82歳からの旅

私の記録

逸話に生きる 菊池寛 其の二

2012年09月28日 21時17分06秒 | 読書
 9月28日 金曜日
「父帰る」菊池寛原作の芝居を見て


 
  
    
舞台の上の筋の運びと、俳優の情熱的な演技とが、見事に一本に
  なってまことに呼吸もつかせぬ感動的な芝居であった。
   此の芝居を見ていた私もやはり、抑えても抑えても涙が出てくる。
  いつか涙はほほからあごえ流れ落ちた。
   幕が下りてやがてパッと電燈がついた。隣にいる芥川を見ると芥川も
  ハンケチでしきりに瞼を拭いている。久米の頬にも涙がとめどなく流れ
  ている。小島政二郎も・・・目を真っ赤にしている。…・・・・・
   私はすぐ後ろに座っている菊池寛を振り返った。その瞬間思いがけな
  いものをそこに見て、また新しい感動が私を襲った。作者の菊池寛まで
  が泣いているのだ。
   菊池寛はあぐらをかいたまま、しばらくたとうとしない。とめどなく
  あふれる涙は、彼の頬をすじになって流れている。・・・・
  
  「泣くまい泣くまいと思って随分我慢したんだが、とうとうないちゃった」
  と言う小島政二郎のいささか照れたような声が、廊下を出る戸口の辺から
  聞こえてきた。
   その時菊池寛の顔に、それまで一度も見たことの無い悲痛な表情をはっき
  り私はみた。
   菊池寛の人柄の一面であるが、人の面倒見の良いこと、多くの人が金の
  無心に来るが、気に入った人には原稿を書かせて、原稿料として金を与えたり
  (原稿はつまらないのでぼつにして) 垢だらけの天才少年 等、そのほか人間
  性のあふれる内容が一杯書かれている。
 
       「 心の栄養を補うには 」 ことかかない本である。
    
   
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