弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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営業社員であれば残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わなくてもいいのですよね。

2014-07-20 | 日記

営業社員であれば残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わなくてもいいのですよね。

 営業社員も労基法上の労働者ですから,週40時間(小規模事業場の特例が適用される場合には週44時間)又は1日8時間を超えて労働させた場合,1週1休の法定休日(労基法35条)に労働させた場合,深夜(22時~5時)に労働させた場合には,原則として労基法37条所定の残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払う必要があります。当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要とならない事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わる事案)において,事業場外労働のみなし労働時間制が適用され,所定労働時間労働したものとみなされた結果,時間外労働がなかったことになり,残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに止まります。
 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても,当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない事案)においては,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(例えば,1日10時間とか11時間といった時間)労働したものとみなされます。みなし労働時間を元に労働時間を算定した結果,労働時間が週40時間(小規模事業場の特例が適用される場合には週44時間)又は1日8時間を超える場合には,残業代 (時間外割増賃金)の支払が必要となります。
 労基法35条所定の法定休日や深夜に労働させた場合には,休日割増賃金や深夜割増賃金の支払が必要となることは,通常の場合と何ら変わりありません。


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営業社員の残業代を「営業手当」といった一見して残業代だと分からない名目で支払いたい場合

2014-07-20 | 日記

営業社員の残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を「営業手当」といった一見して残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当とは分からない名目で支給したい場合は,どうすればいいですか。

 「営業手当」といった一見して残業代 (時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当とは分からない名目での支払を希望する場合は,最低限,営業の精神的負担や被服・靴などの消耗品に対する金銭的負担を補填する趣旨の手当(通常の労働時間・労働日の賃金)に当たる部分と残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)に当たる部分が判別できるよう金額を明示するようにして下さい。両者が判別できない場合は,残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払があったとは認めてもらえません。


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残業代(割増賃金)の支払名目はどういったものがお勧めですか。

2014-07-20 | 日記

残業代(割増賃金)の支払名目はどういったものがお勧めですか。

 営業社員に対しては残業代 (割増賃金)を「営業手当」等の名目で支払われていることが多いようですが,「営業手当」では,実質的に残業代(割増賃金)の支払と評価できるのかどうか争いが生じる可能性があります。したがって,残業代(割増賃金)の支払名目は,「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当であることが一見明白な名目とすることをお勧めします。


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事業場外みなしの適用がある営業社員の残業代について

2014-07-20 | 日記

 

事業場外みなしの適用がある営業社員について,当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない場合)は,どのように残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払えばよろしいでしょうか。

 

 当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない場合)は,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」のうちの時間外労働時間に対する残業代 (時間外割増賃金)を支払う必要があります。「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が何時間かは認定が難しく,事前に決めておかないと後から争いになりますので,労働者代表等との間で労使協定を締結して営業社員のみなし労働時間を定めておくとよいでしょう。例えば,所定労働時間が1日8時間の事業場において,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が1日10時間の場合は,労働者代表等との間の労使協定で「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を1日10時間とする旨定め,1日2時間分の残業代(時間外割増賃金)を支払うことになります。
 具体的には,残業代(時間外割増賃金)の時間単価を算出し,当該賃金計算期間におけるみなし労働時間における時間外労働時間数を乗じて,残業代(時間外割増賃金)額を算定します。毎月一定額の基本給等の賃金のほか,営業成績に応じた歩合給がある場合,通常の労働時間の賃金は,「基本給等の月額で定められた賃金÷一年間における一月平均所定労働時間数」だけでなく,これに「出来高払制によって計算された賃金の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間数」を加算して算出されること(労基則19条1項7号・4号・6号)に注意が必要です。
 例えば,労使協定で営業社員は1日10時間労働したものとみなす旨定められている事業場で,通常の労働時間の賃金が1000円/時,当該賃金計算期間における労働日数が21日の場合は,
 時間外割増賃金単価=1000円/時×1.25=1250円/時
 時間外労働時間=2時間/日×21日=42時間
 時間外割増賃金=1250円/時×42時間=5万2500円
となります。
 給料日には,算定した時間外割増賃金額を「時間外勤務手当」等,時間外割増賃金の支払であることが明白な名目で支払って下さい。上記の例でいえば,時間外割増賃金5万2500円を「時間外勤務手当」等,時間外割増賃金の支払であることが明白な名目で支払うことになります。
 休日・深夜労働がある場合は,休日・深夜労働時間に応じて,休日・深夜割増賃金を,「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等,休日・深夜割増賃金の支払であることが明白な名目で支払って下さい。

 


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「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは

2014-07-20 | 日記

「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」に労働したものとみなされる「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,どのような時間をいいますか。

 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり,平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより,当該時間を判断することになります。


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事業場外労働のみなし労働時間制と残業代(割増賃金)支払義務との関係

2014-07-20 | 日記

事業場外労働のみなし労働時間制と残業代(割増賃金)支払義務との関係を教えて下さい。

 事業場外労働のみなし労働時間制は,労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときに,所定労働時間又は当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす制度であり,残業代 (時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除するものではありません。当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要とならない事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わる事案)において,事業場外労働のみなし労働時間制が適用されて所定労働時間労働したものとみなされた結果,時間外労働がなかったことになり,残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに止まります。
 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても,当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない事案)においては,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(例えば,1日10時間とか11時間といった時間)労働したものとみなされます。みなし労働時間を元に労働時間を算定した結果,労働時間が週40時間(小規模事業場の特例が適用される場合には週44時間)又は1日8時間を超える場合には,残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります。
 労基法35条所定の法定休日や深夜に労働させた場合には,休日割増賃金や深夜割増賃金の支払が必要となることは,通常の場合と何ら変わりありません。


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事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定される具体例

2014-07-20 | 日記

事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいるために事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定される具体例を教えて下さい。

 事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいるために事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定される具体例としては,昭和63年1月1日基発第1号が以下のように述べているのが参考になると思います。
(昭和63年1月1日基発第1号)
 事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは,事業場外で業務に従事し,かつ,使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって,次の場合のように,事業場外で業務に従事する場合にあっても,使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については,労働時間の算定が可能であるので,みなし労働時間制の適用はないものであること。
 ① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
 ② 事業場外で業務に従事するが,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
 ③ 事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合


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「労働時間を算定し難いとき」とは,どのような場合のことをいいますか。

2014-07-18 | 日記

 

「労働時間を算定し難いとき」とは,どのような場合のことをいいますか。

 

 「労働時間を算定し難いとき」とは,当該業務の勤務実態等の具体的事情を踏まえて,社会通念に従って判断すると,使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され,客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと考えるのが一般的です。
 阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件最高裁平成26年1月24日第二小法廷判決は,どのような場合に「労働時間を算定し難いとき」に該当するかに関し一般的な判断基準を示していませんが,派遣添乗員の業務が「労働時間を算定し難いとき」に該当するかを判断するに当たり,業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,阪急交通社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等を検討していますので,「労働時間を算定し難いとき」に当たるかを判断するに当たっては,
 ① 業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等
 ② 使用者と社員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等
が重要な考慮要素となるものと思われます。

 


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「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」とはどのような場合?

2014-07-18 | 日記

「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」とは,どのような場合のことをいいますか。

 事業場外労働のみなし労働時間制は,事業場外で業務に従事した場合の制度なので,事業場外での業務に従事していない場合には,労働時間を算定し難い場合であっても,事業場外労働のみなし労働時間制の適用はありません。もっとも,労働者が労働時間の「一部」について事業場外で業務に従事した場合にも適用がありますので,労働者が事業場外と事業場内の両方で業務に従事した場合も,事業場外労働のみなし労働時間制が適用される可能性があります。
 「事業場」の範囲は,使用者の具体的な指揮監督の困難性の程度により決定されるものであり,就業規則の制定単位や労使協定の締結単位である「事業場」とは必ずしも一致しません。
 「業務」には,恒常的な業務のみならず,出張等の臨時的業務も含まれます。


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事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件を教えて下さい。

2014-07-18 | 日記

事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件を教えて下さい。

 事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができるというためには,以下の2つの要件を満たす必要があります。
 ① 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であること
 ② 「労働時間を算定し難いとき」に当たること


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変形労働時間制を採用すれば,残業代(割増賃金)請求対策になりますか。

2014-07-18 | 日記

変形労働時間制を採用すれば,残業代(割増賃金)請求対策になりますか。

 変形労働時間制は,一定の期間を単位として,週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことを条件に,所定労働時間が週40時間又は1日8時間の労働時間を超えて労働させることを許容する制度に過ぎず,残業代 (時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除する制度ではありません。週40時間又は1日8時間を超える所定労働時間が定められた場合,週40時間又は1日8時間を超える部分は残業代(時間外割増賃金)の支払が義務づけられる時間外労働には当たらないことになるため,その限度で残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに過ぎません。
 変形労働時間制は,週当たりの平均労働時間が週40時間を超えないことが必要ですので,労働時間が週40時間未満又は1日8時間未満で足りることもあるのであれば,結果として残業代(時間外割増賃金)請求対策になる可能性がありますが,恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある会社では,残業代(時間外割増賃金)請求対策にはなりません。
 休日・深夜に労働させた場合は,通常どおり,残業代(休日・深夜割増賃金)を支払う必要がありますので,変形労働時間制を採用したとしても,残業代(休日・深夜割増賃金)請求対策にはなりません。


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1か月単位の変形労働時間制を採用する場合,使用者が任意に定めることができるもので構いませんか。

2014-07-18 | 日記

1か月単位の変形労働時間制を採用する場合,就業規則・労使協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せずに,具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなもので構いませんか。

 1か月単位の変形労働時間制を導入するためには,法定労働時間を上回る週又は日を特定し,単位期間を平均して1週間あたりの労働時間が週法定労働時間を超えないことを明らかにするために,各週・各日の所定労働時間を就業規則又は労使協定に定める必要があります。
 業務の性質上事前の特定が困難な場合は,変形の期間,上限,勤務のパターンなどの変形制の基本事項を就業規則又は労使協定に定めた上,変形期間の開始前に,具体的な勤務割りで特定することも認められますが,就業規則・労使協定に労働時間制の枠組みを定めるだけで労働時間を特定せず,具体的な労働時間を使用者が任意に定めることができるようなものは認められません。


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労働時間の規制緩和のための制度や労働時間等に関する規定の適用を除外する制度

2014-07-18 | 日記

労働時間の規制緩和のための制度や労働時間等に関する規定の適用を除外する制度にはどのようなものがありますか。

 労働時間の規制緩和のための制度としては,
 ① 変形労働時間制(労基法32条の2,32条の4,32条の5)
 ② フレックスタイム制(労基法32条の3)
 ③ 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)
 ④ 裁量労働制(労基法38条の3,38条の4)
などがあります。
 ⑤ 管理監督者及び機密事務取扱者(労基法41条)
については,そもそも,労働時間等に関する規定の適用が除外されます。


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強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかったのですから,源泉所得税を納付しなくても構いませんよね

2014-07-18 | 日記

残業代(割増賃金)の支払を命じる判決を放置していたところ,強制執行されてしまいました。強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかったのですから,源泉所得税を納付しなくても構いませんよね。

 最高裁判所平成23年3月22日第三小法廷判決は, 所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が,その支払を命ずる判決に基づく強制執行により賃金の回収を受ける場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負うと判断していますので,使用者は,強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかった場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負い,源泉所得税を納付する必要があります。
 強制執行されているため,残業代 (割増賃金)を支払う際に源泉所得税を徴収できないのに源泉所得税を納付しなければならないのは不当だと言いたくなるかもしれませんが,上記最高裁判決が「上記の場合に,給与等の支払をする者がこれを支払う際に源泉所得税を徴収することができないことは,所論の指摘するとおりであるが,上記の者は,源泉所得税を納付したときには,法222条に基づき,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を,その徴収をされるべき者に対して請求等することができるのであるから,所論の指摘するところは,上記解釈を左右するものではない。」と判示している以上やむを得ません。使用者としては,源泉所得税納付後,徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を当該労働者に請求するほかないことになります。


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労働者側代理人から,「債務名義があるのだから,源泉徴収せずに全額払って欲しい。」と言われたら

2014-07-18 | 日記

残業代(割増賃金)の支払を命じる判決が出たので,所得税等を源泉徴収して支払おうとしたところ,労働者側代理人から,「債務名義があるのだから,源泉徴収せずに全額払って欲しい。」と言われました。債務名義があるかどうかと源泉徴収義務の有無は関係あるのでしょうか。

 使用者は,強制執行により賃金の回収を受ける場合であっても,源泉所得税の源泉徴収義務を負うとするのが最高裁判所平成23年3月22日第三小法廷判決なのですから,使用者が判決に従い任意に賃金を支払う場合は,当然,源泉徴収義務を負い,源泉所得税を納付しなければならないことになります。したがって,使用者は,債務名義の有無にかかわらず,源泉徴収した上で賃金を支払う必要があります。
 もっとも,当該労働者が,源泉徴収しない金額での支払を強硬に主張し,源泉徴収額についても強制執行してきた場合は,「強制執行手続においては,執行債務者が徴収すべき源泉所得税を徴収する手続は予定されていないから,本件のように給与等の債権者がその債務名義に基づいて民事執行法122条2項により弁済を受ける場合には,源泉徴収されるべき所得税相当額をも含めて強制執行をし,他方,源泉徴収義務者は,強制執行により支払った給与等につき源泉徴収すべき所得税を納付した上で,法222条に基づき求償することになる。」(裁判官田原睦夫の補足意見)という手順を採らざるを得ません。そのようなことにならないよう,上記最高裁判例を労働者側に示して,源泉徴収額についてまで強制執行しないよう話し合っておく必要があります。


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