「五輪の開催について大きな鍵を握る米国でも、東京には行きたくないという選手が出てきていると聞いています。日本の関係者を含め、現実を直視せずに『何が何でもやるんだ』『とにかく頑張る』という中身のない姿勢はお気楽としか言いようがありません
>何が何でもやるんだ
このメンタリティーが、戦前の日本を破滅に導いたのち、
何もかわってませんね!
東京五輪「今年の開催はどう考えても無理」と専門家 「2023年延期」も難しい?〈週刊朝日〉
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京五輪の今夏開催について懐疑的な見方が広がっている。1年延期が決まった昨年のように、聖火リレーの国内スタート(3月25日)までに開催の行方が決まりそうだ。ただ、英タイムズ紙が報じた2032年への“延期”は実現に向けて課題が多い。
【2032年は未定 最近と今後の五輪開催都市一覧はこちら】
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「今夏の開催を改めて確認した」
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は1月28日、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話協議した後の記者会見で、そう述べた。無観客も想定しているとしたが、大会の安心・安全の基準を問われると、 「そんな判断の基準があるかというと、ない」
五輪開催決定権を持つIOCに発言内容をチェックされるからだろうか。1月下旬に掲載された西日本新聞のインタビュー記事で、五輪の行方について「聖火リレーが出るかどうか、延ばすかどうかで自然に分かる」と答えたような“リップサービス”はなかった。
今夏の通常開催はもはや現実的ではない。医療体制は逼迫(ひっぱく)し、自宅や宿泊施設で療養中に亡くなる感染者が出ている。2月7日期限の緊急事態宣言は延長される見込みだ。
五輪開催に必要な医療スタッフは1万人程度。1年延期で新たに必要になった経費は2940億円。こうした人員やお金を日々の新型コロナ対策に充ててほしいという声が相次いでいる。1月23、24日の朝日新聞の世論調査で、再延期か中止と答えた人は86%に上った。
「夏にも流行が待っているのは昨年の例を見てもわかること。今年の開催はどう考えても無理です」
そう指摘するのは医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広氏だ。注意すべきは夏の状態をどう見るかだと強調する。
「コロナは季節変動する風邪ウイルスで、流行状況はおおむねわかっているのです。冬場に流行し、夏に小さな流行が起きる。昨年の第2波は真夏で、第3波が10月から立ち上がってきて、ちょうど今頃からピークアウトし始めました。夏に小さなピークがあるという、小流行の想定が抜け落ちているように思います」
肝心のワクチン接種も日本は出遅れている。
それでも、菅義偉首相は29日、世界経済フォーラムの会合「ダボス・アジェンダ」で、東京五輪について「世界の団結の象徴」と述べた。最大の選手団を派遣する米国のバイデン大統領と28日未明にした電話協議では五輪を議題に乗せられなかったが、別の形で開催意欲を世界に示した。
開催にこだわる理由の一つが、訪日外国人客(インバウンド)の回復だ。ただ、コロナ禍が収束しなければ、その数は限られる。しかも、みずほ総合研究所の経済調査部主任エコノミストの宮嶋貴之氏は指摘する。
「12年ロンドン五輪時に英政府がインバウンドについての検証を行っています。混雑や宿泊費高騰などへの懸念から、五輪以外の目的の観光客は増えず、むしろ減りました。過去の五輪開催国を見ても、五輪開催と外国人訪問客数に強い相関があるとは思えず、五輪でインバウンド特需があると考えるのは誤解です」
さらに無観客開催ならインバウンドはゼロ。900億円のチケット収入もなくなり、税金で補う可能性がある。
再延期が現実的な選択なのか。元都職員で、東京五輪招致推進担当課長だった鈴木知幸氏(国士舘大学客員教授)は「来年への延期はまずありえない」と話す。
「五輪延期の際に世界陸上や世界水泳を延期してもらったのに、もう1年延期を頼めば、さすがにIOC構成メンバーの国際競技連盟であっても受け入れられないでしょう」
次回24年大会への“スライド”を求める声もある。だが、24年はパリ、28年はロサンゼルスに決定済み。パリは1924年大会以来1世紀の節目として手を挙げた。ロサンゼルスはパリに譲る形で28年に落ち着いた。決定は動きそうにない。
タイムズが21日に報じた、「日本は開催都市が決まっていない32年大会への立候補を目指す」ことが最善の案に見える。
ただ、32年大会招致を目指す都市・国は多い。韓国・北朝鮮(共催)、重慶・成都(中国)、インド、インドネシア、カタール、ブリスベン(オーストラリア)などだ。さらに、ブダペスト(ハンガリー)も立候補を目指すことをAP通信が28日伝えた。
鈴木氏は、32年案について否定的だ。
「32年の開催地にIOCが期待するのは開催したことがない大国インドやアフリカ大陸。平昌五輪の後にバッハ氏が韓国と北朝鮮の共催を仕掛けた思い入れもあります」
32年大会の直前となる30年冬季大会は札幌が有力候補。招致レースはこれからだが、同じ国による2大会連続開催は東京には不利に働く。
鈴木氏は「無観客を公言すべき」と言う。 「中止を避けたいIOCは、無観客でも開催してほしいとほのめかしています。チケット収入が無に帰すことなどに躊躇(ちゅうちょ)する日本側が折れて、自ら言いだすのを待っている状態です」
スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は、今回の五輪開催をめぐるドタバタについてこう語る。 「五輪の開催について大きな鍵を握る米国でも、東京には行きたくないという選手が出てきていると聞いています。日本の関係者を含め、現実を直視せずに『何が何でもやるんだ』『とにかく頑張る』という中身のない姿勢はお気楽としか言いようがありません。世論との隔たりは悲劇的です」
(本誌・秦正理) ※週刊朝日 2021年2月12日号