光と影のつづれ織り

写真で綴る雑記帳

「あやしい絵」展を観て(1/2) 東京国立近代美術館(2021.3.23)

2021年04月21日 | アート 各分野

東京国立近代美術館「あやしい絵展」を、初日(3月23日)に観ました。 遅ればせながらの感想です。  

 

↓ 1階ロビー奥の看板です。 メインヴィジュアルは甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)の《横櫛》・・・雰囲気でてる。

 

 

図録に載っているキーフレーズ(執筆はキュレーターの中村麗子 東京国立近代美術館主任研究員)

 

”退廃的、妖艶、神秘的、
あるいは
グロテスク、エロティック”

”美しい
という言葉だけでは
決してあらわすことができない

人々の心の奥底に潜む
欲望を
映し出す・・・・・”

 

この展覧会にピッタリの言葉でした。

作品は、幕末から昭和初期にかけて制作された絵画や挿絵まど、約160点で構成されています。

 

 

会場に入ると、おお、生人形!

衣装の色が派手に見えたので、写真では彩度を落としています。

 

 

 

購入当初の写真。 衣装など、かなり異なっていますね。


 

横顔をアップで。 

 

 

 

このコーナの隅に、稲垣仲静の《猫》が展示されていました。

2010年に観た、稲垣仲静・稔次郎兄弟展以来です。 私は、当時、この猫の顔が稲垣仲静に似ている

と書いていました。

なお、この猫が、会場内での補強解説の、マスコットとして使われていました。

稲垣仲静  《猫》  大正8(1919)年頃 絹本彩色 星野画廊

 

 

次の作品も懐かしい。 2011年に観た「江戸の人物画 姿の美、力、奇」展(府中市美術館)以来です。

 

 

当時の私は、この絵からは”あやしさ”は感じられず、むしろ清浄感さえ感じていますが、

今見ると、足元の赤襦袢がどろどろした血のようで、うーんとなります。

 

 

東京日々新聞は今の毎日新聞の前身、浮世絵師の落合芳幾は新聞の創設に関わった。

絵入り瓦版ですね。 内容は、今のスキャンダル週刊誌とそう変わらない。


落合芳幾  『東京日々新聞』892号  明治7(1874)年12月  毎日新聞社新屋文庫

 

 

 

鳳(与謝野)晶子『みだれ髪』の装幀を、洋画家の藤島武二がやっているんだ。

グラフィックデザインの走りとなる作品。 ミュシャの影響が感じられますね。

 

藤島武二   鳳(与謝野)晶子『みだれ髪』
(東京新詩社、明治34年)藤島武二 装幀  明治34(1901)年  明星大学 

 

さて、次の作品が私の最大の目的でした。

前々から、雑誌などの画像で見ていて、なぜか気になる作品でした。

キャプションに、”画中の女性は何を想っているのか、不思議に感じられる。” そう、実物を見て感じたのは

物憂げだけど、何を考えているのかよくわからない・・・だから、気になり、いつまでも心にひっつかかる。

なお、本作品は撮影禁止のため、画像はWebから引用しました。キャプションは図録から。


藤島武二  《婦人と朝顔》  明治37(1904)年  個人蔵

明治37(1904)年の第9回白馬会展に《朝》という題名で出品された。
女性と朝顔の組み合わせで「朝」という意味を表しているのだろう。
黒々とした瞳に厚い唇の女性は、イギリスのラファエル前派の画家、
ダンテ・ガブリエル・ロセッティが描く「宿命の女」を思わせる。
ただし、ロセッティの絵に描かれた女性たちの、清純、妖艶、邪悪
といった性格は、藤島の作品からは感じられない。そのためか、題
名等の手がかりがない状態で藤島の作品を見ると、画中の女性は何
を想っているのか、不思議に感じられる。

 

下の写真は、NHK日曜美術館で、あやしい絵展の紹介時(4月4日)、TV画面を撮影したものです。

やはり、この表情が得も言われぬ ”あやしさ” の源ですね。

 

 

藤島武二の作品キャプションに述べられているロセッティの作品です。

最初見たとき、肩から首筋にかけての輪郭線が不自然だな-と思ったのですが

ここは衣服を想定しての輪郭線、だとすれば納得。


 

 

 

 

 

女性の鬼の顔など、あえて気持ち悪さの一歩手前で、全体を曖昧にした表現・・・さすがです。

怖い顔は、鑑賞者の心の中で描かれる・・・えっ、山の神が浮かんだ?!


青木繁 《黄泉比良坂》  明治36(1903)年  東京藝術大学

 

青木繁の《大穴牟知命》は撮影禁止だったので、こちらもNHK日曜美術館の放送画面から引用。キャプションは図録から。

大胆な構図だなーと思ったのですが、キャプションを読むと、西洋絵画に前例があるんですね。


青木繁 《大穴牟知命》 明治38(1905)年  石橋財団アーティゾン美術館

 

 

 

安珍・清姫伝説のコーナ

 

 

月岡芳年の清姫。  うっ、やはり髪の毛を咥えている、蛇の群れのような髪、ヒトデの群れのような

川の波・・・怖いのですが、肝心の清姫の表情が、一本調子かな・・・


月岡芳年 《和漢百物語 清姫
  慶応元(1865)年  町田市立国際版画美術館

 

 

村上華岳のこの絵は、2012年に東京国立近代美術館の鑑賞ブログにも載せました。

当時は、清楚な顔立ちに違和感を感じ、後髪の蛇のような表現に怖さを感じていま

した。


村上華岳 《日高河清姫図》[重要文化財]  大正8(1919)年   東京国立近代美術館

 

今見ると、清楚で一途な表情が、一転、般若の面に変わると思えば、その落差に恐ろしさを感じる。

 

 

橘小夢の安珍と清姫

この作品は、後期展示なので実物は観ていないのですが、図録でみて面白いと思い採り上げました。

安珍は宝塚の男役スターの雰囲気だし、巻き付いて恍惚とした表情の清姫・・・エロティックであや

しい。 花びらが散る中で、下には炎、愛欲の昇華を表現したものだろうか。

橘小夢は、初めて聞く名前でしたが、今回の展示には、彼の作品が多くあり、認識を新たにした次第。


橘小夢 安珍と清姫  大正末(1926)頃  弥生美術館

 

ところどころに、都々逸調のフレーズが掲げられており、ニヤリとします。

 

 

次は「高野聖」のコーナ

 

これも橘小夢の作品。


『日本挿画選集』(ユウヒ社、昭和5年) 橘小夢「高野聖」  昭和5(1930)年   弥生美術館

 

 

 

 

谷崎潤一郎『人魚の嘆き』

 
谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』(春陽堂、大正8年)「人魚の嘆き」水島爾保布 口絵、扉絵、挿絵   大正8(1919)年  弥生美術館

 

 

「人魚の嘆き」など水島爾保布が影響を受けたヴィンセント・ビアズリーの挿絵。


『ステューディオ』創刊号
オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー  挿絵「オスカー・ワイルド『サロメ』より『おまえの口に口づけしたよ、ヨカナーン』」「楽劇『ジークフリート』第2幕」
1893年4月  東京国立近代美術館  

 

鏑木清方の《妖魚》です。 実物を初めて見ましたが、顔、特に眼の表現にぐっときました。  撮影禁止のため、図録から引用 


鏑木清方  妖魚   大正9(1920)   福富太郎コレクション資料室

 

 

5月16日放送のNHK日曜美術館:福富太郎コレクションに本作品が出ていましたので、TV画面を撮影したものです。 ※この写真は6月9日に追加しました。

 

顔の部分 Webから引用。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橘小夢が続きます。

小夢(1892年ー1970年)は先天性心臓弁膜症のため病弱で、また、6歳の時に妹の出産時に母が亡くなり

ほどなく生まれたばかりの妹も死去している・・・・それが、この絵に反映されているのでは といわれ

ている。


橘小夢  水妖  作年不明  個人蔵

 

次は2章 表面的な「美」への抵抗  で、下の写真はその会場風景ですが、長くなりましたので

続きは次回に。


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2 コメント

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unknown (遅生)
2021-04-21 18:00:51
こんにちわ。
見ごたえのある展示会ですね。
規模も大きく、ぜひ行ってみたい催しですが、残念ながら無理の様です。
ブログでの解説、次回も楽しみにしてます。
返信する
遅生さんへ (te-reo)
2021-04-21 21:54:29
こんばんは
コロナの勢いが止まらないなか、私も都心に出るの
を出来るだけ控えているのですが、どうしても観た
いものだけ、月1程度、出かけています。
そんななかでの拙い展示紹介ですが、楽しみにして
いただけるとは嬉しい限りです。 偏見に満ち満ち
た解説は、乞うご容赦です。 次回は上村松園の《焔》をメインに紹介する予定です。 
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