この記事では、口約束で工事や作品制作などの依頼を受け、仕事は完了したが、依頼人様または注文様が言葉を濁すなどして支払いが滞っている場合の対処の方法について記述します。
ポイントとしては、
・工事や制作などの依頼と作業は問題なく終了している
・口頭やメールでの依頼であって見積書や契約書などは取り交わしていない
・依頼人様や注文主様は連絡がとれるし明確に支払いを拒んでいないものの、支払いについては言葉を濁すなど不安を感じている状況である
といったケースです。
1.代金未回収で依頼人様や注文主様と信頼関係に亀裂が入りかけ支払いが滞っている時のアクションにはどのようなものがあるか?
依頼人様や注文主様から受注してお仕事が完了し、納品や工事完成をしたあと、代金や報酬を請求しても払ってくれない。
このような時は依頼人様や注文主様の同意を得て当事者で公正証書の作成をお勧めします。
2.なぜ公正証書作成を作成を推奨するのか?
強制執行認諾文の公正証書は確定した勝訴判決と同様の法的効力があるためです。裁判をしなくても支払いを拒む依頼人様や注文主様に強制執行を行い報酬や代金を回収できます。
依頼人様や注文主様と支払いをめぐって紛争になる前であれば、当事者の合意を得て公正証書の作成も望めます。同意や協力がなければ公正証書の作成も難しく、報酬などを依頼人様や注文主様から支払いを受けるには弁護士に依頼して訴訟を提起し勝訴判決を得るしかありません。そして勝訴判決に基づいて差押を行ってやっと初めて報酬の支払いを受けることになります。この手間を省くのが強制執行認諾文付きの公正証書です。この強制執行認諾文付きの公正証書は確定した勝訴判決と同様の法的効力があります。
この公正証書の策ををお勧めする理由を述べます。
依頼人様や注文主様が支払いを渋るといった態度を取ることは、詐欺にも通じる悪質なケースもありますが、実は支払う意思はあるがその報酬支払いが難しいときのケースのほうが多いです。
このような、依頼人様や注文主様が悪質な人物ではなく、もし手持ちにお金があればすぐに支払いたいけれど、現金がなくて支払いたくても支払えない。申しわけないと思っている。そんなケースで相手に対して支払いを強く請求すると、依頼人様や注文主様が態度を硬直して今う恐れがあります。そして支払いたくても支払えないが、お金が入ればすぐに払うといった支払いへの誠実な態度を翻して支払いたくない気分にもなります。
この流れはあまり良くないです。
また、さらに事態が悪化した場合には訴訟にも発展しますが、この訴訟の場では双方が手持ちの証拠資料を提出して判決を求めるのが一般的です。しかし、工事代金の請求などでは、そもそも発注者との間で契約資料を取り交わしていないことも多いでしょう。また、材料費といった経費の算出も経験則で行い合理的な経費も出しにくい事態も散見されます。さらに依頼人様や発注者が破産するなど最悪のケースになったら代金や報酬の回収も見込めないことになるのがほとんどです。
そうすると裁判での回収は請求額どおりの金額の回収は難しい状態にもなりかねません。弁護士費用もかさみますし、時間もかかります。
そこで、双方の信頼関係が壊れ不信感がつのり感情も悪化する前に公正証書(強制執行認諾文付)を作成しておけば、支払いの不安も軽減し時間とお金の節約が可能となります。
- 公正証書を作成するタイミングはいつが良いか?
公正証書を作成するタイミングは、依頼人様や注文主様の支払いがあやしくなってきた段階での作成をお勧めします。
公正証書(強制執行認諾文付き)は裁判で確定判決を得た場合と同様の強制力をもっています。なので一般的には支払いができないのが明らかになったときに作成するという印象がある方も多いかもしれません。
しかし、公正証書は、裁判判決と異なり、支払う人と支払いを受ける人の双方の合意が必要であるので、支払いができないことが明白になった段階では任意での公正証書作成に支払いを義務づける証書の作成に応じるのは難しいのではないでしょう。
一方で支払いが不能と陥る前の段階であれば、依頼人様や注文主様の同意も期待できます。そのタイミングを逃すと、当事者が興奮する事態に陥り払う意思も消えてしまうことも多いのではないでしょうか。
- 公正証書手順は?
まず契約内容を明らかにする書類を作成します。メモ書きでも電子メールでのやり取りでもよいですが、書面にて記録に残すことをお勧めします。
この書類には、
・当事者の氏名と住所
依頼人様や注文主様、支払いを請求する方の氏名と住所など個人情報を記載します。公正証書作成に備えて正確な氏名や住所の記載が望ましいですが、とりあえずこの段階であれば正確な氏名や住所でなくても良いです。ただし公証役場での作成依頼の時点で正確な氏名や会社名、住所は必要となります。運転免許証の写しなどは収集しておきましょう。また、可能であれば相手方が持っている金融機関の口座情報(金融機関名、支店名、普通か当座か、口座番号と口座名義など)も押さえられるうちに把握しておくことをお勧めします。
・請求金額
具体的な金額を記載します。
・支払い方法
請求金額を一括で支払うのか、分割か、支払い期日をいつに設定するか。支払いが遅れた場合のペナルティをどうするかなどを記載します。遅延利息もこのカテゴリーに入ります。
・契約内容
受注年月日、納入など完成した年月日、依頼内容の概略、支払いを請求した経緯と支払いの締め切り年月日、一部弁済があったか、などです。例えば建設業の工事であれば、発注年月日と工事期間、無事工事が終わったのかそれとも工事に瑕疵がありその瑕疵について疑義が生じているのか、などです。
・強制執行認諾文を付与するかどうか
この強制執行認諾文の有無によって公正証書の法的拘束力が大きく違ってきます。
このような書面を作成して当事者が合意したら、公証役場に連絡して公正証書の作成を依頼します。
この作成依頼のときに、この紙面を公証役場の担当者に見てもらいます。そのうえで公証人の先生からいくつかの質問などがでることが大半ですが、この質問に誠実に回答して、公証人の先生に公正証書の文面を作成していただきます。
なお、この段階で当事者の身分証明書(マイナンバーカードや運転免許証、パスポート、印鑑証明書など)を公証役場に提示するなどして記載内容を正確にします。
公証人の先生による公正証書の文面が完成しましたら、当事者か、または当事者一方の代理人が交渉役場に出頭して公正証書を作成します。公証人の先生と当事者又は代理人の都合が良い日時を設定します。
公正証書作成の当日は、本人確認の書類(マイナンバーカードや運転免許証、印鑑証明など)と実印、印鑑証明書を持参して公証人の先生の面前で公正証書作成の手続きを行います。
5.依頼人様や注文主様が公正証書作成に協力しないときに残された手段は?
請求する金額や支払い期限などを記載した内容証明を送る手段があります。
内容証明には、
・請求金額
金額を明示します。将来訴訟になった場合に備えて妥当な金額を記載します。根拠のない金額を加算して不当な請求額を記載するのは信用を失い紛争を激化させます。
・支払いの期日
年月日を明示します。内容証明を出してから7日~10日ほどの猶予が一般的なようですが、法的には相当期間の猶予があれば問題ないとされています。
・支払い方法
手渡しか振込か、など。振り込みの場合には振込先に金融機関口座の情報も記載します。分割での支払いであれば支払いの開始期日と支払い終了期日、分割金額を記載します。例えば令和〇年〇月から令和△年△月まで毎月末営業日に金〇〇円を指定した金融機関の口座に振り込む、といった記載です。金融機関への振込手数料も記載するとよいです。
・支払わない場合の措置
一般的には訴訟を提起するとの記載が多いです。訴訟の場合には弁護士に依頼することをお勧めします。
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行政書士 磨井 崇(うすい たかし)
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