「ロストケア」 2023年 日本
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監督 前田哲
出演 松山ケンイチ 長澤まさみ 鈴鹿央士 坂井真紀
戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津 梶原善 やす(ずん)
岩谷健司 井上肇 綾戸智恵 藤田弓子 柄本明
ストーリー
ケアセンター八賀の職員、斯波宗典(松山ケンイチ)は若くして白髪だらけな風貌ながらとても献身的な介護士。
親切な仕事でセンターの利用者からも好感を持たれ、新人の由紀(加藤菜津)や同センターの同僚真理子さん(峯村リエ)、センター長の団元晴(井上肇)からも信頼される好人物だった。
ある日、利用者の自宅でその父親とセンター長である団が亡くなっているのが発見された。
借金があり金にだらしなかった彼は事務所にある利用者の合鍵を持っており、窃盗目的で犯行に及び、その最中に足を滑らせて階段から落ちての事故死である可能性が濃厚で、検察はその線で早期の解決を図るように担当検事である大友秀美(長澤まさみ)に指示していた。
しかし屋内に落ちていた注射器の存在だけが不明の中、犯行近くの防犯カメラ映像から斯波がアリバイの証言と異なる行動をとっていたことが判明する。
彼を取り調べると、利用者が心配で利用者宅へ赴いた所、団と鉢合わせとなって口論の末にもみ合い、階段から転落死させてしまったことを語る。
正当防衛を主張する斯波宅の家宅捜索を行い、3年間分の介護ノートを見つけたが、そこには心を尽くした介護の様子が記されていた。
それとは別にケアセンター八賀での利用者の死亡件数が県内平均よりも多いことがわかり、介護ノートと合わせて調査を行うと、斯波の休日に亡くなることが多いことと、別の利用者宅から盗聴器を見つけたことから彼を追及すると、斯波は殺人を認めて介護している家族のためであると語り42人の老人を殺害したと自供した。
最初の一人は斯波自身の父親(柄本明)だった。
数年前に斯波は認知症が進んで行く父親の介護のために職を辞めたが、父親の年金だけでは食べて行けず生活保護も受けられず、困窮の果てに死にたがる父親を手にかけた。
それが、介護老人を殺すことは救いだという彼の思想の始まりだった。
寸評
家族の絆のために生じる介護問題に一石を投じている作品である。
まず介護士たちの献身的な姿が描かれ、その代表者が斯波宗典で、新人で見習の由紀は明るく親切なそんな彼を尊敬している。
彼らは訪問介護していた羽村洋子の母親の葬儀に出かけた帰りに居酒屋に立ち寄る。
そこでベテランらしい女性職員の猪口真理子が「良かったんじゃない、娘さんもまだ若いし束縛から逃れて再婚も出来るかもしれない」というようなことを述べる。
その発言に由紀はむくれるが、介護に疲れ切った家族なら助かったと思うだろう。
僕は母親の介護につきっきりではなかったが、同居していた母親との関係に手を焼いていて、亡くなった時にはホッとした気持ちが湧いたことも事実である。
親子だからという厄介なことから逃れられて肩の荷が下りた気がしたのだが、描かれている介護にかかわっている家族も同じような気持ちになったのではないか。
介護者がなくなったと後の梅田美絵(演・戸田菜穂)は疲れ切っていたのに、子供を自転車に乗せ笑顔を見せて颯爽と走っている。
同様に羽村洋子(演・坂井真紀)も明るさを取り戻し、再婚を考えられる人とめぐり逢っている。
斯波は家族と言う絆が介護現場を悲惨なものにしていると言う。
彼は殺したのではなく助けたのだと言うのだが、その考え方も間違いではないのかもしれないと思ってしまう。
大友検事の長澤まさみが、斯波の松山ケンイチと対峙する場面では、検事の大友が斯波に論破されているように思える。
それは介護問題に手を差し伸べない国を非難しているように見える。
それを補うのが綾戸智恵の老万引き犯が大友に刑務所に入れてくれと懇願するシーンだ。
彼女は生活苦に苦しんでいて、食事があり医療の面倒も見てくれる刑務所の方が良い暮らしができると訴えて大友を困らせている。
貧困問題に対する国への抗議だったように思う。
大友の母親(演・藤田弓子)は老人ホームに入っていて、認知症が出てきている。
裕福な大友は施設に入れて介護から逃れることが出来ているが、皆がそうできるわけではない。
一人で介護に係わっている人の苦労は計り知れない。
父親の介護に掛かり切りにならざるを得なかった斯波は働くことも出来ず、生活保護を申請するが受け付けてもらえず冷たくあしらわれる。
介護は一人で背負ってはいけないと思うが、しかし家族が介護のメインであることから逃れることは出来ない。
あなたがしてほしいことを、あなたが行いなさいというキリストの言葉が斯波の行為に重くのしかかる。
裁判の傍聴人に「母親を返せ!」と叫ばせているのは、斯波を犯罪者として決定づける為だったのだろうが、僕はむしろ斯波は遺族のすべての人から感謝されながら死刑判決を受けた方がメッセージとして強烈だったように思う。
斯波が言うように介護士は不足している。
僕の為にも、待遇改善を図り将来に備えて欲しい。
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