
監督:塚本晋也
出演;塚本晋也 森優作 中村達也 リリー・フランキー 神高貴宏
ストーリー
第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。
田村一等兵(塚本晋也)は結核を患い、部隊を追い出されて野戦病院行きを余儀なくされるが、負傷兵が大勢いる病院では食料が困窮しており、数本のカモテ芋しか持たされていない田村は早々に追い出されてしまう。
部隊に戻ると分隊長に殴られ、入隊を拒否された田村は再び病院へと向かい、こうして駐屯地と野戦病院を行ったり来たりしているうちに、田村は病院の周囲をたむろする安田(リリー・フランキー)と永松(森優作)の2人組に出会った。
足を負傷している安田は、煙草をエサに永松を手下のように扱い、永松は田村の芋を奪い取ろうとする。
その夜、敵からの攻撃で野戦病院に火が放たれ、田村はあてもなく孤独に歩いて行く。
田村は無人の村と教会堂を見つけたが、そこへ男女2人が入って来たので、田村は彼らに銃を向けて現地語で「マッチをくれ」と頼んだところ、混乱した女は田村の言葉に耳を貸さずに叫び続け、やがて彼は女を撃ち殺し、男には逃げられてしまう。
教会の床下を外すと麻布の袋に入った塩があったので、田村はそれを持って村を出た。
田村は3人の日本兵に出くわし、所属していた村山隊が全滅したことを知らされ、さらに、レイテ島の全兵士はパロンポンに集合すべしとの軍令が入っていた。
塩に目をつけた伍長(中村達也)は、「ニューギニヤじゃ人肉まで食った」と話し、田村を仲間入りさせる。
パロンポンに向かう最中、路傍に転がる日本兵の死体は増えていき、そこで野戦病院で別れた安田と永松に遭遇したが、彼らは兵士に煙草を売りながら歩いていた。
夜、敵からの奇襲を受け、生き残った田村は丘の頂上で負傷した伍長を発見する。
寸評僕は戦後生まれだし、戦争の真の語り部も少なくなって、戦争の実態を知る手立ては限られてきた。
最後の回想シーンを除いて、全編戦場シーンで、しかもジャングルの中を彷徨する姿が捕らえられ続ける。
その映像は戦場とはこのようなものだったのだと思わせ、リアル感があると思わせるに十分なものである。
先ずは、肺病になって所属部隊と野戦病院のどちらからも拒絶された主人公の田村一等兵がジャングルをさまようシーンが続く。
鬱蒼としたジャングルに転がる無数の死体。
血だらけなんて当たり前で、体の一部分がバラバラになって転がっている。
田村一等兵は部隊から命じられて病院に行くが、たしかに肺病の田村一等兵はそこでは患者とは思えない状況が目の前にあり、部隊に引き返せばなぜ帰ってきたとぶん殴られる繰り返しである。
一貫して描かれるのは目を背けたくなるような死体の状況と、食糧不足による飢えの状況である。
イモが主食のようになっているが、それすらなかなか手に入らず、味方同士で奪い合う様子も描かれる。
レイテ戦などの南方戦線では戦死者よりも餓死者が多かったとも聞くから、まさにここに描かれたような状況が生じていたのだろう。
食欲は人間の持つ本能の一つだが、飢餓状況は人間を狂人にするのかもしれない。
貧困からくる飢餓状況が現在の発展途上国混乱の要因の一つであることがよくわかる。
パロンポンに向かう敗残兵が待ち伏せされて攻撃される場面では、兵士の腕がちぎれ、足がふっ飛び、脳みそや内臓まで飛び散る凄惨なシーンとなる。
さまようジャングル内に転がる死体や、上記のような目を覆うシーンに混ざって、時折挿入される美しい自然
の姿が印象的だ。
このような美しい自然の中で、なぜ悲惨な戦争を行わなければならなかったのかと言っているようでもある。
ジャングルに立ち上る野火は平和の象徴だ。
狂気の戦場だけに、登場する人間たちも狂気じみている。
戦場で戦っているうちに、みんな狂気にとり付かれていくし、すでに狂気を帯びている敗残兵がさまよっている。
田村一等兵は人肉食への嫌悪や、自分が狩られるかもしれないという恐怖を抱えつつ、田村一等兵自身も正気と狂気の狭間でもがき苦しむ。
その姿は人間の一面を残しているのだが、恐怖は時として殺すつもりのない人間を殺させてしまう。
田村一等兵はそのために一度は銃を棄てるが、上官に再び銃をあてがわれると拒絶することが出来ない。
人間の弱さでもある。
狂気の代表は安田と永松だ。
安田は永松を支配しているが、永松は淋しさから安田と別れることが出来ない。
彼等は猿と称して人肉を食っている。
人肉を食うなどとはウジ虫と同様だが、それでも空腹はそうさせてしまう。
田村一等兵は人肉を食ってしまいそうになる自分を恐れ、自分が殺されて新鮮な肉として供されるのではないかという恐れを抱くが、それは人間性の欠如でもある。
短い上映時間ながら、救いのない戦争の悲惨さを描き続けた秀作だ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます