9月28日 金曜日
「父帰る」菊池寛原作の芝居を見て
舞台の上の筋の運びと、俳優の情熱的な演技とが、見事に一本に
なってまことに呼吸もつかせぬ感動的な芝居であった。
此の芝居を見ていた私もやはり、抑えても抑えても涙が出てくる。
いつか涙はほほからあごえ流れ落ちた。
幕が下りてやがてパッと電燈がついた。隣にいる芥川を見ると芥川も
ハンケチでしきりに瞼を拭いている。久米の頬にも涙がとめどなく流れ
ている。小島政二郎も・・・目を真っ赤にしている。…・・・・・
私はすぐ後ろに座っている菊池寛を振り返った。その瞬間思いがけな
いものをそこに見て、また新しい感動が私を襲った。作者の菊池寛まで
が泣いているのだ。
菊池寛はあぐらをかいたまま、しばらくたとうとしない。とめどなく
あふれる涙は、彼の頬をすじになって流れている。・・・・
「泣くまい泣くまいと思って随分我慢したんだが、とうとうないちゃった」
と言う小島政二郎のいささか照れたような声が、廊下を出る戸口の辺から
聞こえてきた。
その時菊池寛の顔に、それまで一度も見たことの無い悲痛な表情をはっき
り私はみた。
菊池寛の人柄の一面であるが、人の面倒見の良いこと、多くの人が金の
無心に来るが、気に入った人には原稿を書かせて、原稿料として金を与えたり
(原稿はつまらないのでぼつにして) 垢だらけの天才少年 等、そのほか人間
性のあふれる内容が一杯書かれている。
「 心の栄養を補うには 」 ことかかない本である。
「父帰る」菊池寛原作の芝居を見て
舞台の上の筋の運びと、俳優の情熱的な演技とが、見事に一本に
なってまことに呼吸もつかせぬ感動的な芝居であった。
此の芝居を見ていた私もやはり、抑えても抑えても涙が出てくる。
いつか涙はほほからあごえ流れ落ちた。
幕が下りてやがてパッと電燈がついた。隣にいる芥川を見ると芥川も
ハンケチでしきりに瞼を拭いている。久米の頬にも涙がとめどなく流れ
ている。小島政二郎も・・・目を真っ赤にしている。…・・・・・
私はすぐ後ろに座っている菊池寛を振り返った。その瞬間思いがけな
いものをそこに見て、また新しい感動が私を襲った。作者の菊池寛まで
が泣いているのだ。
菊池寛はあぐらをかいたまま、しばらくたとうとしない。とめどなく
あふれる涙は、彼の頬をすじになって流れている。・・・・
「泣くまい泣くまいと思って随分我慢したんだが、とうとうないちゃった」
と言う小島政二郎のいささか照れたような声が、廊下を出る戸口の辺から
聞こえてきた。
その時菊池寛の顔に、それまで一度も見たことの無い悲痛な表情をはっき
り私はみた。
菊池寛の人柄の一面であるが、人の面倒見の良いこと、多くの人が金の
無心に来るが、気に入った人には原稿を書かせて、原稿料として金を与えたり
(原稿はつまらないのでぼつにして) 垢だらけの天才少年 等、そのほか人間
性のあふれる内容が一杯書かれている。
「 心の栄養を補うには 」 ことかかない本である。
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