事件は突然起こる。
何の前ぶれもない。
年内の仕事も大掃除も終わり、年末を静かに過ごそうと思っていた私の頭に
ふと浮かんだ考え。
それが全ての始まり。
キッチンの流し台の下に梅酒が置いてある。
味付け海苔が入っていた大きなガラス瓶で作られたお酒は
作ってから3年~4年経っているため、色も味も深みが増し、
市販のものよりかなり美味しく仕上がっている。
作るのは好きだけれど、あまり自分で飲むことがないため、
出来上がるといつも母に送っていた。
今回もボトルに詰め替えて、母にあげよう。
「よいしょっ」とビンを取り出し、テーブルの上に置いた。
ここで予想外の展開。
置いた瞬間、ビンが真ん中で割れ、上下真っ二つに。
当然、梅酒は全て流れ落ちた。
テーブルも床も梅酒の海。
母さん、梅酒なくなりました…一滴も。
普通なら「あ゙ぁぁ~」と慌て、タオルを探し…となるのだけれど
その時の私はやけに冷静だった。
ビンを見つめ、足元に広がる甘い香り漂う海を見つめ、立ち尽くした。
中身がこぼれたことよりも、なぜビンが割れたのか、そこが不思議でならなかったから。
「何で…テーブルに置いただけなのに…」
考えてみれば耐熱用でもないのに作る度に熱湯消毒をされ、
味付け海苔ビン君には過度のストレスがかかっていたに違いない。
我慢し、耐え続け、限界が来れば、ほんの小さな衝撃でも壊れる。
人間と同じ。
作る楽しさに気を取られ、ビン君がかかえていたストレスに
目を向けることもしなかった。
彼の苦痛も知らず、自分の趣味を楽しんでいた。
申し訳なかった…
反省、すでに遅し。
足元に海広がる。
年内のガラスごみの収集は数日前に終わっている。
ごみは全て回収してもらい、きれいな状態で正月を迎えようというごみ出し計画も
年末をゆっくり過ごすため早めに終わらせた大掃除計画も一気に崩れた。
振り出しに戻る。あ~ん
梅酒には1キロの氷砂糖が入っている。
それだけの糖分が入っているということは、拭いても、拭いても、ベトベトは続くのだ。
気長にやるしかない。
あきらめよう。
それから3日間、一日に何度も何度も拭き続けた。
ベトベトさんっていう妖怪がいたな…
「ベトベト」と「ベタベタ」はどっちがより程度が上かな…
「ベットベト」の方がより上かもしれない。
どうでもいい様々なことが頭に浮かんでは消え、
気付くと大惨事の前よりも床がきれいになっていた。
そうなると、
「これはこれでよかったのかもしれない…」
とさえ思うようになった。
「部屋の乱れは心の乱れ」と言うけれど、掃除をすると心にも変化が起こるのだ。
それから数日、部屋中に爽やかな梅の香りが漂っていた。
年明けのごみ回収日まで、ビン君はキッチンの片隅にたたずみ、正月を過ごし、
やがて旅立って行った。
形ある物いつかは壊れる。
梅酒も年月も無駄にしてしまったけれど、悪気はなかった。
仕方ない。
「あの時、もっとこうすればよかった…」
いつまでも後悔したところで先には進まない。
ビンが割れた衝撃とともに、私の中で燻ぶっていた古い何かが
解き放たれたような気がする。
年の始め、もう一度、一から出直そう。
気持ちもビンも新調し、今度はシソ酒を作ってみた。
どんな味に出来上がるのか、初めてだからよく分からない。
分からないから、興味も、期待度も日に日に増し、
またひとつ自分のレパートリーが増えるかもしれない喜びに包まれている。
何の前ぶれもない。
年内の仕事も大掃除も終わり、年末を静かに過ごそうと思っていた私の頭に
ふと浮かんだ考え。
それが全ての始まり。
キッチンの流し台の下に梅酒が置いてある。
味付け海苔が入っていた大きなガラス瓶で作られたお酒は
作ってから3年~4年経っているため、色も味も深みが増し、
市販のものよりかなり美味しく仕上がっている。
作るのは好きだけれど、あまり自分で飲むことがないため、
出来上がるといつも母に送っていた。
今回もボトルに詰め替えて、母にあげよう。
「よいしょっ」とビンを取り出し、テーブルの上に置いた。
ここで予想外の展開。
置いた瞬間、ビンが真ん中で割れ、上下真っ二つに。
当然、梅酒は全て流れ落ちた。
テーブルも床も梅酒の海。
母さん、梅酒なくなりました…一滴も。
普通なら「あ゙ぁぁ~」と慌て、タオルを探し…となるのだけれど
その時の私はやけに冷静だった。
ビンを見つめ、足元に広がる甘い香り漂う海を見つめ、立ち尽くした。
中身がこぼれたことよりも、なぜビンが割れたのか、そこが不思議でならなかったから。
「何で…テーブルに置いただけなのに…」
考えてみれば耐熱用でもないのに作る度に熱湯消毒をされ、
味付け海苔ビン君には過度のストレスがかかっていたに違いない。
我慢し、耐え続け、限界が来れば、ほんの小さな衝撃でも壊れる。
人間と同じ。
作る楽しさに気を取られ、ビン君がかかえていたストレスに
目を向けることもしなかった。
彼の苦痛も知らず、自分の趣味を楽しんでいた。
申し訳なかった…
反省、すでに遅し。
足元に海広がる。
年内のガラスごみの収集は数日前に終わっている。
ごみは全て回収してもらい、きれいな状態で正月を迎えようというごみ出し計画も
年末をゆっくり過ごすため早めに終わらせた大掃除計画も一気に崩れた。
振り出しに戻る。あ~ん
梅酒には1キロの氷砂糖が入っている。
それだけの糖分が入っているということは、拭いても、拭いても、ベトベトは続くのだ。
気長にやるしかない。
あきらめよう。
それから3日間、一日に何度も何度も拭き続けた。
ベトベトさんっていう妖怪がいたな…
「ベトベト」と「ベタベタ」はどっちがより程度が上かな…
「ベットベト」の方がより上かもしれない。
どうでもいい様々なことが頭に浮かんでは消え、
気付くと大惨事の前よりも床がきれいになっていた。
そうなると、
「これはこれでよかったのかもしれない…」
とさえ思うようになった。
「部屋の乱れは心の乱れ」と言うけれど、掃除をすると心にも変化が起こるのだ。
それから数日、部屋中に爽やかな梅の香りが漂っていた。
年明けのごみ回収日まで、ビン君はキッチンの片隅にたたずみ、正月を過ごし、
やがて旅立って行った。
形ある物いつかは壊れる。
梅酒も年月も無駄にしてしまったけれど、悪気はなかった。
仕方ない。
「あの時、もっとこうすればよかった…」
いつまでも後悔したところで先には進まない。
ビンが割れた衝撃とともに、私の中で燻ぶっていた古い何かが
解き放たれたような気がする。
年の始め、もう一度、一から出直そう。
気持ちもビンも新調し、今度はシソ酒を作ってみた。
どんな味に出来上がるのか、初めてだからよく分からない。
分からないから、興味も、期待度も日に日に増し、
またひとつ自分のレパートリーが増えるかもしれない喜びに包まれている。