2012年1月10日(火)
今日は、エッセイサークルの日。今日から新しい男性が入会した。
この方は、別の同人誌の同人というベテランで、まるで先生のように
ビシバシとみんなのエッセイを批評してくださった。
なんか、レベルが違うって感じで、う~ん、生徒というより、先生が
二人になったみたいだ。
あっちとこっちから、厳しい評が飛んでくるようで、気持ちを引き締めなくちゃ・・。
今日のウィステのエッセイは、ハハのこと・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おしゃべりぬいぐるみ」
夜、義妹の紀子さん(仮名)から電話があった。
「今日、おばあちゃんの病院に行ってきたんですけれど、おばあちゃんの
おしゃべりぬいぐるみが見当たらなくて……。お義姉さんが行ったとき、ありました?」
そのおしゃべりぬいぐるみは、五、六年前、母がまだ老人ホームに入居していた頃、
誕生日のお祝いに弟がプレゼントしたものだ。赤い男の子の人形で、白いお顔に丸い目は、
なかなか愛嬌があった。八十半ばの母にぬいぐるみというのは、
「ときどきおしゃべりするから、おばあちゃんも気持ちが和むよ」
と、認知症になった母への弟の心遣いなのだった。
それからは、ホームの母の部屋で母と過ごしていると、突然、背後から、
「もう、眠くなっちゃったよ~」
と、甲高い子供の声が聞こえ、ぎょっと振り向くと、箪笥の上のそのぬいぐるみと
顔を合わせたりするようになった。母は、
「なんか言ってるね」
と、笑顔を見せるので、ポチと住めなくなった母のペットになってくれたかもしれない。
母がこちらの病院の療養型病棟に移ったときも、もちろん持ってきた。ベッドサイドの
テレビ台の上にいつもちょこんと座っていた筈だが、紀子さんにそう言われてみると、
この前は見かけたか、はっきりとは思い出せない。次回行ったら、探してみることにしよう。
数日後、私も母を見舞った。今年の夏は節電のために昼間は家のエアコンを使わないように
しているので、病院の涼しさにす~っと汗が引いて有り難い。母もこの涼しさに守られている
のだろう。けれど、母も、入院してそろそろ三年。認知症はひたひたと進み、最近は、行くと
いつも、歌を歌っている。それも、以前は、
「ああ、故郷だな。ああ、ごんべさんの赤ちゃんだな」
と、分かり、私も一緒に口ずさんだのだけれど、この頃は、口の中でもごもごと、良く分からない。
四人部屋の入り口の側のベッドの上で、今日も母は、「ウン、ウウン……」と、歌っていた。それから、
「私、何か、溜まっているのよね」
と、私を見上げて言う。溜まっているのは、きっと家に帰りたいとの思いだろうが、
はっきり言葉にされるのも切ない。私は、
「歌が溜まっているんじゃないの?」
と、答え、母は、
「きっとそうね」
と、歌い続ける。
それから母のベッドの周りを見回してみたが、たしかにぬいぐるみが無い。通路の向こう側の
おばあさん二人は、昼寝しているのかいないのか、ベッドに横たわっている。そして、母の隣りの
窓側のおばあさんは、大きな目でじっと睨むように、私を見詰めていた。その枕元に、母の
おしゃべりぬいぐるみがあった。
なんで、あそこに母のぬいぐるみがあるのだろう?
ぬいぐるみが床に落ちて、誰かが、あちらのおばあさんの物と間違えたのだろうか。
このままおばあさんの物になっても困るし、返してもらわなくてはと、私は、彼女のベッドの
足元に近づいた。だが、口をきゅっと結んだ厳しい表情のまま、目で私の動きを追うおばあさんに
なんと声をかけよう。これまでもおばあさんの様子に気持ちが臆して、軽く会釈をする程度だったし、
看護師さんが彼女に声をかけても、無言のままか、「アー、アー」と、太い声をあげていた姿を思うと、
ぬいぐるみを返して下さいねと言って、話が伝わるだろうか。躊躇っていると、丁度看護師さんが
部屋に入ってきた。私を見て、
「そのぬいぐるみ、千代さん(仮名)が気に入ってしまって、ちょっとお借りしているんです。
後で、お返しします」
と、言う。あまりしゃべらない千代さんが、母のぬいぐるみを指して、
「アレ、欲しい~」
と、幼な子のようにねだったのだろうかと思うと、ふっと気持ちが和らぎ、私は、頷いて、
母のベッドの側に戻った。その時、突然、
「お腹が空いちゃったよ~」
と、ぬいぐるみがしゃべった。その声に看護師さんも私もぬいぐるみに目が引き寄せられる。
千代さんも首を回して、ぬいぐるみを見た。けれど、母には、ぬいぐるみの声が届かないのか、
相変わらず、「ウン、ウウン」と、母だけに分かる歌を歌い続けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後の食事会では、先生のテーブルを避け、もう一つのテーブルへ。
先生のテーブルからは、ブンガクの話や、会則の話などが聞こえてくる。
ウィステたちは、どんなお正月だったとか、健診がどうしたとか・・。
こっちの話題のほうが、ご飯だって、おいしい~。(^^)
今日は、エッセイサークルの日。今日から新しい男性が入会した。
この方は、別の同人誌の同人というベテランで、まるで先生のように
ビシバシとみんなのエッセイを批評してくださった。
なんか、レベルが違うって感じで、う~ん、生徒というより、先生が
二人になったみたいだ。
あっちとこっちから、厳しい評が飛んでくるようで、気持ちを引き締めなくちゃ・・。
今日のウィステのエッセイは、ハハのこと・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おしゃべりぬいぐるみ」
夜、義妹の紀子さん(仮名)から電話があった。
「今日、おばあちゃんの病院に行ってきたんですけれど、おばあちゃんの
おしゃべりぬいぐるみが見当たらなくて……。お義姉さんが行ったとき、ありました?」
そのおしゃべりぬいぐるみは、五、六年前、母がまだ老人ホームに入居していた頃、
誕生日のお祝いに弟がプレゼントしたものだ。赤い男の子の人形で、白いお顔に丸い目は、
なかなか愛嬌があった。八十半ばの母にぬいぐるみというのは、
「ときどきおしゃべりするから、おばあちゃんも気持ちが和むよ」
と、認知症になった母への弟の心遣いなのだった。
それからは、ホームの母の部屋で母と過ごしていると、突然、背後から、
「もう、眠くなっちゃったよ~」
と、甲高い子供の声が聞こえ、ぎょっと振り向くと、箪笥の上のそのぬいぐるみと
顔を合わせたりするようになった。母は、
「なんか言ってるね」
と、笑顔を見せるので、ポチと住めなくなった母のペットになってくれたかもしれない。
母がこちらの病院の療養型病棟に移ったときも、もちろん持ってきた。ベッドサイドの
テレビ台の上にいつもちょこんと座っていた筈だが、紀子さんにそう言われてみると、
この前は見かけたか、はっきりとは思い出せない。次回行ったら、探してみることにしよう。
数日後、私も母を見舞った。今年の夏は節電のために昼間は家のエアコンを使わないように
しているので、病院の涼しさにす~っと汗が引いて有り難い。母もこの涼しさに守られている
のだろう。けれど、母も、入院してそろそろ三年。認知症はひたひたと進み、最近は、行くと
いつも、歌を歌っている。それも、以前は、
「ああ、故郷だな。ああ、ごんべさんの赤ちゃんだな」
と、分かり、私も一緒に口ずさんだのだけれど、この頃は、口の中でもごもごと、良く分からない。
四人部屋の入り口の側のベッドの上で、今日も母は、「ウン、ウウン……」と、歌っていた。それから、
「私、何か、溜まっているのよね」
と、私を見上げて言う。溜まっているのは、きっと家に帰りたいとの思いだろうが、
はっきり言葉にされるのも切ない。私は、
「歌が溜まっているんじゃないの?」
と、答え、母は、
「きっとそうね」
と、歌い続ける。
それから母のベッドの周りを見回してみたが、たしかにぬいぐるみが無い。通路の向こう側の
おばあさん二人は、昼寝しているのかいないのか、ベッドに横たわっている。そして、母の隣りの
窓側のおばあさんは、大きな目でじっと睨むように、私を見詰めていた。その枕元に、母の
おしゃべりぬいぐるみがあった。
なんで、あそこに母のぬいぐるみがあるのだろう?
ぬいぐるみが床に落ちて、誰かが、あちらのおばあさんの物と間違えたのだろうか。
このままおばあさんの物になっても困るし、返してもらわなくてはと、私は、彼女のベッドの
足元に近づいた。だが、口をきゅっと結んだ厳しい表情のまま、目で私の動きを追うおばあさんに
なんと声をかけよう。これまでもおばあさんの様子に気持ちが臆して、軽く会釈をする程度だったし、
看護師さんが彼女に声をかけても、無言のままか、「アー、アー」と、太い声をあげていた姿を思うと、
ぬいぐるみを返して下さいねと言って、話が伝わるだろうか。躊躇っていると、丁度看護師さんが
部屋に入ってきた。私を見て、
「そのぬいぐるみ、千代さん(仮名)が気に入ってしまって、ちょっとお借りしているんです。
後で、お返しします」
と、言う。あまりしゃべらない千代さんが、母のぬいぐるみを指して、
「アレ、欲しい~」
と、幼な子のようにねだったのだろうかと思うと、ふっと気持ちが和らぎ、私は、頷いて、
母のベッドの側に戻った。その時、突然、
「お腹が空いちゃったよ~」
と、ぬいぐるみがしゃべった。その声に看護師さんも私もぬいぐるみに目が引き寄せられる。
千代さんも首を回して、ぬいぐるみを見た。けれど、母には、ぬいぐるみの声が届かないのか、
相変わらず、「ウン、ウウン」と、母だけに分かる歌を歌い続けていた。
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その後の食事会では、先生のテーブルを避け、もう一つのテーブルへ。
先生のテーブルからは、ブンガクの話や、会則の話などが聞こえてくる。
ウィステたちは、どんなお正月だったとか、健診がどうしたとか・・。
こっちの話題のほうが、ご飯だって、おいしい~。(^^)