危機を乗り越える世界の本流
核兵器禁止条約は22日で発効4年となりました。署名国は94カ国と国連加盟国の半数に迫り締約国も73に達するなど国際法としての力を強めています。
国連のグテレス事務総長は15日、「核の脅威がここ数十年で最も高まっている」と危機感をあらわにしました。米大統領に就任したトランプ氏は、1期目で核兵器の先制使用政策を強化し、核戦力の近代化などを進めました。同政権が核兵器に固執する姿勢を強めるならば、核兵器で対峙(たいじ)しあう今日の危険な情勢が、一層悪化しかねません。
対立と緊張の高まりの中で、核兵器が偶発的に使用される危険も指摘されています。核兵器の1%足らずが都市で爆発すれば、深刻な気候危機がおき、人類の生存が脅威にさらされるとの研究報告もあります。
■核兵器廃絶への力
これに対し、核使用を抑え「核兵器のない世界」への支えとなっているのが核兵器禁止条約と、これを生み出した世論と運動です。
被爆者を先頭にヒロシマ・ナガサキの実相を広げてきたことが禁止条約実現の力になりました。諸国政府が核兵器の非人道性を深く認識することで、核兵器を「抑止力」とする考えを否定し、禁止すべきだとの声が広がっていったのです。
21世紀に入り、大国の支配から、すべての国が対等な立場で主人公となる世界の変化が進む中で、この「人道的アプローチ」は広い支持をうけ、大きな力を発揮しました。
昨年11月にブラジルのリオデジャネイロで開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、「核兵器のない世界…という目標の推進に改めてコミットする」とした宣言を、米ロ英仏中の核五大国も受け入れて、全会一致で採択されました。
核兵器をめぐる危険な状況はいささかも軽視できません。しかし、禁止条約に示される世界の本流にこそ、この危機をのりこえる展望があります。
その中で、唯一の戦争被爆国・日本が禁止条約に参加していないことは重大です。日本の参加は核兵器廃絶の流れを発展させる、他にない大きな意義を持ちます。
■被爆国日本の責任
政府に条約参加を求める地方議会の意見書はすでに約4割の自治体で採択され、世論調査でも日本の参加を支持する人が多数です。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が大きな変化を生んでいます。
条約参加を求める署名運動にも新しい反響と賛同の広がりがあります。政府は被爆80年の今年、この国民の願いに応えるべきです。
禁止条約は「核兵器の使用から生ずる壊滅的で非人道的な結末を深く憂慮」(前文)してつくられました。政府も核使用は「人道主義の精神に合致しない」と言います。
そうであれば、核兵器の使用を前提にした米国の「核の傘」への依存をやめ禁止条約に参加すべきです。唯一の戦争被爆国にふさわしい外交を進めてこそ、北東アジアの平和と安定に道を開くことができます。
石破茂政権は少なくとも、3月の禁止条約第3回締約国会議にオブザーバーとして参加すべきです。
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