おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

眠狂四郎 勝負

2019-12-19 10:20:28 | 映画
「眠狂四郎 勝負」 1964年 日本


監督 三隅研次
出演 市川雷蔵 加藤嘉 藤村志保
   高田美和 久保菜穂子 成田純一郎
   丹羽又三郎 五味龍太郎 須賀不二男

ストーリー
愛宕神社の階段で参拝者の補助をする少年。
少年の父は江戸で評判の武芸者であったが、道場破りの榊原に殺され、少年は境内の茶屋で寝泊まりしながら独り生きていたのだった。
少年を不憫に思った狂四郎は、たまたま知り合った老侍を立会人に道場破りを打ち殺す。
その夜居酒屋で老侍と酒を酌み交わす狂四郎。
別れを告げ先に店の外に出た老侍は赤座軍兵衛と名乗る侍に襲われる。
一向に風采のあがらないその老侍が朝比奈という勘定奉行の職にある男と聞いて、助けに入った狂四郎は彼に興味をそそられた。
狂四郎の耳には幾つかの興味ある事実が入った。
家斉の息女高姫は堀家に嫁ぎながら、早くから夫を失い奔放で驕慢な生活をしていること、そして、用人主膳は札差、米問屋などに賄賂とひきかえに朝比奈の抹殺を約していること。
又赤座も朝比奈を狙っていること。等々。
ある日、朝比奈を警護していた狂四郎を榊原の弟が襲いかかる。
そこに遊楽帰りの高姫の列が通りかかり、狂四郎はわざと高姫に榊原の槍が向かうように仕向けた。
屋敷に戻り怒る高姫に主膳が朝比奈の企みだろうと吹聴する。
そして朝比奈の命を奪えと命ずる高姫に策を講じていると告げる。
主膳の命に、よりすぐりの殺人者が揃った。
赤座、増子、榊原、海老名それに、キリスト教の布教に囚われている夫を救うため、主膳の膝下にある采女が加わり、動機も武術も異る五人は、狂四郎の身辺に危害を加えようと立ち廻った。


寸評
市川雷蔵は貴公子である。
気品がありスマートで、どこかに色気を有し姿勢がピンとしているのが貴公子のイメージだろう。
同じように色気を有していても、恰幅の良い長谷川一夫などは貴公子と呼ぶには抵抗がある。
振り返ってみれば僕の知りうる限りの日本映画界にあって、およそ貴公子と呼べる男優は市川雷蔵を置いて他にはいなかったのではないかと思う。
眠狂四郎はそんな雷蔵の代表的なシリーズ物で、雷蔵のイメージと魅力がいかんなく発揮されている。
敵の闘魂を奪い、一瞬の眠りに陥らせて、一刀で切り下げるという円月殺法の立ち回りを実現して見せたのが市川雷蔵の眠狂四郎であったと言える。
シリーズを重ねていくと狂四郎はどんどん虚無的になっていくが、この作品ではまだ人情味が残っていてニヒル感を前面に出していない。
狂四郎と加藤嘉の勘定奉行である朝比奈老人との交流がほのぼのとさせているし、そば屋を手伝っている高田美和のつやとの関係も狂四郎を孤独な男にさせていない。
異国人でキリスタンの夫を救おうとする藤村志保の采女によって、狂四郎は異国人との間に生まれた男ではないかと出生の秘密が語られているのも全体像を知る手助けとなっている。
人情話も含めてシリーズの中では一番味わい深い作品だ。

11代将軍徳川家斉は特定されるだけで16人の妻妾を持ち、男子26人・女子27人を儲けたが、成年まで生きたのは28名だったと言われていて、養子に入ったり嫁いだりした藩には禁じられたはずの幕府から大名への無利子貸与である拝借金が家斉の子女のためという口実で行われていたらしいので、ここで登場する高姫の一件もあながち作り話ではなさそうだ。
もっとも実在していた13女として名前の見える高姫はすぐに死亡しているので別人と言うことになる。
高姫は驕慢なバカ姫で、その姫に官僚ともいえる側用人の白鳥主膳がゴマスリ男として仕えている。
主膳は商社や銀行のトップと言える町人からわいろを受け取り、目障りな潔癖財務大臣ともいえる勘定奉行の朝比奈を失脚させようと企んでいる。
現代版に置き換えるならば、さしずめそんな構図である。

狂四郎、朝比奈を亡き者にせんと刺客となってやってくるのが五人の腕自慢達。
勝新太郎の座頭市に対する平手酒造のような一対一の構図ではない。
兄を殺された榊原はハナから狂四郎の敵ではない。
手裏剣の名手増子は色仕掛けで高姫に近づいているが、捕らわれた狂四郎にその手裏剣によって殺される。
神崎は入浴中を襲うが、采女の助けを受けた狂四郎の刃に倒れる。
赤座は狂四郎との対決に命を燃やすが病気持ちで狂四郎の敵ではない。
どうやら海老名と言う浪人が一番強そうだが一騎打ちは狂四郎の圧勝と言う感じがする。
最後の戦う相手はやはり狂四郎と互角でないと面白くない。
結局采女の願いは叶わなかったが、それを告げる狂四郎を無音でとらえて立ち去らせている。
三隈研次の演出は手堅いと感じさせた一遍である。


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