それを見てから、私たちはその道を通らないことにした。

 その道がパルメラに行く国道に出た場所がニュースに映っていたのだ。その交差点の手前には赤茶色の家の他に十数軒の家があり、その向かいは春には野の花の咲き乱れる広い空き地になっている。

 

午後からは風向きが変わりあっという間に燃え広がった。

 

 空き地の周りは数件の豪邸が立ち並んでいるが、ニュースの映像では、空き地の草むらに火が入り、枯れ草がさざ波のように燃え広がった。そのあまりの速さに驚愕した。

 

 火事は朝方まで燃え続け、ようやく消えた。ヘリコプターや水上飛行機がサド湾の水を汲み上げ、何度も往復した努力の結果、ようやく山火事は鎮火した。

 

まわりはすっかり燃えてしまったが、豪邸2軒は無事だった。建物のまわりだけ緑が残っている。消防士たちが家だけは燃やせないと頑張った証拠。

 

パルメラの城の周りはすっかり焼けてしまった。

 

 二日後、パルメラに用事で出かけたのだが、火事は思っていたよりも何倍も燃えひろがっていた。パルメラの城をぐるりと取り巻くように、焼け跡が広がっていた。MUZ 2022/08/01

©2022 MUZVIT

 

 

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