最近「江戸しぐさ」について語られる事が多い。世界最大の都市だった江戸に住む人の生活の知恵とも言える「江戸しぐさ」が語られるのは、それだけ現代人のマナーに問題があるからに他ならない。「江戸しぐさ」の一つ、「傘かしげ」とは狭い路地で傘を差した者同士がすれ違う時、互いの傘を外側に傾け雨のしずくが相手にかからない様にしたり、すれ違いがスムースに行くようにしたり、お互いに配慮する事を言う。その他、「江戸しぐさ」のなかには「往来しぐさ」として「腰浮かし」「うかつあやまり」「肩引き」など等がある。現代の社会でも多くの人が集まる駅や電車の中のマナーの悪さを考えれば大いに参考になる事が多い。車内での携帯電話、座席の座り方等々色々ある。マナーとは関係ないが「女性専用車」も不思議な存在だ。調べてみたら、韓国・台湾・フィリピンにもあるらしい。タイには女性専用バスと言うのもあるそうだ。その他、宗教上の理由でイスラム教の国、パキスタン・イラン・エジプトにもあるようだ。ヨーロッパで「女性専用車」なるものは聞いた事が無いが色々な意味でそうした発想はないのではないだろうか。日本でも、もし男女が車内で混在する事に問題があるならば、「専用車」と言う発想以外の方法で解決すべきと、私は考えるが如何だろうか?「女性専用車に反対する会」なる会もあると聞くから、やはり異論はあるようだ。女性の中でも、是とする考え方と否とする考え方があるに違いない。駅や街のマナーと言えば日本では余り見かけない習慣だが、押し開いたドアーを後から来る人の為に押さえておく習慣がある。些細な事だがヨーロッパでは殆ど例外なくそうしているのを気付いた人も多いのではないか。日本では、殆どすたれてしまった「江戸しぐさ」を彷彿とさせて呉れるマナーの一つではないだろうか。
駅のマナーと言えばエスカレーターの使い方がある。先日、上海万博のニュースをテレビで見ていたら、歩かない人は右側に立つよう指導していた。「上海」を外国人に少しでも良く見て貰おうとの配慮だが、東京では左側に立っている。先日、羽田空港で見ていたら関西から着いたばかりのグループがエスカレーターで右側に立ち始めたら、リーダーと思しき人が、後ろから、ここでは左、左と注意していた。私の知る限り世界的に右に立つケースが多いから東京圏の左側、と言うのは世界でも例外的な存在、と言えるだろう。大阪の「右に立つ習慣」も大阪万博が契機になったと言うから、上海で起こっている事と同じだ。
日本では自動車は左側通行になっている。これも世界的にはマイノリティーだが主にイギリスの影響を受けた国が多い。例えば、ニュージーランド・オーストラリア・インド・パキスタン・マレーシア・インドネシア・アフリカの一部の国等である。「交通」先進国だったイギリスで左側通行が採用されたのは訳がある。それは右利きの人が多い、と言う事に由来する。馬車の御者が馬に「右手」で長いムチを入れる時、右側にどうしてもスペースが必要になる為なのだ。もっと言ってしまえば人間の心臓が左にある、と言う事が影響している。左手で心臓を守り、右手で攻撃をする。つまり、人間は基本的に「右利き」を運命づけられているのだ。だから左側通行は必然的だとも言える。とは言いながら、ヨーロッパでは不思議な事にイギリス以外の国々は右側通行を採用している。その違いが生まれた事には、これも「理由(わけ)」がある。ヨーロッパの中世、ローマ法王のお達しもあって、馬車はイギリスと同じ左側通行であった。が、フランス革命の時代、既存の権威を否定する立場から右側通行が奨励された。つまり、右側を通る事が革命派の証しとなったのだ。その後、ナポレオンの時代、領土の拡張と共に右側通行が広がって、今に至っているのだ。もし、イギリスがナポレオンの軍門に下っていれば、馬車も車も右側を走っていたに違いない。そして、イギリスを真似た日本も右側通行になっていたかもしれないのだ。