いきけんこう!

生き健康、意気兼行、粋健康、意気軒昂
などを当て字にしたいボケ封じ観音様と
元気印シニアとの対話。

川村記念美術館のはな その5 ウラシマソウと下天(げてん)の幻

2008-05-12 06:59:10 | 散策
散策路に入って直ぐにカタクリと出会い、その脇に未知の花が生えていました(写真)。

花の中から細長く伸びているひょろひょろに興味を惹かれ、思わずパチリ。
初めて見る花でしたので、バス停横にある花屋の店主に花の名前を教わり、ウラシマソウ(浦島草)と知りました。
店の奥から、わざわざ図鑑を持ってこられて、懇切丁寧に教示してくれたのですが、大変親切な女将さんが店を切り回しておられ、恐らく、花の門外漢はお邪魔虫なのではと、自問自答しながら、説明を聴いていたのです。

さて、蔓のようなひょろひょろは、雄花や雌花の先から糸状に長く伸長している附属体と称し、雄花や雌花は肉穂花序(にくすいかじょ)、それを包み込んでいるのが仏炎苞(ぶつえんほう)です。
つまり、私達は仏炎苞を、ウラシマソウの花として見ている訳です。

クマガイソウの「気まぐれな美」、アツモリソウは「変わりやすい愛情」が花言葉になっていますが、それらは、日本の神話や伝説などの伝承・歴史・風俗、書物による故事来歴、宗教などから生まれたものとは、ニュアンスが違う感じがします。花名の謂れや花言葉はその4に書きましたので省略します。

ウラシマソウが持っている特徴的なひょろひょろ蔓を、浦島太郎の釣竿の釣糸に見立てたのが名前の由来で、花言葉は「変わりやすい愛」です。

浦島伝説や羽衣伝説、天橋立(あまのはしだて)伝承は、日本最古の部類に入るものであることは周知のことですね。
室町時代の「御伽草子(おとぎぞうし)」によって浦島伝説の定型が決まり、明治になって国定教科書向きに書き換えられて現在に至り、尋常小学校唱歌も作られています。

♪♪ 乙姫さまのごちそうに
   鯛やひらめの舞い踊り
   ただ珍しく面白く
   月日のたつのも夢のうち ♪♪

何の不自由もなく暮らす竜宮城生活は3年に亘ります。
太郎を竜宮城へ招いた乙姫は、両親を交えて歓待の宴を開きます。
その合間に、太郎は竜宮(海神界)と人の住む現世(人界)との違いを乙姫から諭されましたが、あっという間に3年が経ってしまうのです。

やがて、太郎は故郷に残してきた両親のことが心配になり、夫婦の契りを結んだ乙姫に帰りたいと申し出ます。この時、乙姫は太郎に助けられた亀(海神)であることを告白します。
亀は命の恩人を不老不死にすることで報いていたのです。

しかし、生身の人である太郎に、海神界の仕来りを無理強いしませんでした。
乙姫は太郎の望郷心の強さを知って別れを惜しみ悲しみます。
太郎との約束が破局に終わることを見抜きながらも、乙姫は玉匳(たまくしげ:化粧箱、玉手箱)を太郎に手渡し、切ない愛の忠告をするのです。

「ここに戻ってくる気があるなら、ゆめゆめ開けるなかれ」

♪♪ 帰ってみれば こはいかに
   元居た家も村もなく 
   みちに行きあう人々は
   顔も知らない者ばかり ♪♪
 
浦島伝説に登場する天皇名から、竜宮城で太郎が暮らしたのは、おおよそ、人の世の
300年に当たると比定した説もあります。

♪♪ 心細さに蓋取れば
   あけて悔しき玉手箱
   中からぱっと白けむり
   たちまち太郎はおじいいさん ♪♪

玉手箱は魔法の箱、消え去ってしまった村や両親と共に暮らした家が恋しくなって玉手箱の蓋を開けました。この解釈が、今の常識です。
昔は、女性のみが開ける匳を男が開けた。すなわち、太郎の浮気を象徴している。このような説もあったのです。

太郎は村の古老に尋ねます。
 
「ここにあった浦島という人の家は、どうなったのでしょうか」
「古い塚があそこに見えるじゃろ、あんたの言う人の墓じゃ」

それを聴いた太郎は、これまでの出来事の一切を古老に吐露します。

「・・・。待てども、まてども息子は海から戻らないので、両親はその子の墓を立てた。
その傍にあるのが二人の墓じゃ。この村の衆は、もう700年も前からそのように聞き伝えているんじゃよ」

熊谷直実の伝説は、クマガヤソウの母衣に書きました。
幸若舞の演目のひとつ敦盛(あつもり)のなかに、直実が出家して世をはかなんで舞う場面があります。

 思えば、この世は常の住み家にあらず
 草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし
 金谷に花を詠じ、栄花は先立って無常の風に誘はるる
 南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲にかくれり
 人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか
 これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ

特に、織田信長はこの一節を好んで演じたと伝えられていますし、映画でも度々演じられています。多分、黒澤明監督の「影武者」に登場する信長も、この一節を謡い、舞っています。

信長が下天(げてん)と謡った化天(けてん)は、六欲天(ろくよくてん)の第五位の世で、人間界の800年が一昼夜に当たり、下天は、六欲天の最下位の世で、人間界の50年が一昼夜に相当し、そこの住人の寿命は500歳とされています。
どちらも、人間の命は化天あるいは下天の住人に比べれば儚いのです。人間は「じんかん」と読まれ、五十年は、当時、人間の寿命は50年であったことを意味しているとのこと。

実は、人間五十年云々だけは憶えていたのですが、このシリーズを書くための情報ハンテイングで幸若舞の演目にあることを改めて知りました。クマガイソウ、アツモロソウ、ウラシマソウのお陰ですネ。

墓しか残されていない浦島一家のことを太郎に語った古老は、知恵者だったのでしょう。
古老は、敦盛を謡い舞う直実の心境を滲ませて、太郎の両親の結末を知らせた筈です。

「乙姫から手渡された玉手箱が、形見であることまで?」
「古老は、乙姫の真意を察していたのじゃが、全てを明かしたのじゃ」
「どうして? 観音さま」
「両親への思慕か乙姫への愛情か。この二者択一を太郎に迫り、自立することを望んだのです。乙姫は神仙界と人界との違いを太郎に諭してから夫婦の契りを結んでいますね。古老は700年前の出来事であったと、太郎に明言しているではありませんか」

玉手箱を開けてしまった太郎は、人間の世界へ戻されます。
匳から立ち上る煙を浴びた太郎は、①老人になった ②老死した ③鶴になって飛び去った、などの諸説があります。

「元気印のシニアは、どの説を採りますか?」
「う~ん」
「蓋を開ける前の答えを出してから、答えて下さいね」
「ますます分からない、観音さま」
「あなたは、乙姫のくれた匳をどうしますか」

ボケ封じ観音さまは、直ぐに答えを出すように迫ってきます。

「乙姫の匳は開けないで、両親と自分の墓の前に置いて生きなさい。クマガイソウとアツモリソウは、ウラシマソウの釣り糸を切って自立しなさい、と励ましています。信長が天下統一の志に向かって邁進できたのは、この決断を下せたからです。乙姫も、人間の変わりやすい愛を太郎が断ち切って自立してくれることを切望したからこそ、匳を太郎に手渡したのです。これが、太郎の問いに語りで答えた古老の真意ですよ」

元気印のシニアの耳元に囁き声を残したボケ封じ観音さまは、また、いずこかへ旅立ってしまうのです。

「ウラシマソウの花言葉を忘れないでね」

観音さまの声が聞こえてきます。風の流れに乗って・・・。

コメント
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