「猫は逃げた」 2021年 日本
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監督 今泉力哉
出演 山本奈衣瑠 毎熊克哉 手島実優 井之脇海
中村久美 伊藤俊介 芹澤興人
ストーリー
レディスコミックでエロティックな漫画を描いている亜子(山本奈衣瑠)と、作家志望だったが結婚を機に週刊誌記者の仕事に就いた広重(毎熊克哉)は今や離婚間近の夫婦。
夫婦関係は冷え切っていて亜子は離婚届に署名するが、飼い猫カンタの親権問題が残っていた。
広重の勤め先には、亜子との離婚の原因となった浮気相手の若いカメラマン真実子(手島実優)がいた。
亜子担当の編集者である松山(井之脇海)は、亜子に好意を持ち肉体関係があった。
カンタには近所の住人の飼い猫ミミという恋猫がいた。
真実子は「猫なんかあげちゃえばいいじゃないですか」と言うが、広重は未練があるように首を縦に振らない。
真実子は煮え切らない広重に、亜子のほうも浮気しているのではないかと言い、離婚話が進まないのなら弁護士でも雇えばいいと話す。
亜子の原稿を受け取りにやってきた松山と亜子がベッドになだれこんだところ、カンタは開いていた窓から外へ出ていき、それを最後に戻ってこなくなった。
カンタがいなくなったものの、広重が離婚もしないので真実子はあきれていた。
仕事終わりに広重から誘われた真実子は従姉妹が家にいるからと帰っていった。
しかたなく帰宅した広重が家でお茶漬けを食べていると、亜子が漬物を出した。
松山が漬けた漬物だと話す亜子に広重は関係を問いただそうとしたが、けっきょく言えずに終わってしまった。
亜子は食後の広重に地酒を勧め、亜子と広重はカンタを拾った日のことを思い出していた。
広重が逃げようと思っていたと話し、亜子もそれに気づいていたと言う。
「私、結婚できてよかった」と言った亜子の足がつり、広重は要領よく亜子を介抱する。
一方、カンタは意外なところにいた。
寸評
ありそうな浮気話である。
これは私の想像ではあるが、たぶん広重は家庭を壊す気持ちなどなかったのだろうが、浮気相手の女性が本気になってしまったように思う。
気の強い妻はそれを知ってそれなら私もやってやると、若い男にモーションをかけて関係を持ったようにも思う。
映画監督が愛について語る場面がある。
彼は愛には3種類あり、一つはキリストの無償の愛アガペイであり、二つ目はアリストテレスの友愛フィリアで、三つめはプラトンの自己愛エロースであると言っている。
プラトニックラブはプラトンの愛ということで精神的なものと捕らえられがちだが、相手を追い求めるのがエロースなのだとも語っている。
劇中にこのような会話があること自体が面白い。
この映画はエロースの世界にいた男女四人を描いていたのだと思えてくる。
円満離婚に二人とも同意しているが、広重と亜子はそれぞれどこか未練があるのだろう。
その微妙な関係が見ていて微笑ましくもある。
ちょっとしたことで離婚話になってしまっているが、もともとは肩の凝らない間柄なのだ。
亜子はよく足がつるが、介抱にかけては松山よりも夫婦だった広重が長けていることで二人の関係を著している。
松山が亜子の介抱に至る経緯は爆笑もので、広重の場面への伏線となっている。
二人の間に隙間風が吹き、相手に対して不満がつのる様になっても、夫婦には二人で積み上げたものがある。
我慢を重ねている夫婦は別として、特に長年連れ添った夫婦ならなおさらだろう。
時間を前後する描き方も技巧的過ぎず適度なアクセントとなっている。
大詰めを迎え4人が対峙する場面が10分近い長回しとなっており、俄然盛り上がりを見せてきて面白い。
特に真実子の手島実優のタンカとも言える口ぶりに思わず笑ってしまう。
亜子の山本奈衣瑠との掛け合いも抜群の間合があり、松山の井之脇海も加わり上質のコントを見ているようだ。
女の強さを見る思いがするのだが、そこにいくとこのような場面になると男は情けない。
広重は何も言わないし、松山も影が薄い。
亜子と広重がハモってしまうところなんか大笑いである。
それを見て松山は亜子を諦めてしまうという傑作シーンの一つとなっている。
修羅場のシーンだが、ユーモアに満ち溢れていてシリアスだった映画が喜劇に転換していて、その変化が小気味よい。
そこから先は想像の範囲だし、後日談も予想された内容であるが、まとめとしては良かったのではないか。
猫も逃げ出す人間関係だが、「猫が逃げた」ではなく、「猫は逃げた」としたタイトルの妙がうかがえる。
ネコのカンタとミミは中々の役者ぶりであった。
ミミが亜子の家に来た時のジャレ具合とか、カンタとミミが再会する場面など気持ちをくすぐられる。
動物プロダクションの実力を知らされた。
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