源太郎のブログ

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アルバイト

2009年05月31日 | エッセイ

 「ワンワンワンワン」と犬になった私、相手の女優が犬の私に人間の言葉で話しかける。これは放送局のスタジオで子供向けテレビ番組のオーディションの一風景。私はひたすら「ワンワンワン」、相手の女優は次々と変わる。翌日、タレント事務所のマネージャーが担当ディレクターに囁いたと言う、「うちにはもっと上手い「犬」が居ますよ」。マネージャーは私がオーディションの相手役を務めるアルバイトだとは知らなかったのだ。

 学生にアルバイトはつきもの。「飛行機を使わないで世界一周」する事を目指していた私、勉強はそっちのけで資金をためる為アルバイトに勤しんだ。もっぱら東京の某放送局でのアルバイト。色々な仕事を体験した。冒頭の仕事はオーディションの相手役。ただ「ワンワン」言っていればお金が貰えると言う仕儀だった。アルバイトを雇う予算の無かったその番組では窮余の策として「出演料」の予算を使って学生アルバイトを雇ったのだ。だから出演料は出演料でも最低ランク。それでも、普通のバイトで一日に稼げるくらいは稼いだ。もっとも、3~4時間で収録が終わればもう一本、と言う事もあったから割の悪い話ではなかった。

 テレビで時々見かける「雪の降る」シーン。広いスタジオを照明器具等で埋め尽くされた天井から見下ろす。場面に合わせて発泡スチロールの「雪」を降らせる。所が、上から見ると「雪の降り具合」が判らない。一応手持ちの「雪」は首尾よく降らせた。後で、放送を見たらチラチラ降る雪の中に時折バサッと雪の塊が落下していたのだった。テストで降らしてみる時間も予算もなかったのだろう。ぶっつけ本番にはこんなリスクが付きまとうのだ。

 放送業界の用語で「FD」と言うのがある。もっぱらスタジオのフロアーに居て、ディレクターの指示を伝えるのがフロアー・ディレクター(FD)の仕事。番組の進行を予定に合わせて早めたり遅らせたりするキュー(サイン)を出演者に送る。ある時、ディレクターの指示が余り唐突だった。慌てて出演者の目を見てキュー、それを見た出演者、びっくりして声が出ない。暫く睨み合っていたがとうとう収録は取り直し。当時、録画する機器が高価で各スタジオが順番待ちをしていた。かくして、スタッフ・キャストは数時間の「待ち」となってしまった。

 ラジオ番組用の座談会の編集作業をやったことがある。座談会を録音した素材を不必要な所をカットしたり放送時間内に収まる様編集したりする作業だ。座談会の趣旨を生かし時間内に収める、と言うのが難しい。アナログだった当時、テープを切ったり張ったりの作業だった。

 スタジオのフロアーの2階に副調整室と呼ばれるコントロール・ルームがある。ドラマ等で予め録音した効果音等をドラマの進行に合わせて出す仕事もしたことがある。阿吽の呼吸で「音」を出すのだがそのタイミングが難しい。一つ出すと、テープで次の「音」の頭出しをして待つ。そして、「音」を出す。その、頭出しが難しい。もたもたしていると、すぐ「出番」がきてしまうのだ。慌てると、タイミングが狂う。失敗すれば数十人のスタッフと出演者が次の「録画」の順番をひたすら待つことになる。

 江戸時代から歌舞伎の「小道具」を担当している会社がある。そこでのアルバイト。幕が変わると必要な「小道具」をあるべき所に置く、と言う仕事。幕毎に色々な小道具があり、配置も違う。それを幕が下りている短時間の間にこなさなければならない。例えば煙管(キセル)が大事な要素になる芝居があったとしよう。芝居が進んでいざ「煙管」を、と思ったらそこに無い、とすれば芝居は台無しに成りかねない。これも最初は随分失敗して大目玉を食った。普段は目にしないが「裏方」の大事な仕事でもあるのだ。