朝夕の温度差で風邪をひいたのか少し熱っぽい。
こんな時、明治時代の大阪人は、医者や薬屋ではなくうどん屋へ行った。
「毎度。いらっしゃい。なにしまひょ」
「ちょっと風邪ひいたみたいや。いつもの頼むは」
「へい、少々お待ちを」
出てきたのはきつねうどん。その横に紙に包まれた薬が一つ割り箸にはさまれている。
3世紀の中国の『傷寒論(しょうかんろん)』という書物に、「風邪のひきはじめには消化の良い熱い汁物と薬を飲めば薬力が上がる」と書かれているのを見た大阪のうどん屋が始めたという。
これが評判になって、あちこちのうどん屋で薬を売るようになった。
その薬を作っていた明治9年創業の「うどんや風一夜薬本舗」という薬屋が今でも東住吉に現存している。
HPには「『うどんや』にある『風(かぜ)』が『一夜』で治るお『薬』」が名前の由来とある。
いかにも効きそうなネーミングだし、うどんも食べたかったので薬屋で探したがなかった。
いたしかたなく漢方系の葛根湯を買ってきた。
※上・下の写真は「うどんや風一夜薬本舗」のHPから拝借しています。
『傷寒論』には葛根湯についても書かれていて、「太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之」とある。
漢方では症状の軽い順に「太陽病・少陽病・陽病」、悪化すると「陰病」というらしい。
「かぜなどの発熱性疾患初期で、うなじや背中の凝り、汗が出ない、悪寒などに葛根湯を主に用いる」の意になる。
別の項には「破傷風や脳膜炎等のときのような全身痙攣に葛根湯」とある。けっこういろんな病気に効くようだ。
こんな医者がいたそうだ。
「なに、頭が痛い? 頭痛ですな。葛根湯がよろしい。次は胃が痛い? 葛根湯がよろしい。今度は筋肉痛? 葛根湯をおあがり。次の方は・・・」
「先生、私は単なる付き添いです」
「付き添い? 退屈でしょう。葛根湯をおあがり」
「葛根湯医者」という小咄である。
買ってきた薬の効能書きには「体力中等度以上のものの次の諸症:感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み」とある。
というわけで、本日の昼食は「薬付きのきつねうどん」。うん。なんとなく効いてきた気がする。
※図は「大阪名所絵葉書」(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
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