uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
だからblogで訴えます。


お山の紅白タヌキ物語 第3話 ポンポコ踊り

2024-01-20 06:20:23 | 日記

 今宵はボク、初登場の尚五郎タヌキがお山のタヌキ界について紹介するね。

 

 

 

 月夜のお山はいつも賑やかなんだ。

 何故なら四国中の至る所のお山でポンポコ踊りが繰り広げられるから。

 と云っても誤解してはいけないよ。タヌキたちはただ楽しむためだけに踊っているのではないんだ。

 と云うのも、個々のタヌキを注視してもらうと分かるが、むやみに腹包はらづつみを叩いている訳じゃなく、ピョンピョン飛び跳ねたりしている訳でもない。

 

 それぞれが悩み、苦しみ、工夫をしながら自らのワザを磨いているんだ。

 

 ワザ?それって何?

 

 見た感じ、ただのタヌキ踊りにしか見えないけど、踊りではないの?

じゃぁ、一体どんなワザにこだわっているの?

 

 

 それはね、そのポンポコ踊りがタヌキたちにとって厳しい修行だと云う事。

 踊りに見えるその行為は、実はタヌキ特有の妖術ようじゅつを仕掛ける呪文と動作なんだ。

 踊りに見えるその行為は、実はタヌキ特有の妖術や幻術を仕掛ける呪文と動作なんだ。


 妖術や幻術だなんて聞くと、「オッ!またコイツったら、インチキな空想話を持ち出してきたな〜。」って思った?


 確かにボクはいい加減でチャランポランな奴だけど、妖術も幻術もホントにあるんだよ。

 君たちだって絶対に見ているはずだ。それはどんな時にかって?

 君たちは手品くらいテレビや演芸場なんかで見た経験くらいあるはずだ。見てるよね?

 あの手品ってやつは厳密にいうと妖術・幻術の一種なんだよ。

 見る者の目を誤魔化して、現実にはあり得ない状態を見せる。もちろんタネ明かしをしたら、な〜んだ!ってなるけど、相手に幻を見せて騙すなんて、確かに妖術・幻術って言えるでしょ?

  ボクらが実践する妖術や幻術にも、もちろんタネはあるし。

 それにボクらから見た未来の世界では、ステルスって言う隠れ身の術があるんだって?

 あれだってレーダーっていう鷹の目みたいな機械を騙すんでしょ?だったらそれも同じジャン?

 ね?ホントに有るって分かった?


 ボクらにとって隠れ身の術って初歩のワザだけど、生命に関わる大事で切実な能力なんだ。

 だって鷹などの猛禽類やクマに出会ったら、逃げるか、隠れるしかないじゃない?

 でも咄嗟に草むらに隠れただけじゃ、すぐに見つかっちゃうし、捕まっちゃうよ。

 だから隠れ身の術を使って逃げ延びるんだ。ね?妖術や幻術を習得するってボクらにとって切実なんだってわかるでしょ。

 でもね、習得するのはとっても難しいんだ。

 幻術の名人にやり方を教わっても、よく分からないし。

だってね、名人の説明は

「術をかける時はな、それをエイ!ってやって、シュッ!と決めて、モクモクってしてきたら、ポン!ってするんだ。」って言うんだよ。

 それって分かる?オノマトペばかりで、何が何だかボクにはサッパリ分からない・・・。

 仕方ないから恥を忍んで年下のおせんタヌキにも教わってみたんだ。

 そしたら彼女は快く教えてくれたけど、彼女も名人と同じに

「エイ!ってやって、シュッ!と決めて、モクモクってしてきたら、ポン!ってするんですよ。」って言うんだよ。

 ボクって理解力が足りないのかな?情けなくなっちゃうよ。

 だからと言って諦める訳にもいかないから、ひたすら独自の修練を積むしかないな、って思うんだ。

 だからね、ボクら凡人(ぼんタヌキ)は月夜のお山で稽古するのさ。

 だってね、特に月が出ている晩は、月光のエネルギーを目一杯吸収して妖術体得の胆力をつける事が出来るから、皆月夜になると必死で稽古に励むんだよ。



 そうそう、僕らタヌキの一族が妖術・幻術の類いを習得できたのはね、元はと言えば人間の忍者が月夜に修行を積んでいたところを目撃したから。

 人間にできるなら、ボクらタヌキにもできるだろうと真似をしたのがキッカケなのさ。

 だから幻術を使えるのはボクらタヌキだけじゃなく、キツネたちも使えるんだ。

 知ってた?

 ところでさっきも触れたけど、その妖術や幻術と云っても色々あってね、大きく分けて三種類のワザに分類できるんだ。

  少し詳しく説明するね。

 一つ目は変身の術。これはもう有名なタヌキの十八番おはこ

 皆知っている『タヌキと云えば変身』のワザで、昔ばなしにもよく登場する特徴的で代表的な妖術だよ。まぁ言ってみれば初級編だな。

 

 二つ目は幻術げんじゅつ。これも妖術の一種で、対峙する者にまぼろしを見せて煙に巻く術。その規模は大小あってね、大きいので有名なのが【ダイダラボッチ】の伝説。

 有名なアニメ映画にも登場したよ。確か「もののけ〇」て言ったっけ?

 実はこれ、日本全国で見られる古代からの言い伝えなんだ。

 これはさすがに一匹のタヌキだけでは成し得ない。数匹のタヌキのチームワークが、寸部のたがいもなく息をそろえなければできない高等なテクニックなんだよ。

 

 三つ目は葉っぱを小判に変えるワザ。

 このワザには特に名称は無いけど、これもタヌキにとって欠かせない。

 重要なのは、葉っぱを小判に変えるだけではないと云う事。今で云うところの高額なお札だったり、100円玉だったりするし、それだけではない。

 何と!樹木をお城に変えたり、僕たちから見た未来の世界を例にとると、岩を自動車に変えることだってできるんだ。

 だからその気になれば、四国のお山にスカイツリーをそびえさせたり、東京ドーム(大阪ドームでも名古屋ドームでも、福岡、札幌ドーム、いや、エスコンフィールドでも可)を出現させたりする事だってできるんだよ。

 もちろんこのワザも超高等難度だから、誰でもできる訳ではない。

 だって物体を出現させるには、本物をよ~く観察して偽物とバレないよう、完成度の高い再現力が要求されるからね。お金にしても建物にしても、いい加減な出来栄えなら直ぐ分かっちゃうでしょ?

 だから3Dコピー機のような超越した記憶力と、へそから血が滲むような涙と根性と強い意思が無ければ成し得ない、選ばれしタヌキを象徴する英雄のテクノロジーなんだ。もちろん、こちらもひとり(一匹)だけじゃできないよ。だからチームワークってとても大切なんだ。(あれ?百年以上前に3Dコピー機ってあったっけ?まあいいや、ドンマイ、ドンマイ!)

 

 と云っても所詮、ただの幻術に過ぎないが。(あぁ、所詮って言っちゃった!他のタヌキたちには内緒だよ。だって他の仲間たちの前で『所詮』なんて言ったら、必死で修業する者たちに失礼でしょ?)

 

 

 但しこれらの術は、むやみやたらと濫用らんようしてはならない厳しい掟があるんだ。

 これらの術を使って人を騙すにしても、目的が私利私欲であってはならないし。

 だって、葉っぱのお金で人間から何かを購入すれば、それは立派な詐欺に当たり、犯罪でしょ?

 騙された人間は烈火の如く怒り、手当たり次第タヌキたちに報復するかもしれないじゃん?

 だから妖術や幻術を使うのは、厳しい制限が設けられているんだ。

 タヌキ界と人間界は平和共存、これが大原則。

 じゃぁ、どんな時に許されるの?

 

 それは自分の身に命の危険が迫った時。

 例)トカゲが危険から避難する時、『トカゲのしっぽ切り』をするよね?

 それと同じ。危険な相手やその行為を回避するため、やむを得ない時にだけ許される、いわば正当防衛なのさ。分かった?

 

 だからタヌキたちが必死で習得しようとしているのは、そのまさかの時のためなんだ。

 

 捕捉だけど、おせんタヌキが一生懸命に変身の練習をしたのは、厳密に云うと目的が私利私欲だから掟に背く禁じ手なのだけど、まだ幼いし、里の人間界から「可愛い」と好意的に受け入れられているから特別にお目こぼし扱いされているんだ。

 

 

 

 

「おい、尚五郎タヌキ!お前、なにブツブツ喋ってるんだ?

お里の誰かに変身しているつもりらしいけど、ホラ、後ろ!尻尾が見えてるぞ!」

「あれ?いつの間にか見えちゃった!」

「あれ?じゃないよ!!見えちゃったじゃないよ!!なに気を抜いてるんだ!そんな事じゃ、長老タヌキの権太様にまた叱られるぞ!」

「そういうお前も耳が変わっていないぞ!それじゃすぐバレちゃうじゃないか!他人ひとの事(タヌキの事)云えるか!」

そこに優等生 権蔵タヌキが割って入り、

「どっちもどっち!この未熟者たちが!お前たち、この前はふたりとも(たんたんタヌキの)金時計をぶら下げていたろ?あれは恥ずかし過ぎるぞ!

 場合によっては、わいせつ物陳列罪で終身刑にされちゃうんだからな!

それにもっと気合を入れて打ち込まなければ、今度の進級試験に合格できないぞ!

そんな調子で、いつまでも半端者で良いのか?」

ひぇ~!震えあがるふたりの劣等生タヌキ。

進級試験2級の権蔵タヌキに叱咤される、共に5級の尚五郎タヌキと庄吉タヌキであった。

 

 因みにこの進級試験は最高5段まである。

 まだまだ道のり険しいタヌキたちであった。

 

 

 

     つづく


お山の紅白タヌキ物語 第2話 おせんタヌキ

2024-01-18 04:07:28 | 日記

 おせんタヌキがお地蔵さまの横で化けるようになって数か月。

 里の村人の間ではすっかり有名なスポットとなった。

 と云っても一日中24時間化けっぱなしという訳ではない。

 村人がお供えを持ってくる時間帯だけ、チャッカリ成り済ますのがおせんタヌキ。

 もちろんおせんタヌキだって一日中暇な訳ではなく、都合と云うものがあるのだ。

 

 おミヨちゃんやお米ばあちゃんや与助のオヤジも、相変わらずお供物を供え続けている。

 その決まった時間帯になると、好奇心に駆られた暇な村人がワザワザ物陰に隠れ、おせんタヌキが化ける様子や、元に戻りお供えの供物を持ち去る様子を見物する。

 時には大胆にも素知らぬ振りをして、おミヨちゃんが供えるタイミングでただの通行人を装い横切りながら様子を盗み見る者までいた。

 だって二体あるお地蔵さまのうち、おせんタヌキが化けたお地蔵さまは如何にも滑稽で可愛く、いつ見ても飽きないSHOWショーのようなものだったから。

 

 おせんタヌキが化けたお地蔵さまは本物そっくりで一目見ただけでは見分けがつかないが、何処となく愛らしい。

 一方本物は慈愛に満ちたお顔立ちで、その辺がチョットだけ違うんだなぁ。

 

 そんな見分けの違いはともかく、村人たちは知らない。

 タヌキの変身の術は、非常に気力と体力を消費する難行だと云う事を。

 おせんタヌキは毎回お地蔵さまに変身する度に、身を削ってまでお供物をせしめているのだ。

 

 何故そこまでして変身する?

 

 それはもちろん村人が作ったお供物が欲しいから。

 いつも木の実や川魚や野ネズミばかりでは、食の楽しみがない。

 タヌキの世界では調理という概念がないから、総て生食。そればかりでは確かに飽きるし、あまり美味しくない。

 

 それともうひとつ理由がある。

 それはおせんタヌキがお里やお地蔵さまや村人たちが好きだから。

 お里では村人たちが汗水流してよく働き、活気がある。

 村人総出で田植え歌を歌いながら屈んで作業する田植え作業や、頻繁にやる草取りの様子、俵や藁を満載した荷車を右に左に押して行き交う男たち。

川でおしゃべりをしながら楽しそうに洗濯する女たち。

 ハタを織る音や食事の時間になると一斉に調理の煙が立ち込める家々など、それらはタヌキの集落とは全く異質な世界であり、毎日通っても飽きないどころか驚きと興奮で観察できる楽しい場所である。

 

 変身を解いてお供物を頂いた後は、日が暮れるまでお里の巡回をする日があるほど、村人たちが好きなのかもしれない。

 

 おせんタヌキにとって、仲間がいるタヌキの集落より、お里で過ごす方が心地よさそうだ。

 

 でもあまり人間のお里に入り浸る事を、権蔵タヌキはこころよく思っていない。

 何故なら里の村人たちは気の良い人たちばかりだが、よその村から来る者たちが総て善人とは限らないから。

 万が一のことを考えると、あまり人間界に深く関り過ぎて欲しくない。

 権蔵タヌキは早くから親が居ない おせんタヌキの保護者のつもりで接しており、時には父親、時には兄のように世話を焼く。

 おせんタヌキがお里に入り浸ったのは、もとはと云えば自分がお里のお地蔵さまからおにぎりを貰い、おせんタヌキに与えたことがキッカケなのに。

 だからお里に行ってはダメだと強くは言えず、折に触れまだまだ幼い おせんタヌキが危険に巻き込まれないよう、お里での行動を監視した。

 

そんな権蔵タヌキの心配をよそに、相変わらずおせんタヌキがお地蔵さまの近くを徘徊していると、時折おミヨちゃんが慎太郎と言葉を交わす場面に出くわす。

 

 若い二人はぎこちない。

「慎太郎さん、今日は田んぼの作業はお休み?」

 モジモジしながら少しの間を置き、やっとのことで話かけるおミヨちゃん。

「・・・ああ、この時期は作業がひと段落したので、今日はこれからウナギ釣りにでも行こうかな?って思ってるんだ。」

「まぁ!ウナギ?たくさん釣れると良いわね。」

「もしも大漁だったらおミヨちゃんにもお裾分けするよ。期待して待っていて。

・・・って大口叩けないかな?ボクは釣りが下手だから。やっぱり期待しないで待っていてね。」

「あら、私は期待するわ。だってここはお地蔵さまの前よ。慎太郎さんがお裾分けしてくれたら、お地蔵さまにもお供えしたいし。」

「でもお地蔵さまに殺生した食べ物をお供えするのは、あまり良くないんじゃないかな?」

「それもそうね。でも供えるのはお地蔵さまだけではないわ。時にはもうひとり可愛いお地蔵さまも現れるから、美味しいものを食べていただきたいの。だから・・・ね。」

 そう言ってどこかに潜んでいるかもしれない子ダヌキの存在を仄めかし、目配せした。

「そういう事か。分かった!それじゃぁ精々頑張ってみるよ。」

そう言って颯爽と出かける慎太郎。

笑顔で手を振るおミヨちゃん。

おせんタヌキは慎太郎の大漁を心一杯願いながら、帰りを待つことにした。

 

一刻以上待っただろうか。

手提げ網いっぱいのウナギを引っ提げ、慎太郎が凱旋する。

 お地蔵さまの前まで来ると、おミヨちゃんの家はすぐそこ。

 家の前で落ち葉を掃き集め焚火をしようとしているおミヨちゃんを見つけると、慎太郎は駆け出し「おーい!おミヨちゃ~ん!」と呼ぶ。

「ほら、見て!!えへん!今日は大漁だったよ!」紅潮した顔で自慢げに釣果を披露した。

「あら、凄いわね~!慎太郎さん、エライ!」

「少しでも早く見せたくて、走ってきてしまったよ。これは少しだけどお裾分け。」

と腰に下げていた丸いカゴに数尾のウナギを入れ差し出した。

「まぁ、ありがとう!遠慮なくいただくわ。これで可愛いお地蔵さまも喜んでくれるでしょう。今夜の晩御飯はウナギの塩焼きね。」

 

 遠くでそれを聞き、飛び上がらんばかりに喜んだ おせんタヌキ。

 でも本当に喜んだのは、いつもとなりに居る本物のお地蔵さまだった。

 お地蔵さまがウナギの塩焼きを食べたいからではない。

 お地蔵さまにとっても、おせんタヌキが喜ぶのを見るのが嬉しいのだ。

 さすがお地蔵さま。慈しみの心は誰にも負けないようである。

 

 

その日の晩は満足げなおせんタヌキがお山のタヌキの集落の中にあって、輪の中心でポンポコ踊りを踊る姿が見られた。

 

 

 

 

 

     つづく

 


お山の紅白タヌキ物語       

2024-01-16 13:21:41 | 日記

   第一話 権蔵タヌキ  



 今から100年以上前、四国のお山にタヌキの集落があった。

 そこに住むタヌキたちは里に住む人間と近過ぎず、遠過ぎない絶妙な距離感で共存していた。

 

 タヌキの中には権蔵のような果敢な若者もいる。

 権蔵タヌキは好奇心からいつも人里に出向いては葉の影に隠れ、人を定点観察するのが好きだった。

 そのお気に入りの場所とは、あぜ道と村のメイン通りが交差する角に鎮座するお地蔵さんが良く見える場所。

 お地蔵さんはいつも温和な顔をして権蔵タヌキを迎え入れてくれる。

 だから権蔵はそのお地蔵さんが大好きだった。

 そしてもうひとつ、お地蔵さんが好きな理由がある。それは時々そのお地蔵さんに供えられるお供物をお裾分けして貰えるから。

 

 

 そのキッカケとなったのはある日のこと。

権蔵タヌキは初めて降りた人里で優しいお顔のお地蔵様の足元に、美味しそうなお餅が供えられているのを見つけた。

権蔵タヌキはヨダレを流し、茂みの奥からさも食べたそうにジッと眺める。

 そんな様子を見せつけられると、さしものお地蔵さんも知らんぷりしてはいられない。

「そこな茂みに隠れているタヌキの若者よ、ほら、今しがたのもらい物だが良かったらおあがり。」

 お地蔵様のその声に、隠れていたことがバレた権蔵タヌキは観念し、恐る恐る身を乗り出して、

「心優しいお地蔵様、ありがとうございます。私は昨日の晩より何も食べておりません。

 昨晩のお山は満月故、一晩中腹包みを叩いて踊り明かしていたために、何もお腹に入れられずにいたのです。

 ああ、有り難い!ああ、美味しい!このお餅、何と柔らかく美味しい事か!

 すきっ腹に染み入るとは此のことよ。このご恩は一生忘れません!本当にありがとうございます。」

「そんなに恩を着ることはない。そもお供物とはな、場合によっては困っている者を救済するためのものでもあるんでの。だから功徳を得たいと思う信心深い村の衆は、自ら進んでお供物を供えてくれるんじゃよ。

 そのお餅もそうした信心深く、善良な者の尊い行いの結果じゃ。

 だから遠慮のぉお食べ。それを食べても罪にはならず、お主がその善意を受け取ることで、結果として供えた者の功徳となるんじゃからな。」

権蔵タヌキは涙を流してひれ伏した。

 

その日を境に権蔵タヌキは里山から通い続け、どんぐりだの野イチゴだのオンコの実などをお地蔵さまに供えるようになった。

 

そんな事が続くと、いつもお供物を供えていた村の衆も気づき始める。

一番最初に気づいたのは村娘のおミヨちゃんだった。

気立ての良い娘で、その娘が近づくと辺りをパァっと明るくするような雰囲気を持っている。

 

「あら?このドングリは何かしら?こんなにたくさん誰が供えたのだろう?え?これって供えられた物よね?でもお地蔵さまにドングリなんて・・・。おかしな話ね。」

 翌日は別の木の実が。そしてその翌々日には別の実が。

「一体誰がこんなに毎日供えているのでしょ?集めるだけでも大変だったでしょうに。」

 茂みの奥から権蔵タヌキに見られているとも知らずに、おミヨちゃんはその日のご飯の一部を供えに来ていた。

 

 でもお地蔵さまにお供えをしているのはおミヨちゃんだけではない。

 時々は近所のおよねばあちゃんであったり、与助のオヤジもやって来る。

 そして次第に奇妙なお供え物が村中の噂になりはじめ、真相を確かめようと若い慎太郎が見張りを買って出た。

 

 そして待つ事2時間程。

 とうとう奇怪な噂の主が現れた。

 権蔵タヌキがいつものように森に生える実を両手いっぱいに抱え、あたりを用心しながらやって来る。

「あ!」

思わず慎太郎の驚きの声が漏れだす寸前、手で口を押え、何とか堪えた。

お供え主が何と!タヌキ?ウソだろ~!!

慎太郎は驚きのあまり、その場に潜みながら固まった。

権蔵タヌキがうやうやしくお地蔵さまに供える姿を目の当たりにしても、その光景が信じられない。

 

やがて権蔵タヌキは自分が供えた木の実の代わりに、一礼して村人が供えたお供物を手に取りその場を足早に去ると、我に返った慎太郎が後を追う。

その日の晩も月夜なので足元は明かるいが、獣道をスイスイ歩む権蔵タヌキを見失わないよう、必死で追う慎太郎だった。

そしてとうとう権蔵がお山の中腹で立ち止まる。

そこには待ち受ける無数の狸が月の光の前に現れていた。

権蔵は両手で抱えて持ち帰った供え物を、親のいない幼いおせんタヌキに与えた。

「わぁ、美味しそう!」と顔一杯に頬張るおせんタヌキ。

「おお、今宵は玄米おにぎりか!稗や粟ではないんだな?なんと豪勢な事よ!権蔵!ご苦労!!」

 そう言って長老タヌキは権蔵タヌキをねぎらった。

「今宵も月が明るいぞ!さあ、皆の衆、ポンポコ踊りの始まりダァ!」

 

 その一部始終を目撃した慎太郎は、そぉ~と来た道を引き返し、待ち受ける村人たちに見てきた事を包み隠さず伝えた。

 

 最初はその事実を誰も信じなかった。

 慎太郎は嘘つき呼ばわりされ、気が変になったのかと馬鹿にされた。

「じゃぁ、誰かほかの人も見て見ろよ!ボクの言った事が嘘じゃないって分かるから!」

「生意気な口をきくな!この若造が!」

 そう云いながらも事の真偽を確かめる必要があるだろうと、長老が今度は与助に翌日の見張りを命じた。

 

 すると与助も、慎太郎が言った通りの光景を見てきたと証言する。

 到底信じられることではないが、これはもう疑う訳にはいかないだろう。

 長老たち村人は慎太郎に謝罪した。

「ほらね!言った通りだろ?」

 慎太郎もそれ以上は言い返さなかった。

 自分の信用と尊厳が守られた事で良しとしよう。

 

「ところで今回の件、このあと一体どうしよう?」

「どうもこうも、お供物を持ち去られる以外の実害はないし、一旦は様子見で良いんじゃね?」

「そうだな、コソ泥タヌキもただ我らが供えたお供物を盗むだけじゃなく、ちゃんとお地蔵さまに代わりのお供物を供えているようだし、そんな信心深い善良なタヌキじゃ、罰する訳にもいくまい。」

 

 そうした訳で村の衆の意見は様子見と決まった。

 

 それから月日が経ち、あの日権蔵タヌキから玄米おにぎりを貰ったおせんタヌキも成長し、人里に姿を現すようになった。

 おせんタヌキは早熟で、まだまだ若いのに変身の術をもう身に着けている。

 

 そんなある日のこと。

 村娘のおミヨちゃんがいつものようにお地蔵様の所へお供物を持って行くと、そこには何故か二体のお地蔵さまが鎮座している。

「!!」

 あれ?お地蔵さまはおひとりだけの筈なのに・・・・。

 おミヨちゃんは幾度も目を擦って見直すが、確かにお地蔵様が二体ある。

「これは何とした事!私のカスミ目じゃないのね?」

「でもこれはどうしてなの?今日に限ってお地蔵さまがお二人もいらっしゃるなんて!私の目の錯覚ではないとしたら、どうしたものかしら?持ってきたお供えはこの粟と玄米を混ぜて握ったおにぎりひとつとお漬物が二切れあるだけ。

 そうだ!半分にしてそれぞれにお供えしよう!それで恨みっこなしとしてくださいな、お地蔵様たち。」

 そう言って半分こしたおにぎりと漬物を一切れずつ双方のお地蔵さまの足元にお供えした。

 首を傾げ帰ってゆくおミヨちゃんが遠くに見えなくなると、右のお地蔵さまが「ポン!」と云っておせんタヌキに姿を戻した。

「ありがとう!お姉さん!このおにぎりと漬物、有り難くいただきますね。」

 そう言って大事そうにおにぎりを頬張った。

 

 おせんタヌキは権蔵タヌキから貰ったおにぎりの美味しさが忘れられず、お地蔵さまに化けられるよう、必死で修業していたのだった。

 

 この事も村中の話題になったが、とっくにタヌキの仕業だろうとバレている。

 しかもとても可愛らしい子ダヌキの仕業である事も。

 それを知りつつ二体のお地蔵様へのお供えはその後も続いた。

 

 

 

 

      つづく


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】 第31話 最終回 『その後の道』

2024-01-10 06:44:44 | 日記

「・・・・僕とは結婚したくないの?

 ゴメン、カエデならウンって言ってくれると思った。」

「違うの。そうじゃないの。

 平助と結婚したいとか、したくないとかじゃなく、今私にはやりたい事が見つかったの。」

「やりたい事?」

「そう、やりたい事。

 平助の任期はあと少しで終わるジャン?

 私はこの間、平助やエリカさんや田之上さんたち、皆をみてきたわ。とても勉強になった。

 私の知らなかった事がいっぱいあって、それを皆でクリアしてきたのを目撃してきたの。

 私は(お目付け役としての)職務上、蚊帳の外だったけど直ぐ近くにいたわ。

 皆の奮闘する姿を見られて幸運だった。

 でもこの一年近くの任期では、やり残した事がいっぱいあったでしょ?

 私はそれを引き継ぎたくなったの。」

「僕のやり残した事?」

「そう、やり残した事よ。

 現役で働く人たちの減税や職場環境改善や、低所得者へのセーフティーネットとか、子供食堂の充実や、会社の環境整備だってまだ手付かずの部分があるでしょ?

 少子化問題だって残念だけど、何も解決してないわ。

 子供の進学だってそう。平助も私も大学を出ていないわ。

 頭が悪いからじゃない、家庭の事情で進学を諦めたじゃない?

(平助は思った。自分は高校時代赤点ばかりだったからなんだけど。って)

 あ、平助、今自分の過去の成績を思い出した?

 でもね、平助はこの一年近く、今まで誰もやった事の無い偉業をやってのけたのよ。

 ひと昔前まで政治は一流大学出身者ばかりが占めていたのに、何もせず何もできないで国を傾かせたじゃない。

 なのに平助はやったのよ。

 あなたは馬鹿で助平すけべいだけど、みっともないし、セコいし、小心者だけど、自分に課せられた責務を立派にやり遂げてきたわ。

 それは誇るべきだし、平助には大学で学ぶ能力と資格があったはずよ。」

「ドサクサに紛れて随分ディスってくれたな。失敬な!!

 でも、自分は兎も角、カエデは確かに大学に行くべきだと思っていたよ。

 いや、今でもそう思ってる。

 だからカエデが言うように、大学に行きたい者、行ける能力のある者、将来何がしたいか明確な目標を持つ者は経済的事情に関わらず、大学に行くべきだね。

 そういう人たちが進学できるように、国が環境をもっと整備すべきだよ。」

「そう、そうすべきだわ!でも今の平助の代ではまだ財政が追いつかなくて、そこまで充分に手が回らなかった。

 だけど、私が次を目指す頃は、早くて研修を終えた2年後になるでしょ?

 2年有ったら財政も大分潤って、楽になっている筈よ。

 日本近海の資源開発も順調だし、水素燃料の活用も上手くいってるし。

 歳入が増えたらできる事も増えると思うの。だからその時には私がこの手で実現してみたいのよ。

 頑張っているおとなや子供達の喜ぶ姿を見て見たい。この気持ち分かる?平助なら分かるでしょ?」

「そうだね、気持ち分るよ。

 ただカエデがそんな事思っていたなんて、とっても驚いたよ。

 カエデはいつも、僕の世話を焼きながら干渉するだけに興味があると思ってた。」

「人を何だと思ってるの?私は美人で有能なカエデ様よ!見くびらないで!」

「ゴメン!怒った顔が大魔神のカエデ様!」

(すかさずカエデの鋭いスマッシュの鉄拳が、平助の前頭葉にヒットする。)

「平助はまだ反省が足りていないようね。容赦ない神罰が下るわよ!」

「イテテ!やった後に言うな!手遅れだろ?」平助の反応にお構いなく、

「それにね、まだ平助には他にもやり残した事はあるわ。

 とても重要な事よ。」

「何だよ、それ?」

「戦争よ。」

「戦争?」

「そう、戦争。世界ではまだまだ争いや憎しみが消えていないわ。

 ウクライナやパレスチナだって燻り続けているでしょ?

 もう何年も経つのに、未だに終わらないなんて不幸よ。

 それって日本に関わりのない事なの?違うでしょ?

 ロシアじゃせっかくプー〇ンが病死したのに、後継が懲りもせず戦争を継続しているわ。救いようの無い人たちよね。

 アメリカもヨーロッパも、ロシアの侵略を本気で止める気がないみたい。

 私はとても見ていられない。そうでしょ?

 それにイスラエルとパレスチナだって、日本はどちらとも友好関係を保っているわよね?だったら私たちは自分にできる努力をもっとすべきよ!そう思わない?」

「そうだね。僕もそう思うよ。

 だけどサ、その問題と僕たちの結婚と、どう関わるの?

 カエデが政治を目指すのは良いとして、それは僕たちが結婚してもできる事でしょ?」

「だって平助は、私が身の回りの面倒を見ないと何もできないじゃない?

 私が平助の面倒を見ていたら、政治に全力で取り組めないし。

 そうじゃない?」

「なぁ~んだ、そんな事か!

カエデ!ボクはもう大人だよ。自分の身の回りくらい、自分でできるさ。」

「出来ていないから私が見てきたんじゃない?

 平助は自分の事、良く分かっていないのよ。」

「大丈夫だよ。その時は自分の事は責任を持って自分でやるサ。

 それより僕がカエデの足手まといになる方が問題だよ。

 カエデにその気があるなら、僕は全力で応援するからやりたい事を諦めないでくれる?」

 

 

 二人の遣り取りを固唾を呑んで聞いていたエリカと田之上は、その時思った。

 自分達も応援したいと。

「そうよね。平助総理は見た目は頼りないけど、追い込まれた時に底力を発揮するタイプみたいだし、自立した生活も多分大丈夫だと思うよ。

 カエデさんが自分の道を見つけたなら、自分を信じて進むべきだわ。

 平助総理を今まで支えてこれたあなたなら分かるはず。

 悔しいけれどあなた達ふたりは、大切な所で繋がっているのね。

 だからきっとこれからも上手くやってゆけるでしょう。頑張って!あなたがそう決めたなら私は全力で応援するわ。」

とエリカ。

「そうだよ、僕もそう思う。板倉さんも言ってたけど、平助総理はヤッパリボクの見立て通り、火事場で馬鹿力を発揮する男だって。

 そんな平助総理をずっと支えてきたカエデさんは、ヤッパリ人を見る目があるよ。

 それにしても、最初の頃はオイオイ泣きながら板倉さんのスパルタに何とか付いてきてたけど、よく頑張ったよね、平助さんは。」と田之上。

「おいおい、誰がオイオイ泣いていた?実際あれは泣くほど辛かったけど、それは(田之上)憲治君も同じだろ?ただし僕は一度も泣いてないし。

 それに頑張ったのは僕より憲治君の方じゃない。

 この一年近く官房長官として、よく内閣を取りまとめてくれたよ。あらゆる問題をテキパキ処理してくれたのは憲治君じゃないか。だから僕たちはこれまでやってこれたんだよ。

僕はいつも感謝している。」

「平助君も憲治さんもよく頑張ったよ。私はそう思う。

 ふたりを見ていると、何だか私もカエデさんと同じ気持ちになったもの。

 何ていうか・・・、胸が熱くなってきて、ジッとしているのがもどかしく感じるわ。

 私は秘書という立場でこの一年近くやってきたけど、ホントは少し後悔しているの。

 私にはもっとたくさんできる事があったんじゃないか?って。

 もっと自分から積極的に関われば、やれることがあったハズじゃないか?って。

 正直、不完全燃焼よ。

 私の任期もあと僅かで残念だけど、望んでも継続してこの仕事はできないわ。任期一年って決まりですものね。

 でも次の人たちの応援はできると思うの。アドバイスやお手伝いはできる筈よ。

 もしカエデさんが総理大臣や他の担当を目指すなら、私も応援するわ。

 カエデさんの気持ちがよく分るもの。

 そして私も何年後になってもまた総理を目指してみたい。

 カエデさんの後を追ってね。だって今になってやりたい事がドンドン思い浮かぶもの。」

「ありがとう、エリカさん。

 今の制度では立候補してなれるものではないけれど、挑戦はしてみても良いと思う。

 最終的には選考委員会とネットアンケートが決める訳だし。

 そうでしょ?平助。」

「そうだね。今度、板倉さんに相談してみるよ。カエデは僕のお目付け役ではあったけど、政府の職に就いていた訳じゃないしね。一年の縛りには当て嵌まらないだろう。

 きっと何か道が開けると思うし。」

「ありがとう!平助。頼りにしているわ。」

「だから、結婚してくれるね?」

「それはどうかしら?これから次第ね。」

「カエデぇ~」

 

 

 こうして竹藪平助内閣の第四世代は、つつがなく任期を終える事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     おわり

 

 


ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第30話 カエデの誕生日

2024-01-08 07:00:44 | 日記

 今日はカエデの誕生日。

 朝から軽快な出立いでたちのカエデは、リュックを背負い『蓬莱軒』の店舗前に現れた。

 そこは通い慣れた平助のアパート。

 もうそこには平助が待っている。

 

「やあ、カエデ。おはよう。今日は澄み渡った青空でよかったな。」

「おはよう、平助。こんな格好で来いと云うから来たけど、動きやすい格好と、よそ行きの服って何?」

「お!スニーカーだね。よそ行きのヒールはリュックの中かい?」

「そうよ、この中は服と靴だけ。

 着替えを用意して、何処に連れてってくれるの?」

「それはね・・・。ジャン!!」

 とアパートの側面の壁を指さした。

 そこには自転車が立てかけてある。平助はその自転車を押してきて、カエデの前に停めた。

「へぇ~二人乗り自転車ジャン!面白~い!これどうしたの?拾ってきたの?」

「誰が拾ってくるんじゃい!それに何処に落ちてるんじゃい!ボクを何だと思ってる?天下の内閣総理大臣 竹藪平助様だぞ!どこぞから拾ってくる訳なかろうが!

 この自転車はね、カエデとふたりで乗るためにワザワザ買ったんだよ。特注だぞ!二人乗りだぞ!凄いべ!!」

「へぇ~、天下の内閣総理大臣 竹藪平助様ねぇ~。肩書と中身が不一致なのは何でだろう?(平助の「ほっとけ!」の声)

その自転車、特注?珍しいね。二人乗り自転車なんて実物は初めて見た!結構大きいんだ!凄~い!」

「凄いだろ?僕の友達の加藤が勤める自転車販売会社に頼んで、特別に作って貰ったんだ。

 世界にこれ一台しかないんだぞ。」

「世界にこれ一台?ただの「二人乗りママチャリ」ジャン?

 それにこの自転車に私も乗るの?私、疲れるから乗りたくな~い。こぎたくな~い。」

「出たよ!【我儘わがまま怪人カエデ】!」

「何よ!誰が【我儘わがまま怪人カエデ】よ!何、勝手に変なあだ名付けて!どうせつけるなら、【世紀の美女カエデ女王様】とお呼び!」

「そんな世界一似つかわしくないあだ名、誰がつけるか!・・・ってそうじゃなくて、この自転車、よく見ろ!電動自転車だよ。漕がなくても良いんだよ。」

 

(2025年以降、法規改正で電動アシストをパワーアップした、フル電動自転車の走行が許されている。ただし免許は要らないが、走行速度は普通の自転車並みの低速に抑えられていた。)

 

「ほら、自転車用ヘルメットも二つ用意したし。

 これで10km(ホントはもっと長距離)ほど走ってベイエリアの公園に立ち寄ったり、予約したホテルでディナーだ。な、良いだろ?」

「へぇ~、平助にしては気が利くじゃん?どこでそんな知恵をつけたの?

日頃ボ~っとして何も考えていないくせに、よく思いついたね。」

「人を痴呆みたいに言うな!これでも何日も時間をかけて考えたんだぞ。な、偉いだろ?」

「そうね、今日ばかりは褒めてあげる。平助は免許持っていないし、電車やバスじゃぁ、こんな気持ちのいい日なのに勿体ないし、電車やバスの車内で他人と一緒じゃ落ち着かないもんね。」

「そうだろ?じゃぁ決まりだ!ボクが前に乗って運転するから、カエデは後ろな。」

「嫌ョ、せっかくの二人乗りなんだから、私が前で平助が後ろよ!」

「運転大丈夫か?交通量が多い道を通るんだから、気をつけないと。」

「その時は平助に代わって貰うわ。じゃあ出発進行~ォ!」

 

 

「平助ェ~、長く乗ってるとお尻が痛いんだけど。」

「そりゃそうだろ、自転車のサドルは固いんだから。僕が毎日官邸までママチャリで通っている辛さが分かったかい?

 もう少し行ったら適当な店で休憩しよう。ゆっくりのんびり行けばいいさ。目的地に着くのは夕方で良いし。」

 そうしてマックやらスタバを見つける度に休憩するふたり。

「傍からみたら珍道中だよな」なんて言いながら、お気楽に旅を楽しんでいた。

 

しかし自転車に乗っているのはふたりだけではなかった。

少し離れてSPの杉本が追尾している。

「あれぇ~杉本さんじゃない!なに私たちに隠れて尾行してるのよ?アナタ、そんなに暇なの?」

「んな訳ないだろう!護衛だよ!護衛!!一国の首相が自転車に乗って一般道を走行するのに、護衛無しなんて有り得ないから。」

「ふ~ん、たったひとりで護衛ねぇ~。」

「カエデは知らないのかもしれないけど、杉本さんは凄い人なんだぞ。以前、別の要人の護衛対象が暴漢に襲われた時、たったひとりで十人も制圧した実績があるんだから。

 今回だって僕は一応護衛を断っているんだけど、こっちはプライベートでも、公人の護衛はSPの任務なんだって。

 それにそばにいるのは杉本さんひとりでも、追尾システムで僕たちの位置情報は常にSP本部に送られていて、緊急時の対応に備えているそうだよ。」

「そうなんだ。お疲れ様、大変ね。」

「そういう訳だから目障りだと思うけど、察してください。」

「目障りだななんて、とんでもない!!むしろ申し訳ないと思っているわ。

 ありがとうございます。こんな私たちのために。」

 

 そんな事もあって、ふたりから少し離れて杉本のチャリもついてきた。

 

 夕方一行はベイホテルに到着。着替えて最上階ラウンジに登る。

 そこは雰囲気満点のレストランであった。

「素敵な場所!ねぇ平助、こんな所を予約してくれたの?嬉しいわ、ありがとう!」と抱きつかんばかりのカエデ。

 しかし視線をレストランの中に戻すと、何やら見知った人影が。

「あれ~?田之上さんとエリカさん?どうしてここに?」

「もちろんお目付け役よ。本来のお目付け役はカエデさんなのに、ミイラ取りがミイラになっちゃったらダメでしょ!だから私と田之上さんが臨時で買って出たの。」

「あら、そうなの。」(この人、まだ平助の事諦めていないのかしら?)と思うカエデ。

「実はミイラ取りがミイラになっちゃって、そのミイラ取りが更にミイラになっちゃいましてね。」

 と、田之上。

「????」

「だから、僕とエリカさんは今日から交際する事にしたんです。テヘッ!」

「テヘッ!って・・・、ミイラ取りがミイラになっちゃって、そのミイラ取りが更にミイラに?

 ややこしくて何言ってんのか分からないんですけど。

 要するにお二人さんは付き合っているって事ね?」

「そうなんです。デヘヘ。」

「何でそうなったのか、詳しい経緯いきさつが知りたいんですけど。」

「僕も良く分からないんです。エリカさん、何か心境の変化でもあったんですかね?」

「アンタも知らんのかい!!」とあきれる平助。

「私ねぇ、昨日の平助さんとカエデさんを見ていたら、無性に羨ましくなったの。

 お二人はいつも喧嘩ばかりしているのに、他人が中に入れないような独自の世界を持ってるって思うの。私もそんな相手が欲しいなって。

 そしたら、直ぐ隣に田之上さんがいるじゃない。

 髪形は角刈りだけど、よく見たら背が高く男前だし。見た目より優しいし、誠実そうだし。

 だからこの人でいいかって。」

「この人でいいかって・・・。まあ良いわ。エリカさんにそう思ってもらえるだけでもめっけもんだし。 ありがとう、エリカさん。」

 こちらも二人の世界に入っていく・・・。

 

 こうして同じフロアの隣同士のテーブルに、首相と官房長官のカップル、プラス、テーブルとテーブルの間に立つSP。プライベートなハズなのに、物々しく珍妙な光景が見られた。

 

 やがて料理が運ばれ、頃合いを見計らった平助が「フゥ~!」と深呼吸し、ポケットからおもむろに小箱を取り出しカエデの前に差し出す。

 箱のふたを開けるとそこには指輪が。

「カエデ・・・、カエデさん、僕とケ、ケ、結婚してください。」

柄にもなく平助の手と声が、緊張で震えている。

少しの沈黙のあと、

「ヤダ!」

「へ?ダメなの?」

 その場に緊張が走る。

 

 

 

 

 

     つづく