小正月のオンバシラに関する行事について以前触れたわけだが、その当時からその実施状況がわからず注目していた地域があった。昨年も小正月あたりに巡回したのだがはっきりしなかったエリアが伊那市東春近。たまたま伊那市の1月の市報に「地域の年中行事」が特集されていて、現在もそれらしい行事が下殿島古寺(ふるてら)で行われていることを知った。コロナ禍ということもあって、今年はどうなんだろうと思ったが、実施されると聞き訪れてみた。例年は高齢者クラブの人たちが中心に行なわれるという行事は、コロナ禍ということもあって、今年は隣組長のみでの行事になったという。
古寺常会は約50戸の集落。隣組は6組あるといい、集会施設である観音堂に集まってヤナギバナ作りから始まる。行事の名を聞くと集まった方たちにははっきりしないようだが、「ハナヅクリ」という言葉が聞こえた。市報にも「花づくり」として解説されていたから、現在の呼称は「ハナヅクリ」でよいようだが、集まった方の中には「どんど焼きのハナヅクリ」という言葉も聞こえた。過去に記されたものとして、平成4年に発行された『下殿島区誌』には、「道祖神の行事」と紹介されているが、行事の呼称については触れられていない。「ドンド焼き」の項にしるされているので、ト゜ンド焼きの一貫として行なわれる行事として捉えられているようだ。もともとは13日に道祖神の脇に建てられ、ドンド焼きの際に降ろされた。そのドンド焼きは20日に行われたようで、20日になった午前零時に降ろされたという。現在は小正月あたりの休日に行われており、今年は16日の予定だったが、子ども会からの要請で11日にドンド焼きとなるようで、この日建てたものは3日のみの依り代となる。
「道祖神」の脇にある電柱に添えて建てるものは、竹であり(かつては松だったというが、この日聞いた方たちの記憶には松だったという覚えはないという)、竹に藁を束にした俵形にハナを戸数分挿して真ん中にオンベと日輪を挿すだけの簡単なものである。前掲書には日輪のことをオンベウチワと称しているが、やはりこの日集まった方たちにオンベウチワという単語は初耳のようであった。またハナは別名ヒフセとあるが、このヒフセという単語もピンと来ないようだった。なぜヒフセなのかはハナの意図にあるようだ。ハナはドンド焼きの際に降ろすと、各戸に子ども達が配って歩くという。そして呪いとしてかつては屋根に放り上げる家が多かったようだが、今は玄関先に飾るようだ。その意図は火伏せなのだ。日輪とオンベについて前掲書に「手に入れた家には幸運があるといわれた」とあるが、現在は競ってこれを取り合うということはないようだ。
市報を見てとりわけ注目したのは、ハナを挿すところを「俵」と表現していたからだ。俵を柱につける地域が豊科を中心とした安曇野に多いが、伊那谷北部のデーモンジに俵がつく例はなかった。したがって俵がつくとすれば、伊那谷で唯一となる。したがって俵に注目したわけである。実際見てみると俵と言うよりは藁束であり、俵とは言いがたい。また集まった方たちにも俵というイメージはないようだ。ただ、ここにハナを挿す形式は、俵に挿している安曇野のものと形は近い。例えば穂高町塚原中部のオンバシラにつく俵は俵というよりは藁束で、古寺のものと同じだ。なお、市報に掲載されていた写真を見る限り、今年のものより俵っぽく見え、ハナの挿し方も放射状で華やかであることを付け加えておく。コロナ禍であったため、参加者が限られていたため、例年と少し様子が異なるかもしれない。
付記 コロナ禍でありながら見学を許していただけた古寺のみなさんに感謝します。
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