TAZUKO多鶴子

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『中原中也』の詩集より

2008-01-13 | TAZUKO多鶴子からの伝言
<中原中也 詩集> 
       『 少 年 時 』


  黝い(あおぐろい)石に夏の日が照りつけ、
 庭の地面が、朱色に睡つていた。

 地平の果に蒸気が立つて、
 世の亡ぶ、兆のやうだった。

 麦田には風が低く打ち、
 おぼろで、灰色だった。

 翔びゆく雲の落とす影のように、
 田の面(も)を過ぎる、昔の巨人の姿……

 夏の日の午過ぎ時刻
 誰彼の午睡(ひるね)するとき、
 私は野原を走って行つた……

 私は希望を唇に噛みつぶして
 私はギロギロする目で諦めていた……
 噫(ああ)、生きていた、私はいきていた!




参考資料:『中原中也詩集』
      編者:吉田ひろ生
      発行者:佐藤隆信
      発行所:(株)新潮社