えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

第6章 ホルモン療法 6.

2007年08月29日 | 乳がん闘病記
6.
 ところが、皮下注射を5回繰り返したところで、ふと不思議な現象に気がついた。この一連の“不安と混沌の悪循環”が、月の半分がひどく、残りの半分で軽快していくらしいという、一定のリズムをもっていることだった。“悪化と軽快の波”に明らかな規則性があることを感じ始めたのだ。
 そして、それが皮下注射に関係しているらしいと思い始めたのは、注射後前半の半月に症状が強く出て、後半半月の間に少しずつ軽快するからだった。初回の皮下注射のとき、Y先生がこう説明したことは記憶に新しい。「腹部の脂肪の多い部分の皮下に、カプセルのようなものを埋め込んで、それが1ヶ月かけて解け出して、徐々に効くようになっています」 
 このことと、“悪化と軽快の波”に関係があるとすれば、正体不明の症状は注射でホルモンを抑えていることと関係があることになる。

 そこで、この症状をY先生に説明し、内服薬か皮下注射か治療をどちらか1つにしたい旨を告げると、先生はいともあっさりと言ってくれた。「どちらか1つでもがんを抑えられるというエビデンスは出ているので、ゾラデックス(注射)を止めてみましょう」
 これには拍子抜けだった。しかも、先生はこうも言ったのだ。「たとえ100人のうち99人に必要ない治療でも、必要な人が1人でもいるというエビデンスがあれば、その1人のために残りの99人も治療する、ということになってしまうんですよね…」

 だいぶ後になって、Y先生のこの言葉の裏づけを、新聞記事から私は知った。「1990年代後半から、エビデンスに基づく治療が普及した」、つまり、「多くの臨床試験を調べた上で、データに基づく治療ガイドラインが作られ、それに添って医師は治療法を選ぶようになった」というものだ。
 この脈絡で先のY先生の言葉を言い換えれば、こうなるのだろう。「K畑さんにはホルモン治療を2種類併用する必要がなかったのかもしれませんが、K畑さんと同じような病状で1種類しか行わなかった場合で、再発や転移が起こった場合がゼロではないので、万が一を考えて2種類併用することを推奨したのです」
 
 理屈としては理解できた。Y先生が私の体によかれと願い、現在の治療ガイドラインに添って治療しているのもわかっている。実際に治療してみなければ、どんな効果と副作用が出るかがわからないのも承知していた。そして、他でもない、その選択をしたのは私自身だったのだ。それでも、私の心は恨みがましいことを叫んでいた。誰にもぶつけられない恨みを…。―そんなに簡単にやめてしまえるものだったの? じゃぁ、何のために、この3ヶ月近く私は苦しんだの? 注射をやめられるっていうことは、あの悪夢のような日々は、やっぱり注射の副作用だったわけね…そして、私は注射が必要ない99人のうちの1人だったのね…だったら、注射のせいだったってもっと早く気づけばよかったぁ……― 

 かくして、LH-RHアゴニスト製剤の皮下注射は、5回受けたところで呆気ないほどあっさりと中止になった。そして、中止してからは、あの恐怖の“不安と混沌の悪循環”に巻き込まれることはなかった。

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