対岸から見る

下宿屋のおばちゃんレオニルデはチャキチャキのミラノっ子。
大きな体に人懐っこい笑顔。
初めて会ったその日に、
家の中を案内し、シャワーの使い方、洗濯機の操作、キッチンの使用範囲まで
手際よく説明した後、同居猫（４匹）の癖まで紹介し終えると、
「さあこれから駅まで一緒に行きましょう」と言った。

その下宿から地下鉄の駅まではほんの１０分。
彼女はお店の角に立ち、まるで盲導犬がユーザーに教えるように立ち止まり、
ワタシに確認させた。
「まわりをよく見て」と。
それから団地の中を抜けるときは
「ここに私の友達が住んでいてね。犬を飼っているのよ。」
などと道とは直接関係のない話をしていた。
しばらく行くと真っ直ぐな道に出た。
その道の途中でワタシを立ち止まらせ、後ろを振り返るように促した。
「自分が進む方向だけみていてはだめ。
ほら、こうして逆からの風景を見ておくと覚えるのよ。」

彼女の言動には無駄がなかった。
さっきの「犬を飼っているお友達」の話も、
あの団地をワタシに印象付けようとしていたのか・・・。と思えた。

地図を自分の立ち位置に直すためにくるくる回すワタシにとって、
彼女の「指導」は新鮮だった。
今でも道は覚えないが、時々彼女のことを思い出し、
知らない土地で、ふと振り返って風景を見ることがある。

遠い土地から飼い主の元へ帰ってきたという奇跡の犬の話を耳にする。
犬たちはまさか振り返って道を覚ていたわけではないのだろうが、
匂いだけでは戻れないのではないかと思う距離である。
飼い主の磁力で動く「渡り鳥磁石」みたいなものでも持っているのだろうか。

今朝の散歩は、いつもの川岸を対岸から見てみた。
つんちゃは迷っても帰って来られるだろうか？？？

こっち側。


渡る。


渡る。


あっち側。


つん：こっち側からあっち側に行ったら、
　　　あっち側がこっち側になってん・・・


つん：ま、ええか・・・。


つん：あっち側、いや、こっち側の草もおいしいんかな


とんねる？






さあ、迷っても帰って来られるでしょうか？
つん：迷い犬になれへんもん！