帝都壊滅かと思われる未曽有の災害。東京市の4割強を焼く。死者10万強。
ここでは日本人の被害については置く。記録に残らなかった事実を載せる。
人は窮地に陥ると正気を失う。群衆心理も働き敵を作りだす事に向かう。
破れかぶれで、何かにぶち当たりたくなる、やり場のない怒りが暴発する。
自警団、何から何を守ろうとしたのか、そう、朝鮮人から守ろうとした。
とんだナショナリズムである。日本人はこの程度か、だから敗戦に繋がる。
帝国主義の尻馬に乗って、アジア同胞の血肉を喰らい一等国気取り。
震災被害は日本人だけでは毛頭ない、朝鮮の人々の声を私が代わって記す。
この人たちの声が、埋もれたままなのである、辛いことに。
・・・・震災の火災が、ようやく収まった頃の話である。
赤坂見附の紀尾井坂は、大八車でごった返している、荷物があればまだましである。
すっからかんの褌一丁もいる。親は子を見失い声枯らしわめく、なんも届かね。
どこ逃げるや、皇居前広場なら安全だ、天皇様がおわす、とみな向かおうとする。
入り口に柵みたいにして、通せんぼしてんがいる、眼付の悪いんがかたまって。
オラ 「天皇様んとこには、ここから入るってかや、入れてくれて」
自警団「おいガキ、お前、日本人か?」
オラ 「そうだて、日本も日本、大日本人だ。天皇様が遠眼鏡好きなんも知っとる」
自警団「それを言うなって、今はそうじゃのうて、本当で日本人か?」
「じゃお前、国はどこだ、お国ん言葉で何か言ってみろ」
オラ 「オラ越後らいのう、雪ん中で育ちましたて。向こうは地震ねえこってすて」
自警団「うん、ただの百姓のガキやな。よし行っていいぞ。なんとかやれ」
オラ 「ご苦労さんだの。あの、なに見張ってらんだて?」
自警団「朝鮮人だ。火事場に付け込んで悪さやんだ、そんただ奴、通さんわな」
オラ 「ほっかほっか、顔も似てるしの、着物も同じらいて、見分けつかねえ」
自警団「五十五銭と言わすんや。朝鮮は濁点が言えんでの、こいで一遍にわかる」
「お前はもういい、さっさと行け」
オラ 「ほい・・・・」
何人かが柵を越えてった後の事、帽子を深々と被った男が来た。
目は落ち着かない、前の人に続け様に入ろうとしていた、しれっと・・・・
自警団「こらっ、ちゃんと並べ、ここで確かめてから通すんだ」
男 「はいっ、わかりました」
自警団「いいかや、こいはみんなに聞いておる、お前は日本人け?」
男 「日本、ええ日本。今は東京、その前は大阪、もっと前は博多にいました」
自警団「ああそう、東京に出て来てこの地震、さんざんだのう。わかった、行け」
男 「ああ、日本は大変なことなりました。みなさん見回り、コクロウ様」
自警団「待てっ、お前、日本人じゃねえな。ごくろう様って、もう一度行ってみい」
男 「はぁ、コクロウ様。みなさん、コクロウ様。それ何か?」
自警団「じゃ、五十五銭と言ってみろ、そんでお前が日本人じゃ否かがわかる」
男 「わかりました。コシュウコセン、コシュウコセン、はい、もう・・・・」
自警団「捕まえた、朝鮮人だ。日本人のふりしやがって、こっち来い、来い」
「これだから油断ならんのや、何しやがるかわからん、出来んようにしたる」
「この野郎、天誅を喰らわす。膝まづけ、喰らえっーー」
男 「ケーセッキ(犬野郎)ーーー」
この様な痛ましい事は、東京市を越え荒れた。
被害者の記録は残りにくい、加害の日本人は口を閉ざす。被害者は口もない。
昭和に入り、大東亜共栄圏と言う美辞麗句を謳う。何をか言わんやである。
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