2012年12月15日(土)
家の前で、ご近所のご主人に呼び止められた。
「だいぶ、泥棒が入っているようですよ。ウィステさんも気をつけて。
あ、お宅は、セキュリティに入っているか」
ありがとうございます。でも、歳末、気ぜわしいけれど、戸締り、防犯、気をつけます。
そこで、何年か前(=ポチがまだいたころ)セキュリティを入れた頃のエッセイを・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「侵入です」
居間のシャッターを開けると、朝日が差し込む。私は、少し冷たい空気を吸い
しゃきっとなって、
「ポチ、お散歩、行こうか」
と、サークルの中のポチに声をかけた。その時、どこからか、ピー、ピーと音が
聞こえてきた。お湯が沸いた合図でもないし、目覚まし時計の音のはずもない。音は突然、
「侵入です。侵入です」
という声に変わった。
ホームセキュリティを切り忘れた!
玄関にとんで行くと、棚の上のセキュリティのコントローラーの警告ボタンが赤い光を
点滅させ、液晶画面には、侵入者ありの「足跡マーク」と警備会社へ電話中との
「電話機マーク」が点っている。
〈しまった!違う違う、侵入じゃないんです。ちょっと、窓を開けただけなんです!〉
警備会社への連絡だけは止めたいと、応答ボタンを押したり、取り消しボタンを押したりしたが、
「侵入です。侵入です」という声は続く。いったいどうしたらいいのかとおろおろしている
間に、もう電話が鳴る。警備会社からに違いない。
「あ、あ、すみません」
と、電話口でまず謝ると、
「居間のガラス戸をお開けになったんですよね」
と、担当者が答えた。そののんびりした口調に気持ちが救われ、私は、
「すみません、そうなんです。あの、その、『侵入です』っていう声は、
どうやって止めるんですか?困っているんです」
と、畳み掛けるように聞いた。
「取り消しボタンをもう二、三回押すと止まります。それから、もう警備車両が
そちらに向かいましたから、インターフォン越しにでも、『異常ありません』と伝えてください」
〈朝っぱらから、ご近所の目の前に、警備車両が来るのか……〉
四ヶ月ほど前、町内で深夜の忍び込み事件がたて続けに起きた。ガラス戸を切るとか
雨戸をこじ開けるといった荒っぽい手口だそうで不安が募り、思い切って警備会社と
ホームセキュリティ設備の契約をしたのだった。我が家の窓やドアにはセンサーが張り巡ら
され、玄関に置いたコントローラーはセンサーと警備会社を繋ぐ。これで、一安心だ。
ただ、実際にホームセキュリティを使うとなると、多少の慣れは要る。外出時にセットする
と、コントローラーが直ちに、ピンポン、ピンポンとカウントダウンを始める。すると、
一分以内に玄関の外へ出なくては、私が侵入者扱いをされる。ついつい靴をつっかけたまま
外へ飛び出し、外で履き直すようになった。うっかり忘れ物をしようものなら、取りに戻る
のに、セットを一端解除して再セットしなくてはならない。一回一回電話回線で警備会社に
連絡がいくので、忘れ物一つにつき二十円かかる。それがなんだか勿体なく、手袋やマスク
などいいわとなるのだった。外出から戻ったときには、靴を脱ぐ間ももどかしくセキュリティ
解除のためにいの一番にコントローラーに手を伸ばす。
しかし、それらは、夜にセキュリティをセットした時の安心感に比べれば、些細な事に思えた。
シャッターのないガラス戸にぬっと侵入者の影が映ったら……などと、想像力に振り回されて
ドキドキしたりしなくても、もう良いのだ。警備会社からすぐに人が駆けつけてくれるという
ことも、一人暮らしの私には心強い。一晩、電子の鳥籠の中で私は眠り、そして、朝起きると
まずコントローラーの解除ボタンを押すという生活に満足していた。
それなのに、わずか四ヶ月でこんなミスをしてしまった。警備会社に繋がっていると、
ミスもいちいち伝達され、「寝ぼけ」とか、「うっかり」とか、記録されるのだろうか。
私の性格までもが筒抜けだ……。
まもなく警備の車が来る。近所に目立たないうちにすぐ帰ってもらおうと、私はポチを
連れて庭に出て待ち構えた。白と紺のツートンカラーの警備の車が門の前に着くと、
私はすぐ駆け寄り、降りてきた警備員に「あ、ミスなんです。すみません」と、声をかけた。
だが、ポチが見慣れぬ車に警戒し、ワンワン!吼えかかるものだから、私は、さらに、
「すみません、すみません」と、頭を下げたのだった。警備員は、「異常ありませんね」と
穏やかに確かめ、すぐに帰ってくれた。
〈ミスしても、警備会社の人は優しいわ。これが夫だったら、ガンガン叱られたに違いない。
それに、呼ぶと必ず来てくれる人がいるって、なんて安心なことだろう。もしかしたら私、
もっと年を取って、もっとぼーっとしたら……誰かにかまってもらいたくなると警報ボタンを
押すトンデモ婆さんになるかも〉
未来の自分に少し慄(おのの)きながら、私はポチと家に入り、玄関の鍵をカチャッとかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セキュリティ、安心だけれど、うっかりすると大事になるんだよね・・。(^^;)
年末防犯と同じように、セキュリティ解除も、気をつけます・・。
家の前で、ご近所のご主人に呼び止められた。
「だいぶ、泥棒が入っているようですよ。ウィステさんも気をつけて。
あ、お宅は、セキュリティに入っているか」
ありがとうございます。でも、歳末、気ぜわしいけれど、戸締り、防犯、気をつけます。
そこで、何年か前(=ポチがまだいたころ)セキュリティを入れた頃のエッセイを・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「侵入です」
居間のシャッターを開けると、朝日が差し込む。私は、少し冷たい空気を吸い
しゃきっとなって、
「ポチ、お散歩、行こうか」
と、サークルの中のポチに声をかけた。その時、どこからか、ピー、ピーと音が
聞こえてきた。お湯が沸いた合図でもないし、目覚まし時計の音のはずもない。音は突然、
「侵入です。侵入です」
という声に変わった。
ホームセキュリティを切り忘れた!
玄関にとんで行くと、棚の上のセキュリティのコントローラーの警告ボタンが赤い光を
点滅させ、液晶画面には、侵入者ありの「足跡マーク」と警備会社へ電話中との
「電話機マーク」が点っている。
〈しまった!違う違う、侵入じゃないんです。ちょっと、窓を開けただけなんです!〉
警備会社への連絡だけは止めたいと、応答ボタンを押したり、取り消しボタンを押したりしたが、
「侵入です。侵入です」という声は続く。いったいどうしたらいいのかとおろおろしている
間に、もう電話が鳴る。警備会社からに違いない。
「あ、あ、すみません」
と、電話口でまず謝ると、
「居間のガラス戸をお開けになったんですよね」
と、担当者が答えた。そののんびりした口調に気持ちが救われ、私は、
「すみません、そうなんです。あの、その、『侵入です』っていう声は、
どうやって止めるんですか?困っているんです」
と、畳み掛けるように聞いた。
「取り消しボタンをもう二、三回押すと止まります。それから、もう警備車両が
そちらに向かいましたから、インターフォン越しにでも、『異常ありません』と伝えてください」
〈朝っぱらから、ご近所の目の前に、警備車両が来るのか……〉
四ヶ月ほど前、町内で深夜の忍び込み事件がたて続けに起きた。ガラス戸を切るとか
雨戸をこじ開けるといった荒っぽい手口だそうで不安が募り、思い切って警備会社と
ホームセキュリティ設備の契約をしたのだった。我が家の窓やドアにはセンサーが張り巡ら
され、玄関に置いたコントローラーはセンサーと警備会社を繋ぐ。これで、一安心だ。
ただ、実際にホームセキュリティを使うとなると、多少の慣れは要る。外出時にセットする
と、コントローラーが直ちに、ピンポン、ピンポンとカウントダウンを始める。すると、
一分以内に玄関の外へ出なくては、私が侵入者扱いをされる。ついつい靴をつっかけたまま
外へ飛び出し、外で履き直すようになった。うっかり忘れ物をしようものなら、取りに戻る
のに、セットを一端解除して再セットしなくてはならない。一回一回電話回線で警備会社に
連絡がいくので、忘れ物一つにつき二十円かかる。それがなんだか勿体なく、手袋やマスク
などいいわとなるのだった。外出から戻ったときには、靴を脱ぐ間ももどかしくセキュリティ
解除のためにいの一番にコントローラーに手を伸ばす。
しかし、それらは、夜にセキュリティをセットした時の安心感に比べれば、些細な事に思えた。
シャッターのないガラス戸にぬっと侵入者の影が映ったら……などと、想像力に振り回されて
ドキドキしたりしなくても、もう良いのだ。警備会社からすぐに人が駆けつけてくれるという
ことも、一人暮らしの私には心強い。一晩、電子の鳥籠の中で私は眠り、そして、朝起きると
まずコントローラーの解除ボタンを押すという生活に満足していた。
それなのに、わずか四ヶ月でこんなミスをしてしまった。警備会社に繋がっていると、
ミスもいちいち伝達され、「寝ぼけ」とか、「うっかり」とか、記録されるのだろうか。
私の性格までもが筒抜けだ……。
まもなく警備の車が来る。近所に目立たないうちにすぐ帰ってもらおうと、私はポチを
連れて庭に出て待ち構えた。白と紺のツートンカラーの警備の車が門の前に着くと、
私はすぐ駆け寄り、降りてきた警備員に「あ、ミスなんです。すみません」と、声をかけた。
だが、ポチが見慣れぬ車に警戒し、ワンワン!吼えかかるものだから、私は、さらに、
「すみません、すみません」と、頭を下げたのだった。警備員は、「異常ありませんね」と
穏やかに確かめ、すぐに帰ってくれた。
〈ミスしても、警備会社の人は優しいわ。これが夫だったら、ガンガン叱られたに違いない。
それに、呼ぶと必ず来てくれる人がいるって、なんて安心なことだろう。もしかしたら私、
もっと年を取って、もっとぼーっとしたら……誰かにかまってもらいたくなると警報ボタンを
押すトンデモ婆さんになるかも〉
未来の自分に少し慄(おのの)きながら、私はポチと家に入り、玄関の鍵をカチャッとかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セキュリティ、安心だけれど、うっかりすると大事になるんだよね・・。(^^;)
年末防犯と同じように、セキュリティ解除も、気をつけます・・。