いきけんこう!

生き健康、意気兼行、粋健康、意気軒昂
などを当て字にしたいボケ封じ観音様と
元気印シニアとの対話。

川村記念美術館のはな その4 クマガイソウと母衣(ほろ)

2008-05-07 14:48:34 | 散策
提灯をぶら下げたようにうつむいているのがクマガイソウ(熊谷草)の花で、唇弁(しんべん)と呼んでいます(写真)。

騎乗の武士が背中に長い布をたわませているのが母衣(ほろ)。
馬が駆けると風をはらんで膨らみ、武士の背後に長く尾を引いて、背面からの流れ矢を防ぐ防具の役割を果たした、といわれています。

正徳(しょうとく)2(1712)年頃に出版された日本の百科事典「和漢三才絵図:わかんさんさいえず」に記載されている母衣を畳んだ図と、クマガイソウの唇弁は酷似しています。

一ノ谷の軍(いくさ)破れ
討たれし平家の公達(きんだち)あわれ
暁寒き須磨の嵐に
聞こえしはこれか青葉の笛

16歳の若武者・平敦盛(たいらの・あつもり)の首を刎ねた熊谷直実(くまがい・なおざね)が母衣を背負っている姿に見立てたのが「熊谷草」の由来です。

討たれし公達は、敦盛。
敦盛と一戦を交えた日の朝、陣中で聞いた美しい笛の音の主は誰かとも知らず、直実は一ノ谷の軍に出陣します。義経の奇略、鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし攻撃を受けた平家方は、惨敗を喫して須磨の浦へ船で逃げます。しかし、逃げ場を失った敦盛は沖へ向かって馬を泳がせるしかありません。

「後ろを見せるとは卑怯なり。返せ、返せ~え」

一騎打ちを挑みかける直実。
馬のたづなをぐい~っと右に引き絞り、敦盛は陸へ引き返したのです。

若武者が腰にした矢入れ(箙:えびら)に笛が入っていることに気が付き、直実は思い至るのです。聞こえしはこれ、青葉の笛であったのか、と。
その笛は、笛の名手だった祖父・忠盛が鳥羽上皇から賜った「小枝(さえだ)」といわれている漢竹の横笛で、敦盛も愛用していたのですが、退却の際、小枝を持ち出すのを忘れ、取りに戻ったため退却船に乗り遅れたのでした。

この合戦で討死した嫡男・小次郎直家の面影を、止めを刺されて転がっている若武者の刎首に重ねる直実。
それが敦盛だと知るのは、首検分が行われたときなのです。

更(ふけ)くる夜半に門をたたき
わが師に託せし言の葉あわれ
今わの際(きわ)まで持ちし箙に
残れるは「花や今宵の歌」

わが手で討ってしまった敦盛は、現世にはいない。
陣中で、吹きひと知らずで聴き入っていた、あの笛の音しか残っていない。
直実は武家の業、そして戦国の世の無常感に襲われるのです。

熊谷草と対になった敦盛草(アツモリソウ)があります。
どちらも、日本に自生する野生ランの代表格です。花の名前が一の谷合戦の故事に因んでいるのは、熊谷草と同じ。川村記念美術館敷地内には植栽されていないようです。

アツモリソウは、山地の草原か疎林内を好み、紅紫色の花を咲かせます。
「移り気」「変わりやすい愛情」「君を忘れない」の花言葉が散見されます。
そして、絶滅危惧Ⅱ類(VU:絶滅の危機が増大している種)に指定されています。

一方のクマガイソウは、山地樹林下、特に杉林、竹林に群生します。
クマガイソウと一緒に植えられたアツモリソウは、その年限りで枯れてしまうようです。
このような生命力の違いを象徴した見事な花名対比だと思います。

祇園精舎の鐘の声  諸行無常の響きあり  
沙羅双樹の花の色  盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず  ただ春の世の夢のごとし  
たけき者も遂には滅びぬ  偏に風の前の塵に同じ

熊谷草と敦盛草を見る人に、琵琶法師が語る平家一族の宿命をも思い起こさせます。

絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されているクマガイソウの花言葉を探して、ひとつだけ見つけましたので引用します。

『シプリペディウム(学名:Cypripedium)はラン科で、「ヴィナースのスリッパー」という意味である。北半球に五十種以上があって、主に北米と北インドに分布している。(中略)
わが国ではクマガイソウとアツモリソウがその仲間である。(中略)シプリペディウム属の花ことばは、「気まぐれな美」「私を勝ち取って、はいてください」(英)で、前者は花の形の変わっていることに、後者は木靴やスリッパーに結びつけた意味らしい』(春山行夫の博物誌Ⅰ 花ことば-花の象徴とフォークロア1)。

連休の最終日5月6日は快晴でした。
次男夫婦と孫と一緒に川村記念美術館へ出かけ、クマガイソウの様子を探ったのですが、対になっている扇円形の葉だけになっていました。
花が散ってしまったクマガイソウには、気まぐれ美人の魅力はありません。

一般開放している「ツツジ山」も最盛期を過ぎてしまい、深紅の絨毯は見られませんでした。係りの方の話では、最盛期は4月29日だったようです(その2)。

ドウダンツツジの花もなく、丸く剪定された小枝の葉の上で、親指大の蛙が一匹、日向ぼっこをしているだけでした。


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